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覚悟のレベルが違った田中碧「この試合が終わって引退してもいいやって思えるくらい…」

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MF田中碧が先制ゴール

[10.12 W杯最終予選 日本2-1オーストラリア 埼玉]

 ワールドカップ予選デビューの23歳が大仕事を成し遂げた。0-0で迎えた前半9分、MF南野拓実からのクロスを受けたMF田中碧(デュッセルドルフ)は、完璧なトラップから右足を一閃。目の前には欧州4大リーグでのプレー経験を持つ名手GKマシュー・ライアンが立ちはだかったが、手が届かないようなファーポスト脇に強烈なシュートを突き刺した。

 2019年のE-1選手権では2試合に出場したが、フルメンバーが揃ったA代表に招集されたのはこれが初めて。U-24日本代表として出場した東京五輪では全6試合で先発した経験を持つとはいえ、“背水の陣”のピッチに立つにあたって緊張感はあったという。

「緊張がないわけないですよね、この舞台で。こんな日本サッカーの大一番に自分が初招集で、やっていない選手もいる中で初先発で、素晴らしい選手もたくさんいる中で、限られた選手しか立てない舞台に立たせてもらった。これからもそうだし、今までもこれ以上の舞台はないと思っている。緊張はした」。

 そう熱を込めた口調で振り返った田中は「正直、僕の人生の中でもたぶんこれ以上に緊張することはないだろうなというくらいに責任があった。日本サッカーの進退がかかった試合ではあるので、この試合が終わって引退してもいいやって思えるくらい後悔のない試合にしようと思っていた」とその覚悟の大きさを表現した。

 それでもピッチに立てば、気後れを感じさせるような場面は一度もなかった。ベテランのDF吉田麻也、DF長友佑都に対しても立ち位置を一つひとつ指示し、前半9分にはさっそく先制点に導くゴールも記録。「点取ることだけを考えてプレーしていたので、点を取れて良かった」と笑顔で振り返った。

 チームが難しい時間帯には味方と息の合わない場面も見られたが、そのたびごとにコミュニケーションを取りながら修正を試みる姿勢も目立った。そうしたメンタリティが4-3-3の新布陣で決戦に挑んだチームに活力を与え、ワールドカップ出場権争いに踏みとどまる劇的な勝利を手繰り寄せた。

「若い選手の勢いは時に必要だと思っている。僕は勢いでの仕上がってきたタイプじゃないけど、90分のなかでは少なからず出していかないといけないと思う。本当に苦しい状況だったのは間違いなかったが、少しずつ勝ちを続けることで状況は変えられると思う」。

 はつらつと言葉を紡いだ23歳は世界一の大舞台への覚悟ものぞかせた。

「W杯に日本サッカーが行くことが何より重要なので、そのために僕もそうだし、僕だけじゃなくいろんな人がそこに向かって進んでいる。自分が代表してピッチに立ったが、結果を残すことが大事」。見据える先にはW杯出場ではなく、W杯での活躍。田中は「これからも簡単な試合は何一つないし、W杯はもっともっと厳しい舞台だと思うので、僕自身ももっと成長して、引っ張っていく立場になるくらい力をつけていかないといけない」と力強く言い切った。

(取材・文 竹内達也)
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