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ようやく訪れたプレミアスタメンデビュー。横浜FCユースGK松野凌大が踏み出した大きな一歩

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プレミアでのスタメンデビューを飾った横浜FCユースGK松野凌大

[10.9 プレミアリーグEAST第14節 浦和ユース 0-1 横浜FCユース 駒場]

「緊張するかなと思ったんですけど、昨日は意外とぐっすり寝れました(笑)。でも、実際にグラウンドに着いてみると結構気持ちが昂るというか、緊張はしましたね」。

 それもそのはず。この日がプレミアリーグでのスタメンデビューだったのだから、緊張しないはずがない。ただ、自分にできることは分かっている。いつも怠らなかった準備の成果を見せるだけ。横浜FCユース(神奈川)のGK松野凌大(3年=横浜FCジュニアユース戸塚出身)は胸を張って、まっさらなピッチへ歩みを進めていく。

 最高学年になる2021年。プレミアリーグに挑むチームの中で、自分が守護神として活躍するイメージを膨らませてきた。だが、シーズンが始まる前の負傷の影響もあって、開幕から1年生のGK西方優太郎がゴールマウスを任されることに。復帰しても松野の定位置はベンチスタート。第4節の市立船橋高(千葉)戦こそ西方のケガもあって、後半のアディショナルタイムからピッチに登場したものの、次節からは再びサブに。スタメンでの出場機会は巡ってこない。

 西方の実力は認めているものの、やりきれない想いを抱えていたことは想像に難くない。「1年生にスタメンを取られて、不甲斐ない想いもしましたし、『自分は何をやっているんだ』という気持ちが強くて……」。結局前期の9試合が終わって、スタメン出場はゼロ。悔しさと情けなさが湧き上がってくる。

 必死に気持ちを切り替えようと試みても、そう簡単なことではない。だが、改めて懸命に自分自身を見つめ直す。「矢印がいろいろなところに向いたりとか、サッカーが嫌いになりそうな時期もあったんですけど、やっぱりラスト1年ですし、やるのもやらないのも自分次第だと思って、『やり続けていれば絶対にチャンスは来るから』といろいろな人に言われましたし、自分自身もそう思っていました」。

 リーグ戦の中断期間。今度は西方の負傷の影響から、松野がGK陣の一番手に躍り出たが、リーグ再開を2週間後に控えた練習試合で良いプレーが出せず、再び西方がレギュラーチームに。どちらがスタメンに指名されてもおかしくない状況の中、木曜日の紅白戦で自身のリーグスタメンデビューが決まったことを知る。

「『ああ、自分なんだ』と思って嬉しかったですね。どうなるかわからない状況だったんですけど、今までやってきたことをしっかりと出そうと思っていたので、自分の想いが伝わったのかなと思います」。そして、浦和レッズユース(埼玉)と対峙する90分間が幕を開けた。

「いつもは陽気なんですけど、結構ガチガチだったので(笑)、試合前の円陣で『思い切りやってくれ』と話しました」と笑ったのはセンターバックのDF杉田隼(3年)。松野本人も「初めてのプレミアの舞台で最初の方は緊張したんですけど、ゲームが進んでいくごとに味方のサポートもあって、徐々にうまくやることができたかなと思います」と振り返ったように、少しずつ持ち味のキックも良い形で攻撃に繋がっていく。

 最大の見せ場は1点をリードした後半35分。エリアのすぐ外で浦和ユースが獲得したFK。スポットに右利きと左利きのキッカーが並ぶ中、際どいコースを突いた前者のキックをきっちりとストップする。「角度も結構微妙なところで、キッカーも2枚いて難しい状況ではあったんですけど、しっかりボールを見て当てるという感じで、きっちり弾けたかなと思います」。

 このセーブもあって、結果は無失点でのウノゼロ勝利。「今日の試合に懸ける想いはとても強かったです。ここでやっと自分がゼロで抑えて、しっかり味方のサポートもあって勝てたというのはメチャメチャ嬉しかったですし、『自分はこんなもんじゃない』ということをもっともっと見せていかないといけないと思うので、やっとスタートラインに立てたなという感じです」。嬉しさと、手応えと、さらなる向上心と。90分間を経た松野の中には、様々な感情が駆け巡ったことだろう。

 重田征紀監督は松野を起用した理由と、その評価を穏やかな表情でこう語っている。「準備期間でも凄く集中してトレーニングやトレーニングマッチができていたので、そういうところで彼を起用する判断をした中で、期待に応えてくれました。こっちも『大丈夫かな?』という想いはあったんですけど(笑)、本当にこれまで一生懸命練習してきている成果が出せて、ゼロで終われたというのは彼もそうですし、チームとしても大きいかなと思います」。

 西方も当然このまま終わるはずはない。これからも彼以外のゴールキーパーも含めた激しいポジション争いが、練習場で待っている。「こうやって良いライバルがいて、競争できる環境というのは残り数か月ですし、そこでしっかり自分が勝つことで継続的に試合に出て、この仲間と喜べる回数をより多くできるように、日々の練習から頑張っていきたいと思います」。続けて最後にこの日の90分間を思い返し、率直な言葉が口から零れ出た。「今日は今までで一番嬉しかったです」。

 10月9日。自身のイメージしてきたスタートラインからしっかりと、松野は大きくて力強い一歩を踏み出した。

(取材・文 土屋雅史)
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