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初めて臨むAチームでの公式戦が全国決勝。名古屋U-18GK川上翼は“3年目のデビュー戦”で日本一に!

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Aチームの公式戦初出場で日本一に貢献した名古屋グランパスU-18GK川上翼

[8.4 日本クラブユース選手権U-18大会決勝 札幌U-18 0-2 名古屋U-18 正田醬油スタジアム群馬]

 配布された試合メンバー表。名古屋グランパスU-18の“出場選手”の一番上に、その名前は書きこまれていた。決断を下した古賀聡監督が、試合後に衝撃的な事実を明かす。「公式戦初出場です。3年間で今日が初めてのAチームの公式戦でした」。正守護神のGK宮本流維(3年)がコンディション不良で欠場を余儀なくされた中、スタッフ陣が日本一の懸かったファイナルの舞台に送り出したのは、3年生にして、Aチームの公式戦初出場となるGK川上翼(3年=津ラピドFC出身)だった。

 心づもりはできていたという。「今までベンチには結構入ったりしてきたので、準備はしてきたつもりですし、ここまで流維のおかげで勝ち上がって来れたというのも大きかったので、逆に『決勝は自分の力でチームを勝たせよう』と思いました」。

 1年時は三井大輝(名古屋グランパス)、東ジョン(栃木SCへ育成型期限付き移籍中)という2人の強烈な先輩GKが揃う状況下で、高円宮杯プレミアリーグWESTでは、宮本が4試合、川上が5試合でベンチ入りを経験。同学年の2人で切磋琢磨しながら、公式戦の出場を目指す毎日が続く。

 だが、2年生に進級しても、ただでさえコロナ過で試合の数が減少した上に、東と年代別代表にも選出されている宮本の壁は厚く、Aチームでの出場機会は巡ってこない。2年ぶりの開催となった今シーズンのプレミアリーグでも、定位置はベンチ。先月はGK北橋将治(2年)にプレミアデビューも先を越されたものの、懸命に自分と向き合ってきた。

 やはりベンチスタートだった今大会の準決勝。記者席ではその存在が話題になっていた。とにかく声が出る。ピッチ上の誰よりも、あるいはスタジアム中の誰よりも、チームメイトを鼓舞する川上の声が、夕闇に包まれた会場に響き渡る。とある代表スタッフが「あの子は凄いね」と思わず感嘆の言葉を漏らす。

「やっぱりベンチにも入れていない選手だったり、ここに来れていない選手がいるわけで、ピッチで戦っている選手じゃなくても、『自分たちも戦っているぞ』というのを示したかったという想いと、本当にチーム一丸となって、ピッチとベンチ一緒になって戦っているという気持ちで『自分が一番声を出してやろう』と思っていました。準決勝まで来たので、ちょっと熱くなって、みたいな感じでしたね(笑)」

「ちょっと池田伸康監督との“バトル”もありましたね(笑)」と早稲田大学時代の1年後輩に当たる浦和レッズユースの指揮官を引き合いに出した古賀監督も、チームスタッフも、その姿勢を見ていなかったはずがない。楢崎正剛・U-18GKコーチも含め、自信を持って川上を大舞台に解き放つ。

 優勝を決めた試合後。チームキャプテンのMF加藤玄(3年)、グラウンドマネージャーのFW真鍋隼虎(3年)、ムードメーカーのDF伊藤康太(3年)が次々と優勝カップを掲げると、ずっと宮本のユニフォームを握りしめていた川上が“4人目”に指名される。

 勢いよく、カップを掲げた川上の“背後”はノーリアクション。ここまではよく見る光景だが、その後が秀逸だった。まるで“背後”を逆に黙殺するかのように、カメラを構える報道陣に近付きながら大声でガッツポーズを繰り返す。当然これには“背後”も大爆笑。彼が抱えてきた苦悩も、真摯に練習を積み上げてきた努力も、みんなが分かっているからこその4人目。この男のキャラクターが、短い時間に凝縮されていた。

「Aチームの試合も今日が初めてということで、本当に緊張していましたし、最初はうまく行くかどうかわからなかったんですけど、自分が後ろからしっかり注意を促して、チーム1つとなって守れた結果がこういう無失点に繋がったのかなと思っています。正直自分の見せ場というのはあまりなかったんですけど(笑)、本当にみんなに助けられて、日本一を掴むことができて嬉しかったですし、キーパーは本質として失点しないことが一番だと思うので、そこに関しては2年半で積み上げてきたモノが出せたかなと思っています」。

 名古屋に帰れば、また熾烈なポジション争いが待っている。「流維も戻ってきますし、自分は流維の代役として出ただけなので、しっかりレギュラーの座を掴み取るために、日々の練習から流維を追い越せるように、また試合に出られるように、頑張っていきたいと思っています」。

 次は“2試合目”を実現させるため、そして12月の決戦後には再び“4人目”に指名されるため、川上は最高のライバルたちとともに、日常を積み重ねていく。

(取材・文 土屋雅史)
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