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自分にできることを、チームのために、全力で。青森山田DF大戸太陽の高校サッカーはまだまだ終わらない

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青森山田高不動の右サイドバック、DF大戸太陽

[11.21 プレミアリーグEAST第16節 青森山田高 0-2 清水ユース 青森山田高G]

 やることは、変わらない。自分にできることを、チームのために、全力で。それがこの高校で過ごした3年間で何よりも学んできたことだから。

「やっぱりチームの目標である三冠を目指すに当たって、厳しいことも絶対出てくると思うんですけど、自分もチームも全員で声を掛け合って、練習にも試合にもしっかり取り組んでいって、悔いのない時間にしたいですね。自分も含めて悔いのないようにやっていきたいです」。

 今年の青森山田高を支え続けてきた不動の右サイドバック。DF大戸太陽(3年=Uスポーツクラブ出身)のチームに対する想いは、ピッチの内側にいても、外側にいても、何一つ変わることはない。

 最初はそこまでの事態になるとは思わなかった。選手権予選決勝を3日後に控えたトレーニング中。大戸は接触プレーの後に、左ヒザへ違和感を覚える。「実際に痛かったですけど、そんなに大ケガという感じはしなかったんです」。その日はそれ以上何事もなく終わったが、翌日になるとヒザが曲がらない。病院での診断結果は左ヒザ前十字靭帯断裂。重傷だった。

 11月7日。決勝当日。試合前のグラウンドには、左足を引きずりながらボトルを運ぶ大戸の姿があった。

「『もう起きてしまったことはしょうがない』と思って、すぐに切り替えました。ああやって決勝の直前に自分がケガをしてしまって、多少なりともチームに対して悪い影響を与えてしまったというか、そういう部分もあったと思うので、自分がそこで下を向いていたりして、チームに対して悪いものを持っていかないようにと考えていましたね」。チームのためにできることを、ピッチの外側で、丁寧に、淡々とこなしていた。

 試合は先制を許したものの、前半のうちに逆転。後半開始早々にはMF松木玖生(3年)がチーム3点目を叩き込む。すると、チームのキャプテンが報道陣のカメラに向かって見せたのは、自らが纏う10番の下に着込んだ“2番”のユニフォーム。この日のピッチに立つことの叶わなかった、大戸のそれだった。

「試合の前の日に玖生から『ユニフォーム貸して』と言われました。アイツも点を決められて良かったですよね。決めてなかったら、ただ着ていただけになっていたので(笑)」(大戸)

 試合後のインタビューで、松木はこう語っている。「太陽自身もこの時期のケガで凄く難しい部分はあっても、落ち込むことなく自分たちのためにいろいろ準備してくれたり、良い声掛けをしてくれたので、自分だけではなくて、他の選手もかなり痛いと思っているところではありますけど、太陽のためにも今後の試合も全部勝っていきたいと思います」。

大戸もその日をこう振り返る。「実際は本当に悔しかったですけど、チームのみんなが戦う試合がまだ多く残っていましたし、みんなが自分のためにもやってくれるというふうに言ってくれたので、そう言ってくれたからには自分が落ちる必要はないなと思いました」。苦しい3年間をともにしてきたチームメイトの気遣いが、ただただ嬉しかった。

青森制覇を喜ぶ大戸太陽(最前列左端)。松木玖生も“2番”のユニフォームでポーズを決める


 11月21日。プレミアリーグEASTの首位攻防戦。清水エスパルスユース(静岡)との一戦でも、「今日は本当に大一番で、やっぱり経験というのはやった人間にしかないと思うので、それをしっかり伝えることで、チームに貢献したいと思っていました」と話す大戸は自分のやるべきことを見つけていた。

 前半はチームメイトとベンチサイドで試合を見ていたが、後半はスタンド側に移動する。自分の代役として右サイドバックでスタメン出場していたDF中山竜之介(2年)に、声を掛け続けていたのだ。「『勝つために自分ができることは何かな』と考えて、やっていました」。自分にできることを、チームのために、全力で。この日も大戸の姿勢は、今までと何も変わらなかった。

 どこまでもポジティブな姿勢には、恐れ入るばかりだ。「落ち込んでいる暇があったら、ケガに対して取り組めることがあると思いますし、本当に奇跡が起きればまだ選手権もあるかもしれないと思っているので、いち早く復帰できるようにと考えています。そういう部分では普通に落ち込んでいる暇はないなという感じです」。

 17歳でここまでのメンタルを保つのは、並大抵のことではないだろう。その理由を尋ねると、大戸は笑顔でこう語ってくれた。「自分が青森山田に来ていなくて、このケガをしていたらたぶん気持ちは落ちていたと思いますし、ろくにチームに貢献することもできなかったと思います。この青森山田というチームでやったきたからこそ、何かやってやろうと、ケガをしていても何かチームにできることはないかと思えているので、ここでサッカーができて良かったです」。

「だから、自分の高校サッカーは終わったかもしれないですけど、まだ完全には諦めていないですし、チームはまだ終わっていないので、いろいろな部分でチームをサポートして、チームの目標である三冠に少しでも貢献できればなと思っています」。

 黒田剛監督が、選手権予選決勝の試合後に語っていた言葉を思い出す。「大戸も選手権の全国で優勝するために青森山田に入学してきた男で、『新・国立競技場に何としても彼を連れていってあげたい』という想いはありますので、いなくなったことは痛手ではありますけど、これでさらにチームが1つになれればいいなと思いますし、大戸のために『何としてもオレたちは負けられない』というメッセージは刻まれたと思います」。

 新しい国立競技場が、彼らの登場を待っている。大戸の高校サッカーは、まだ何も終わっていない。

(取材・文 土屋雅史)
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