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大事なのは「黄色の状態」。“大人のチーム”に変貌しつつある関東一が狛江に5-1で快勝!

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関東一高はMF肥田野蓮治(右端)のゴールで3点目を挙げる

[10.16 選手権東京都予選Bブロック2回戦 狛江高 1-5 関東一高]

 一言で言えば、“大人のチーム”のゲーム運びだった。前半で複数得点を奪い切り、後半にも加点。1点を返されても慌てることなく相手の時間帯をやり過ごし、終盤にはダメ押しゴール。スタメンの11人も、途中からピッチに送り出された選手たちも、自らの為すべき役割を過不足なく把握し、実践している印象が強い。

 前回王者、盤石の快勝。16日、第100回全国高校サッカー選手権東京都予選Bブロック2回戦の狛江高関東一高は、MF肥田野蓮治(3年)の2ゴールを含む4点を先行した関東一が、1失点こそ喫したものの、5-1で勝利。ベスト8へと勝ち名乗りを上げている。

 スコアが動いたのは前半3分。左からMF堀井榛人(3年)が蹴ったCKに、MF藤井日向(3年)はドンピシャでヘディング。ここはDFが必死にブロックしたものの、こぼれ球をMF肥田野蓮治(3年)がきっちり押し込み、早くも関東一が1点のリードを奪う。

「最初の肥田野の力の抜けた感じを見ると、いろいろなことができるなと思いました」と小野貴裕監督も調子の良さを認めた関東一は、攻撃の手を緩めない。19分には左サイドからDF小谷旺嗣(2年)がクロスを上げると、ファーに飛び込んだMF若松歩(3年)のボレーはゴール左スミヘグサリ。2-0。点差が開いた。

「ちょっとスピード感とか圧力が、普段なかなか経験したことのないような感じだったので、慣れる前に失点が多かったですね」と長山拓郎監督も話した狛江は、自陣で守備を強いられる時間が長く、キャプテンのDF伊木和也(3年)とDF柴嵜春薫(3年)のCB2人を中心に何とか相手の攻撃を凌ぎ続けるものの、それを自分たちのアタックには繋ぎ切れない。

 30分にFW本間凛(2年)、34分に右SB川口颯太(1年)がそれぞれ迎えた関東一の決定的なシュートは、どちらも狛江のGK佐々木晴基(3年)がファインセーブで阻止したものの、39分には右CKをここも堀井が蹴り込むと、肥田野は利き足と逆の右足ボレーでゴラッソ。「点差ができると余裕も出るので、落ち着いてみんなでボールを回しながらできたと思います」と堀井も言及した関東一が3点のアドバンテージを握り、最初の40分間は終了した。

 後半も先にゴールを陥れたのは関東一。3分。左サイドで獲得したFK。ここも堀井がピンポイントのボールを蹴り入れ、本間が合わせたヘディングは緩やかな弧を描いてゴールへ吸い込まれる。「ウォーミングアップの時からFKも良いコースに決まったり、今日は『ちょっとあるな』と思っていたので、うまく行って良かったです」と笑顔を見せた堀井は、セットプレーから3点に絡むキック精度を披露。スコアは4-0に変わる。

「失点がかさんだことで、それでも前からボールを奪いに行くとか、攻撃するしかないという思考になれたので、『変なことを考えずにとにかく1点を獲りに行こう』と」(長山監督)。狛江の意地は13分。右サイドを駆け上がった柴嵜がクロスを上げ切り、ゴール前を横切ってファーに流れたボールを、突っ込んだ左SB西川尚希(3年)は左足一閃。軌道はゴールネットを貫く。3年生同士の連携で生まれたファインゴール。狛江が1点を返した。

 以降は狛江がゲームリズムを引き寄せ、23分にも西川のパスからFW佐藤嘉晴(3年)が反転ミドルを枠の上へ。30分にも左から途中出場のMF毛利心駿(1年)のFKに、選手が殺到。シュートには至らなかったものの、2点目を狙う姿勢を前面に打ち出していく。

 だが、前回王者は慌てない。「1点獲られて、ちょっとみんな落ちたところもあったんですけど、そこで持ち堪えて、みんなで声を出して凌げたのが良かったと思います」と堀井。キャプテンのCB池田健人(3年)や肥田野、藤井といった3年生が冷静なプレーでチームを落ち着けると、32分には右サイドからMF川村瑞希(2年)がグラウンダーで入れたクロスを、FW神山寛尚(3年)がきっちり押し込んで5点目。途中出場の2人が結果を残す。

「完敗ですね」と率直な言葉は長山監督。ファイナルスコアは5-1。連覇を目指す関東一が粘り強く戦った狛江を退け、1週間後の準々決勝へと勝ち上がった。

「今年は守備が良いチームなので、時間を掛ければその差が出てくるのかなと。リーグ戦でも失点が一番少なくて、まだ一桁で行けているので、久しぶりに堅守というか、しっかりと守備をやれるチームだと思います」と今年のチームを評した小野監督は、1点を返された時間帯の雰囲気に手応えを感じていた。

「自分たちが悪くなくても点を獲られることはあるので、今日も1本横に流れてしまったところを入れられてしまいましたけど、アレは誰かを頭ごなしに『ふざけるな』と怒るようなプレーではないですし。あの時間帯で今日は肥田野が『こういう時間があるぞ』と言って、その時間をちゃんとみんなでやり切ってくれましたからね。アレで感情を表に出してしまって、『ダメだ』という空気を作らなかったことが良かったなと」。

 ゲームの中には、良い時間帯と、悪い時間帯と、おそらくその間になるような時間帯もある。その意識を指揮官は興味深い“たとえ”で語ってくれた。「この間、彼らには“信号”で言ったんですけど、『黄色の状態で勝たないとダメだから』って。『「青信号でいないと」と思うと青か赤になるから、それはやめて』って。黄色の状態で進むか進まないかが人間のジャッジのところで、青なら進むし、赤なら止まるけど、黄色なら行くヤツも行かないヤツもいるから、やっぱりそこでジャッジできることが大事だよって」。

 サッカーは“黄色”の時間が長いスポーツだ。その時間帯に行くのか、耐えるのかで、その後の色が“青”になるのか、“赤”になるのかは変わってくるが、そこに正解はない。ゆえに“黄色”をどう捉えるかをチームでしっかり共有することが、“青”を引き寄せる唯一の方策でもある。今年の3年生たちは小さくない苦労を重ねてきた代であり、そのジャッジを冷静に下すことのできる選手たちが揃っている。

「このチームは何かだけをやればいいわけではないので、彼らも嫌なことも耐えてきていますし、苦しくても戦えるチームだと思います」と小野監督。“大人のチーム”感を纏った関東一が、東京制覇にまた一歩、確実に近付いている。

(取材・文 土屋雅史)
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