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心優しきキャプテンの涙と気遣い。前橋育英DF桑子流空は小6から憧れた黄色と黒のユニフォームで群馬制覇!

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前橋育英高のキャプテン、DF桑子流空は倒れ込んだ相手にそっと寄り添う

[11.23 選手権群馬県予選決勝 前橋育英高 1-0 桐生一高]

 感情が溢れ出す。スタンドから見ていたあの負けから、1年。期してきたリベンジと、目指してきた全国大会への出場権が同時に手に入り、何とも表現しがたい想いがこみ上げてくる。

「もう、嬉し過ぎて、訳が分からなかったですね。去年の負けから自分たちは頑張ってきて、(大野)篤生さんや(櫻井)辰徳さんからも、試合前にメッセージを戴いて、絶対に勝って、あの選手権の悔しさを晴らせるようにという想いで戦いましたし、本当に、本当に嬉しくて、泣いちゃって、本当に嬉しかったです」。

 多くの人の願いを背負い、ピッチに立ってきたタイガー軍団のキャプテン。前橋育英高DF桑子流空(3年=前橋FC出身)の脳裏には、今まで重ねてきた様々な思い出が甦っていた。

 昨年度の選手権予選。3回戦で県内最大のライバル、桐生一高と激突した前橋育英はいきなり3点のリードを許す展開を突き付けられる。懸命に2点は返したものの、結果は2-3での敗戦。あまりにも早い幕切れ。6年連続で続いていた冬の全国大会出場は、あっけなく途絶えてしまった。

 桑子はある先輩の姿を、すぐ横で見つめていた。「トップの練習に参加させていただいて、アツキさんともよくお話させていただいて、そのアツキさんが出れなくて負けてしまったんですけど、隣にいたアツキさんが最後は泣きながら応援していて、あの姿は本当に頭から離れないですね」。昨年度の部長を務めていた大野篤生(現・中央大)は、大会直前の負傷で試合出場が叶わず、スタンドで敗退の瞬間を迎えていた。

「今日もアツキさんには『リクならできる』というメッセージを戴いて、やっぱりその悔しさを晴らせるようにと思って戦いました」。大野の無念を心に刻み、桑子は決勝のピッチに向かう。

 相手の桐生一には、小学生時代から何度も何度も戦ってきたメンバーが揃っていた。中でもFWの吉田遥汰(3年)は前橋FC時代のチームメイト。前橋育英のゴールマウスを守るGK渡部堅蔵(3年)と一緒に、中学時代の3年間は同じグラウンドでボールを追い掛けた。

 後半18分。フィードに抜け出した吉田が走る。渡部と1対1になり掛けた瞬間。必死に追い付いた桑子のスライディングが、ボールを掻き出す。倒れた吉田が起き上がれない。両足が攣ってしまったのだ。すぐさまDF柳生将太(3年)とともに駆け寄った桑子は、かつてのチームメイトの左足を伸ばす。勝負を超えた友情が、そのシーンに垣間見えた。



 勝利のタイムアップを迎えた瞬間。桑子はその場に座り込んだ。自然と嬉し涙が滲んでくる。ただ、ほんの少しだけ歓喜を噛み締めると、すぐに倒れ込む水色の選手へ近付いていく。「自分も嬉しかったんですけど、自分たちが嬉しい想いをする代わりに彼らは悔しい想いをしているので、自分たちが喜ぶよりも先にやることがあると思って、声を掛けに行きました」。

 最高のライバルだからこそ、共有できる想いがある。「自分たちが勝って、彼らが負けて、悔しい想いをしていると思うので、自分たちは全国大会で不甲斐ない結果は残せないですし、彼らの分も日本一を獲りたいと思います」。負けられない理由が、また1つ加わった。

 小学校6年生の時に、選手権予選決勝で目の当たりにした黄色と黒の高校生に魅せられ、「あのチームでサッカーがしたい」と決意し、ここまで努力を重ねてきた。あの日の自分が憧れた、まさにそのグラウンドで全国への挑戦権を掴んだ今、晴れ舞台への意欲が高まらないはずがない。

「全国大会は一戦一戦全力で戦いたいです。相手も本当に強いと思うので、気を緩めずに、自分も含めてチーム一丸となって戦えたらなと思います」。

 決して1人ではない。今までボールを介して出会ってきた仲間が、自分を見守ってくれている。目指し続けてきた選手権の舞台が、タイガー色のユニフォームを纏い、赤い腕章を巻いた桑子の登場を待っている。

(取材・文 土屋雅史)

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