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前橋育英のプレミアプレーオフ進出が決定。それでも三菱養和SCユースはホーム最終戦で意地を見せる

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両雄が全力を出し切った好ゲームはドロー決着!

[11.28 高円宮杯プリンスリーグ関東第17節 三菱養和SCユース 1-1 前橋育英高 三菱養和会 巣鴨スポーツセンターG]

 どんな試合にも、負けられない理由がある。シーズンが終盤に向かえば向かうほど、1試合1試合に込められる想いはより強くなっていく。

「プレミア参入も懸かっていて、勝たなくてはいけない状況と、このグラウンドでできる最後の試合ということで、凄く全員気合も入っていました」(三菱養和SCユース・森山純平)「今日は勝ち切ってプレミア参入戦への出場を決めたい試合でした」(前橋育英・根津元輝)。

 意地と意地がぶつかり合った90分間は、ドロー決着。28日、高円宮杯 JFA U-18 サッカープリンスリーグ関東第17節、三菱養和SCユース(東京)と前橋育英高(群馬)の対戦は、MF笠柳翼(3年)が豪快な直接FKを叩き込み、前橋育英が先制したものの、この一戦が今季のホーム最終戦となった三菱養和SCユースも、後半45+1分に途中出場のFW依田悠希(2年)が執念の同点ゴール。試合は1-1で終了し、3位以上を確定させた前橋育英がプレミアリーグプレーオフ進出を手繰り寄せる結果となった。

「相手も良いチームなので、そんな簡単に勝てるとも思っていなかったですし、堅くしっかり前半を過ごしていこうというところで、選手はプレーを選んでいたとは思います」と三菱養和SCユースの庄内文博監督が話したように、前半は立ち上がりから動きの少ない展開に。15分には中盤でボールを奪った三菱養和SCユースのMF磯丈成(3年)がミドルを放つも、前橋育英のGK渡部堅蔵(3年)がキャッチ。前橋育英も19分には左からDF岩立祥汰(3年)がクロスを上げ切り、こぼれをMF根津元輝(2年)がボレーで叩くも、三菱養和SCユースのGK町田佳祐(2年)が丁寧にキャッチ。以降もフィニッシュの数が増えていかない。

 そんな展開の中で違いを見せたのは、10番の一振り。43分。中央、ゴールまで約20メートルの距離で得た前橋育英のFK。スポットに立った笠柳が丁寧に右足を振り切ると、町田も触ってはいたものの、クロスバーを叩いたボールはそのままゴールネットへ弾み込む。「翼はああいうキックの質はいいので、あそこの距離だったら決まるんじゃないかなという感じで見ていました」と山田耕介監督も言及したエースのゴラッソ。前橋育英が1点をリードして、最初の45分間は終了した。

 後半は吹っ切れたホームチームが攻める。「0-1でビハインドだったので、『ボールを捨てる回数をもうちょっと減らして、やってきたことをしっかり出しましょう』というところで、みんなチャレンジをしていきましたね」(庄内監督)。3分にはMF仲野隼斗(3年)の左クロスから、磯が打ち切ったボレーは枠の右へ。14分にもMF嵯峨康太(3年)の右クロスに、磯が合わせたヘディングは渡部にキャッチされたものの、サイドアタックからゴールを窺う。

 22分も三菱養和SCユース。千葉内定のDF西久保駿介(3年)、嵯峨と繋ぎ、FW赤井ウェズリー景太(3年)のシュートは、前橋育英のキャプテンを務めるDF桑子流空(3年)が間一髪でブロック。直後の右CKを嵯峨が蹴り込むと、西久保のヘディングはゴール左へ。「後半は自分たちでボールを握れる時間帯が少なくて、早い段階で蹴る時間になってしまって、そこから自分たちの体力がどんどん削られていったと思います」と根津も話した前橋育英は、なかなか反撃の手を打ち出せない。

