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力強く引き寄せた選手権日本一とシーズン3冠。青森山田が辿った“伝説のチーム”への軌跡

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3年ぶりの選手権日本一、シーズン3冠を達成した青森山田高(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.10 選手権決勝 大津高 0-4 青森山田高 国立]

 タイムアップの瞬間。普段から厳しい表情を崩さない指揮官も、流れる涙を抑えることができない。なかなか日本一に届かなかったこの3年間の、今まで積み上げてきたこのチームでの思い出が、次々と脳裏に甦ってくる。

「今年の大会というのは100年の歴史を刻んできた、本当に歴史的に大きな大会でもありましたし、まだまだコロナが収束しない中でいろいろな方たちのご尽力があって、初めて開催された大会でもありますし、チームも選手もスタッフも、保護者も学園も含め、いろいろな方たちが支えてくれて、このタイトルというものがあったと思います。先日逝去された小嶺先生のご尽力という部分に関しても本当に敬意を示しながら、いろいろな部分がいっぺんに走馬灯のように頭の中によぎってきた、そんな一瞬だったと思います」(青森山田高・黒田剛監督)。

 インターハイ。高円宮杯プレミアリーグEAST。そして、高校選手権。目標に掲げてきた3冠の達成で、2021年度の青森山田高(青森)は“伝説のチーム”として後世に語り継がれるだけの資格を十分に有することとなった。だが、彼らの1年間も、もちろんすべてが順風満帆に進んできたわけではない。

 不安を抱えた開幕戦。課題を突き付けられた初黒星。土壇場まで追い込まれた夏の決勝。相次いだ主力選手の離脱。そして、プレッシャーに苛まれた選手権。数々の苦境を乗り越え、ようやく辿り着いた3冠だからこそ、余計に大きな価値がある。

 4月。昨年度から全員が入れ替わった守備陣は、なかなか自信を掴めないプレシーズンを過ごしていた。強豪相手に失点を繰り返し、黒田剛監督も「我々がどれくらいやれるかというのは未知数だし、不安要素はいっぱいある」と口にしていた中で迎えた、プレミアリーグ開幕戦。浦和レッズユースとの一戦で、しかし青森山田は4-0という完勝を収める。

 守備陣はきっちり無失点。攻撃陣も前年度の選手権では出場機会のなかった、FW渡邊星来(3年)とMF田澤夢積(3年)が揃ってゴール。意外にも右足でのミドルシュートで得点を奪ったMF松木玖生(3年)も、「初戦としてはでき過ぎかもしれないですね。チーム全体に勢いが付いた今日の試合だったかなと思います」と笑顔を見せたように、この1試合がチームにもたらした自信は、シーズンを振り返る上で語り落とせない。

 6月。チームは公式戦初黒星を喫する。インターハイ予選もきっちり制し、開幕8連勝を目指して臨んだプレミアリーグのホームゲームで、柏レイソルU-18に3ゴールを献上し、2-3で競り負ける。翌週のFC東京U-18戦でも先制を許し、ドロー決着。被シュートゼロの試合も少なくなかったチームが、失点を重ねた思わぬ停滞。夏の全国に向けて、小さくない不安材料を突き付けられることになる。

 ただ、一部の主力を欠いた中でのこの2試合は、チームへ新たな気付きをもたらした。「逆にあの試合が凄く良かったというか、選手が欠けることの重要性も認識できたし、その時に攻撃のパターンを失ってしまうことも見えたし、その分サブの選手が凄く成長する機会もあったので、そこは逆にポジティブに捉えながら、いい感じにチームが強化できてきたのかなと」(黒田監督)。悔しい経験は、結果的にチームの総和をさらに大きなものへと成長させた。

 8月。青森山田は追い込まれていた。5試合28得点という凄まじい得点力を発揮し、勝ち上がったインターハイの決勝。前半にPKで先制を許すと、米子北高(鳥取)の守備を崩せず、無得点のままで時計の針だけが進み続ける。それでも、後半終了間際にDF丸山大和(3年)が同点弾を叩き込むと、延長後半アディショナルタイムに再び丸山が決勝ゴール。奇跡的な逆転劇で日本一の座を堂々と手にしてみせる。

