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ようやく見えてきた光明。浦和ユースのキャプテンDF大野海翔が目指すクラブへの「恩返し」

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浦和レッズユースの精神的支柱。キャプテンを務めるDF大野海翔(6番)

[7.29 日本クラブユースサッカー選手権U-18大会ラウンド16 G大阪ユース 0-2 浦和ユース アースケア敷島サッカー・ラグビー場]

 キャプテンだからこそ、襲われ続けていた重圧があった。だが、それも良い意味で吹っ切れたのかもしれない。すっきりした表情を浮かべながら、口にした言葉がそれを感じさせる。「やっぱり初戦でああいうことがあったから、意識を変えることができたのかなって。あの試合でチームにも『本当にやらなきゃ勝てないんだぞ』という気持ちができたのかなと思います」。“あの試合”を経た今、浦和レッズユースのキャプテンを任されているDF大野海翔(3年=浦和レッズジュニアユース出身)の視界に掛かっていた靄は、少しずつではあるが、確実に晴れ始めている。

 今シーズンはとにかく苦しい時間が続いていた。高円宮杯プレミアリーグEASTでは、ホームで迎えた開幕戦で青森山田高に0-4と完敗を喫すると、ここまで8戦未勝利。もうあと数分守り切れば勝利を掴めた試合で、終盤にPKを献上して引き分けた試合もあった。

「何か変えなきゃと思うんですけど、何かを変えてもまた負けるという流れで、うまく行っていても、勝てそうになったら結局また同点、みたいな。それでも自分が下を向かないように、常に前を見て声を掛けるということは意識していましたけど、結構キツい時間ですよね」。大野はなかなか好転しない状況に、もやもやした想いを抱えていた。

 臨んだ今大会の初戦。カマタマーレ讃岐U-18との一戦は、まさかの0-3で完敗。「実際プレミアでも勝てていないですけど、それ以上にショックが大きかった感じですね」と大野。失意の中にあった選手たちに、池田伸康監督はサッカーの本質を問い掛ける。走ること。逃げない事。戦うこと。映像も交えたミーティングで、ようやくチームに変化の兆しが現れる。

「監督から『本当に球際とか、細かいところに目を向けていないから勝てないんだぞ』という強い言葉を受けて、『自分もやらなきゃ』と、もっと覚悟を持ってやれたのかなと思います」。キャプテンの覚悟と、チームメイトの覚悟が交差したグループステージ2戦目。アルビレックス新潟U-18に3-0と快勝した彼らは、3戦目でもベガルタ仙台ユースに2-0と勝ち切り、ラウンド16への進出を決めてしまう。

「自分では『一番先頭に立って戦う姿を見せていこう』とは思っていたんですけど、やっぱり初戦はできていなかったので、2試合目からはよりチームメイトにも自分がやっている姿を見せて、『これぐらい行けよ』みたいなところを見せつつ、みんなを鼓舞するような、ポジティブな声掛けを意識していました」。

 勢いは止まらない。プレミアWESTでも強さを発揮しているガンバ大阪ユースとのラウンド16も、個の能力の高い相手に組織で粘り強く対応し、2-0と3戦連続の完封勝利。「抜かれても、最後のシュートの所では身体で行くというのは、全員で意識できていたのかなと思います。相手はプレミアでもいっぱい点を獲っているチームなので、そこをゼロに抑えたというのはとても自信になりましたね」。大野は守備陣も含めたチームの一体感に、手応えを得つつある。

 次の対戦相手は、同じプレミアEASTに所属するFC東京U-18に決まった。「次のFC東京にはプレミアでも負けていますし、やっぱり勝ち切るというのを目標にして、私生活でも謙虚に、ホテルでの過ごし方も考えながら、そういうところに目を向けて、しっかり準備していきたいです」。ただ、大野はチームメイトの性質も熟知しているがゆえに、改めて気を引き締めている。

「3連勝していて、しかも無失点ということで、結構雰囲気は良いと思うんですけど、そこで調子に乗らないように、謙虚にできたらなと思います。ちょっと楽しくなっちゃうと“アレ”な選手が多いので(笑)、私生活の所からしっかり抜かないようにと。明日もオフなので、気持ちを切らないように、というのは声を掛けていきたいですね」。頼もしいキャプテンが、浦和ユースを束ねている。

 確実に先は見えてきた。強いクラブ愛を持つ大野は、決意をこう語る。「自分はジュニアの頃からレッズにいて、いろいろなものを与えてもらってきました。そういう意味でもこの大会の結果は大きな恩返しになると思うので、全国優勝を目指してやっていきたいですね」。

 苦しい時間を知っているだけに、同じ想いをしたくない気持ちは人一倍強い。このまま決勝まで走り切る覚悟が、大野には既に整っている。

(取材・文 土屋雅史)
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