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指揮官が押した2つの録画ボタン。青森山田を追い詰めた米子北は、さらに強くなって選手権でリベンジを

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準優勝の米子北高も胸を張っていい(写真協力=『高校サッカー年鑑』)

[8.22 インターハイ決勝 米子北高 1-2(延長) 青森山田高 テクノポート福井総合公園スタジアム]

 喜び。怒り。哀しさ。楽しさ。すべてが詰まった9日間だったのではないだろうか。こんな経験はなかなかできるものではないが、それもすべては自ら勝ち獲ったからこそ。最後に突き付けられた悔し過ぎる敗戦は、絶対に大きな成長の糧になる。

「この大会を通じて、ギリギリで追い付いたり、ギリギリで逆転したり、逆に追い付かれたり、何かサッカーの怖さだったり、喜びだったり、そういうのを最後の最後も同じような形で感じました。ただ、1試合1試合成長することができましたし、この負けで彼らがまたさらに成長してくれれば。冬がありますので、また選手権に繋げられればなと思います」(中村真吾監督)

 2021年、夏。米子北高(鳥取)は確かに、強かった。

 そもそも、初戦で姿を消していてもおかしくなかった。帝京高(東京)と対峙した1回戦は、常に先行される展開。最後は後半アディショナルタイムのラストプレーでMF中井唯斗(2年)が同点弾を叩き込み、土壇場で生き返ると、PK戦では相手の6人目をGK山田陽介(3年)がストップ。まさに薄氷の勝利を収める。

「これで強くなってほしいなと。勝っても負けても、去年は成長する場がなかったじゃないですか。今回は成長する場があるから、それこそ冬にも繋がるし、来年にも繋がるし、将来にも繋がるし。『勝っても負けても成長しよう』というのは言い続けていたので、最後にそれが勝ちに繋がったことで、『勢いに乗ってくれたらいいな』なんて期待はしていますけどね」。試合後に自分のチームを去年、今年、来年と“縦軸”で語った中村監督の言葉が、印象的だった。

 そして、米子北は勢いに乗った。2回戦の東海大山形高(山形)戦を鮮やかな逆転勝利でモノにすると、続く日章学園高(宮崎)戦は、またもPK戦を制してベスト8へと勝ち上がる。年代別代表選手も擁し、今大会も3試合で12得点をマークするなど、優勝候補の一角に挙げられていた神村学園高(鹿児島)との準々決勝は、完勝に近い内容で3-1と勝利。準決勝の星稜高(石川)戦は2点のリードを後半アディショナルタイムに吐き出しながら、さらにそこからMF牧野零央(3年)が決勝弾を叩き出し、12年ぶりのファイナルへと駒を進めてきた。

 決勝のステージも、主役は米子北だったと言っていい。圧倒的な実力で相手をねじ伏せ、周囲の予想通りにここまで登ってきた青森山田高(青森)を向こうに回し、前半10分にPKで先制点を奪うと、以降も粘り強い守備を披露しながら、2点目を奪えるようなチャンスも作り出す。

「非常に強いチーム、王者ですので、現時点でのチームの力を発揮して、どこまで戦えるかというところを気負わずに、思い切って戦おうという話をしました」(中村監督)。5試合で彼らが纏ってきた自信に基づく力は、絶対王者を追い詰めるところまで確実に成長していた。

「悔しいという気持ちもありますけど、日本一のレベルを感じることができました。手の届かない所にあると思っていたんですけど、全然そんなことはなくて、十分通用した部分もあったので、そこはこれからトレーニングで突き詰めて、次は選手権でリベンジできるようにトレーニングからやっていきたいと思います」(佐野航大)「青森山田は大会を通して凄く迫力のあるチームだと思っていて、実際に戦ってみてもそうだったんですけど、全然やれる部分もありましたし、勝っている部分もあると思うので、やれた部分や勝っている部分をもっと伸ばしていきたいなと思います」(鈴木慎之介)。

 決勝まで勝ち上がって来たから、青森山田と対戦できた。青森山田と対戦できたから、自分たちの現在地も確認できた。結果は準優勝だったが、間違いなくチャンピオンを最も苦しめたチームだという事実には、大いに自信を持っていい。

 試合後。チームの輪から1人だけ離れた中村監督は、そっとスマホ動画の録画ボタンを押す。視線の先にいたのは、優勝カップを掲げ、日本一の歓喜に浸っている青森山田の選手たち。涙で滲んだ自分の視界からの景色も忘れないために、心の録画ボタンも、一緒に押した。

「アレはもう忘れないように撮っておいて、アイツらがいつか油断した時に見せてやろうかなと思います(笑)」

 この指揮官がいる限り、米子北は絶対に、まだまだ強くなる。

(取材・文 土屋雅史)
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