 試合後に人目も憚らず号泣した松木は、改めてこの経験をこう振り返る。「優勝してみて、仲間の大切さだったり、青森でも残ってずっと応援してくれたコーチの方々だったりチームメイトもいるので、その人たちにもしっかり感謝したいなと。チームで、山田の全員で勝ち切った勝利かなと思います」。苦労して、ようやく辿り着いた頂の光景は、とにかく最高だった。

 11月。チームに衝撃が走る。ともに不動のレギュラーだった、右SB大戸太陽(3年)と左SB多久島良紀(2年)が相次いで負傷離脱。守備の主力選手を失うと、リーグ首位攻防戦の大一番だった清水エスパルスユース戦にも0-2と敗戦。リーグ優勝、そして選手権に向けても暗雲が立ち込める。

 ここで奮起したのはMF小野暉(3年)とDF中山竜之介(2年)だ。小野は左SB、中山は右SBと、どちらも本職ではないポジションと懸命に向き合い、1試合ごとに目覚ましい成長を遂げていく。「自分も中山も別にあの2人と同じことをするわけではないので、自分たちの色を出して、チームにどう貢献できるかを考えてプレーしています」と小野。2人の“代役”以上の活躍もあり、プレミアリーグEAST制覇も達成。アウェイで決めた優勝の記念写真には、チームに帯同した大戸も多久島も笑顔で収まる。今まで以上の一体感を纏い、3冠のラストピースとなる最後のタイトルを目指して、選手権へと歩を進める。

 12月と1月。本来のパフォーマンスは影を潜めた。日本一だけを狙って乗り込んだ選手権。勝利は重ねたものの、ここまでのシーズンで貫いてきた『青森山田らしいサッカー』は、なかなか披露できない。もちろんどのチームも、絶対王者を倒さんと全力でぶつかってくる。加えて圧し掛かる偉業達成へのプレッシャー。知らず知らずのうちに、彼らは自分たちが1年間を掛けて築き上げてきたスタイルを見失いつつあった。

 準決勝。国立競技場のピッチで、ようやく青森山田は吹っ切れた。「『もっと青森山田らしいサッカーをしよう』ということが今日の試合のテーマでした。もちろん相手をリスペクトすることももちろんですけれども、あまりにも研究したものが頭に入り過ぎて、本来の自分たちのサッカーを見失っていたなということが、この3試合の大きな反省点でもありました」と黒田監督。伸び伸びと聖地で躍動したチームは、高川学園高(山口)に6-0と大勝。何より1人1人の選手から、サッカーを楽しんでいる様子が伝わってきた。

「この試合で凄く自分たちらしいサッカーを取り戻したというか、生き生きとプレーできたと思います」と語ったのは松木。自信とプライドを持って積み上げてきた青森山田の強さを、最後の最後でチームは取り戻すことに成功する。

 1年間に渡ってチームが掲げ続けてきた無失点、被シュートゼロで大津高(熊本)相手に4-0と勝利を収め、選手権での日本一を、そしてシーズンの3冠を手繰り寄せた決勝の試合後。黒田監督は今年のチームについて、こう語っている。

「春から『打倒・青森山田』という言葉が、『山田をどこが倒すんだろう』ということが全国各地から聞こえてきた中で、もちろん選手たちの耳にも入っていたと思いますし、かなりのプレッシャーや重圧が、彼らに圧し掛かってきていたことは我々も見て取れていたんですけれども、その何倍ものパワーを感じたし、そんなものは簡単にはねのけるぐらいの、彼らの勝ちたいという意欲が1年間を通して見れたので、最初は三冠なんてやれるかどうか、『今のこの時代、そんなに甘いものではないな』という見方もあったんですけど、本当に達成したことを考えてみると、本当に力強い、強いチームだったなということが改めて実感できると思います」。

 国立競技場に偉業を達成したばかりの選手たちが上げた、歓喜の声がこだまする。どのチームも倒したいと願い、それでもその想いに打ち勝ち続けた結果、辿り着いた3年ぶりの選手権日本一であり、シーズン3冠。青森山田は、とにかく強かった。

(取材・文 土屋雅史)

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