 それでも31分は前橋育英に決定機。途中出場のFW高足善(2年)を起点にMF渡邊亮平(3年)のクロスから、MF小池直矢(2年)が放ったジャンピングボレーは町田が阻むも、突き付ける一発の脅威。32分は三菱養和SCユース。嵯峨、MF児平陽大(2年)と回ったパスから、赤井のシュートはここも桑子がブロック。終盤の44分も三菱養和SCユース。FW篠原將浩(3年)のパスを仲野が残し、西久保がエリア内から狙ったシュートはわずかに枠の右へ。プレミアプレーオフ進出へ執念を見せる両雄。勝利のみがその条件となるホームチームは、1点が遠い。

「絶対点を決めてやるぞと思っていました」という交代カードの大仕事は45+1分。左サイドで依田が時間を作り、西久保を経由したボールは右サイドへ。MF須藤太一(3年)が左足で入れたクロスに、ファーへ走った依田が突っ込む。「メチャメチャ完璧でした。しっかりふくらんで、相手の背後を取って、しっかり決められたので良かったです」。豪快なヘディングがゴールを貫いた。1-1。土壇場で三菱養和SCユースがスコアを振り出しに引き戻す。

「本当にみんなで獲ってくれた1点だなと思いますね。嬉しかったですし、アレがもうちょっと早く来ればとは思ったんですけど、それでも1点獲れるかどうかはチームとしても大きいことですし、そこからの残り何分かも諦めずにもうワンチャンスという勝負に行ける1点でもあったので、彼らは本当に最後まで一生懸命やってくれたなと」(庄内監督)。

 タイムアップの瞬間。両チームの選手がピッチに倒れ込む。タイガー軍団の選手たちが歓喜の声を上げたのは、ベンチに戻ってきて、コーチに他会場の結果を知らされてから。目の前の試合に全力で向き合った90分間の死闘は、見どころ十分の引き分け。前橋育英が粘り強く勝ち点1をもぎ取り、12月に開催されるプレミアプレーオフ進出権を獲得している。

 三菱養和SCユースはリーグ後半戦に入って4連勝を達成し、前節は既に優勝を決めている川崎フロンターレU-18(神奈川)ともドロー。「夏明けから公式戦は負けずに今まで来れていたので、練習の雰囲気も良い感じでここまで来れていましたし、本当に1試合1試合に懸ける想いは日に日に増していって、『行けるぞ!行けるぞ!』という感じで試合に臨んでいましたね」。キャプテンの森山はチームに感じていた手応えを口にする。

 この日はホームで戦うラストゲーム。「3年生はこの巣鴨のグラウンドでやるホームゲームは最後の試合ということで、『とにかくチーム全員で戦おう。一体感を持った試合をしよう』と。小学生から教えていたような子たちが、最後の最後でこんなふうに戦ってくれている姿を、このグラウンドで見ることができて、それも指導者として喜びがありましたし、結果としては引き分けてしまって、上はなくなってしまいましたけど、本当によくやってくれたと褒めたいと思います」。庄内監督は選手たちを称えた。

「凄く長くこのグラウンドにお世話になっていたので、最後は勝ちたかったという気持ちの部分では凄く悲しいですけど、振り返って『楽しかったな』という気持ちが一番かなとは思います」と語った森山は、こう言葉を続ける。「ああやって最後に点が入ったのは、やっぱりこのグラウンドだから起こり得た感じもありますし、全員で手繰り寄せたゴールなのかなって」。

「小学生、中学生の頃からずっとこのグラウンドでやってきた彼らは、ここのスタッフみんなで育ててきている選手たちなので、今日のような試合ができたことをスタッフのみんなも喜んでいるでしょうし、『アイツらやったね』と言ってもらえるようなゲームだったんじゃないかなと思います」(庄内監督)。三菱養和らしさは、この日のピッチに立った選手たちにも、確かに息衝いていた。

(取材・文 土屋雅史)
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