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データも裏付けたDF冨安健洋の凄み。移籍交渉の場でも役立つ「テクノロジー活用」

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 トップアスリートのマネジメント業務を行う株式会社UDN SPORTSは今年5月、サッカーのデータ配信・解析サービス『STATSBOMB(スタッツボム)』社とのパートナーシップをアジアで初めて締結した。ゲキサカでは今回、仲介人の藤田邦広氏のインタビューを実施。移籍交渉の場での活用法などを聞いた。


 2015年春、国際サッカー評議会(IFAB)が行った競技規則の改正により、それまでは医療用にのみ認められていたウェアラブル端末の戦術的使用が可能となった。続いて18年夏のロシアW杯からは、ピッチ上で取得したデータをテクニカルスタッフがリアルタイムで使用することが可能に。そこからは一気にサッカー界でのテクノロジー活用が進んでいった。

 その後、いまでは個人やチームのデータ収集・分析がますます進み、選手本人が自らのデータを深く知っておくことも必要な時代に。選手は数値に裏付けられた自己分析を行うことでパフォーマンス向上につなげたり、新たなキャリアを切り開いていくためのアピール材料にしたりと、多岐にわたる活用をしているようだ。

 そうした中、UDN SPORTSはイギリスに拠点を構えるデータ企業『STATSBOMB』社とのパートナーシップ契約を締結。一般的なスタッツであるシュート数やデュエル数などの他、相手へのプレッシャー、位置ごとのプレー成功率、シュートインパクト時のボールの高さなど、3000以上の細かいデータを得ることで、選手の特徴を把握するのに役立てているという。

「海外では個人の分析や個人のデータ分析が急速に進んでいる中で、個人が自分のデータを自分で持っていて、それを使って交渉をするという事例もあると聞いています。近い将来、日本でもそういったことが出てくるかもしれないですし、僕らとしてもデータ収集・分析が非常に重要になるんじゃないかと思っていて、たとえばこれを所属選手に伝えて、少しでも選手個人のパフォーマンスが向上できるようディスカッションできれば、クラブへの貢献度も上がるんじゃないかと考えています」(藤田氏)。

 たとえば同社契約選手のDF冨安健洋(ボローニャ→アーセナル)のデータを紐解くと、ボール奪取率、パス成功数、インターセプト数といったディフェンダーにおいて重要な数値で、セリエA平均を大きく上回っていることがわかる。また「シミラー・プレーヤー(Similar Player)」という検索ツールで特徴の似ている選手を探すと、DFハリー・マグワイア(マンチェスター・U)、DFジュール・クンデ(セビージャ)といった錚々たる顔ぶれが登場。世界トップクラスのディフェンダーに肩を並べていることの裏付けが得られる。


 もっとも冨安のように世界のトップ・オブ・トップを目指す選手になると、こうした集計データが移籍交渉の場で効果を発揮することはそれほど多くはないという。すでに日本代表やセリエAでのプレーで注目を集めているため、基本的なデータは各クラブが保持していることに加え、獲得したいクラブはさらに詳細なスカウティングを独自で行うからだ。

 その一方、まだ世界に見つかっていない国内プレーヤーの売り込みでは本領を発揮する。

 たとえば海外移籍を模索しているアタッカーがいたとして、統計データの似ている選手の所属チームに狙いを定めておくことで、もしその選手が移籍した場合に迅速に交渉が進む可能性がある。また、前もってアプローチを仕掛けておけば、さらに先回りしてコミュニケーションを進めることが期待できるようだ。

「似たようなデータの選手をすでに起用しているクラブに対して、その選手との比較を出して提案すると、向こうのクラブからしても分かりやすいですよね。その選手が移籍した時に話があれば早いですし、こっちの選手のほうが優れているよと伝えることもできる。また早めに言っておくことで向こうのクラブも興味を持って映像を見てくれます。代表のトップ・オブ・トップでプレーしている選手はよく知られていますが、こちらから提案しないと知られていない選手も多いので、しっかりとアプローチするのが大事だと思います」(藤田氏)。

 こうした移籍交渉のロジックを積み重ねている欧州のクラブは、獲得したい選手の基準も明確だという。

「求めている選手像がわかりやすいですよね。サイズもそうですし、空中戦が強いとか、左足でつなげるとか、アジリティ系なのか、技術系なのか……と。その時にデータを使いながら提案をしてあげられると、すぐに成功するとまでは言わないですけど、説得力が増すと考えています」(藤田氏)。

 そうした明確なニーズに応えるためにも、データが不可欠というわけだ。藤田氏は「これからますます活用法を広げていって、個人のパフォーマンスの向上でクラブでの活躍につながったり、新たなキャリアをつなげていく手助けになればうれしいです。またファンの方々がデータを通じて新しいサッカーの楽しみ方を見つけていければいいですね」と展望を語った。

(取材・文 竹内達也)
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