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[総理大臣杯]“スーパーゴール”で危機乗り越えた流経大、PK戦制し全国へ!(早稲田大vs.流通経済大)

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[6.6 総理大臣杯関東予選ブロックE決勝 早稲田大 2-2(PK4-5)流通経済大 早稲田大東伏見サッカー場]

 第34回総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントの出場権を懸けた関東予選Eブロック決勝が6日、東京都西東京市の早稲田大学東伏見サッカー場で行われ、早稲田大と流通経済大の強豪同士が激突。2度のビハインドを追いついた流通経済大が2-2からのPK戦を5-4で制し、2年ぶり7回目の全国大会進出を決めた。

 W杯日本代表のサポートメンバーに選出されたDF山村和也(3年=国見高)こそ不在なものの、U-21日本代表DF比嘉祐介(3年=流通経済大柏高)ら全日本大学選抜メンバー3選手を擁する流通経済大と、10番MF中野遼太郎(4年=F東京U-18)とCB小川諒(4年=柏U-18)不在も清水エスパルス加入内定のCB岡根直哉主将(4年=初芝橋本高)や右SB野田明弘(4年=広島ユース)、07年U-17W杯日本代表のMF奥井諒(3年=履正社高)らタレント揃う早稲田大との「ビッグマッチ」。90分のゲーム、延長戦、PK戦と“3度”の劣勢を跳ね返した流経大がその勝負強さで全国切符を勝ち取った。

 MF村瀬勇太(3年=流通経済大柏高)を中盤の底の位置に配置する4-3-3システムの流経大に対し、早大は本来CBの岡根をボランチ起用する4-4-2。守備意識の高い両チームの戦いは、前半45分間を通して静かな展開だった。DFラインからゆっくりとボールをつなぎ、1本のくさびからテンポアップしようとする早大と左FW武藤雄樹主将(4年=武相高)と再三オーバーラップを試みるSB竹石翼(4年=流通経済大柏高)を起点に攻撃を繰り出そうとする流経大。だが、ともに相手の懐へ入り込むことができず、決定機のないまま試合は進んだ。

 だが、前半ロスタイム、突如スコアが動く。ゴール正面右サイドで得たFKを野田が「あの距離、位置は自分のテリトリー」と右足を一閃。クロスバーを叩いたボールはそのままゴールラインを越え、早大が先制に成功する。何度も拳を振り下ろして喜ぶ野田と早大イレブンは、最高の形でハーフタイムを迎えた。

 前半シュート2本に終わり、早大GK菅野一弘(4年=早稲田実高)を脅かす場面をつくれなかった流経大は後半7分に1年生MF椎名伸志(青森山田高)、13分にMF加来謙一(4年=大津高)、25分にFW古川大士(2年=流通経済大柏高)とアタッカー3枚を投入し早々にカードを使い切る。ただ、早大は前線から走り回るFW小井土翔(3年=千葉U-18)らが相手のパスコースを限定。乱れたパスをMF山中真(3年=柏U-18)やSB幸田一亮(4年=横浜FMユース)が次々とカットし、カウンターから奥井が得意のドリブルを仕掛けた。相手の守備ブロックの中に入れない流経大は攻めては後退を繰り返し、全くリズムをつかめないまま終盤を迎えた。

 だが、後半30分を過ぎ、後のなくなった流経大はボールへの執着心で明らかに早大を上回り、局面の攻防を制してセカンドボールも手中に収めだす。巧みな個人技、ワンツーから加来がゴールを狙い、椎名の強烈な左足シュートがゴールを捉えた。そして40分、GK増田卓也(3年=広島皆実高)が前線へ送ったフィードを早大中盤がクリアミスし、DFを背負った武藤の足元へ。圧倒的に数的不利の状況ながらも単独で仕掛けた武藤がDFを引きずるように突進し、左足を振りぬく。すると強烈な一撃がゴール右隅へと突き刺さった。

 主将の千金弾で延長戦へ持ち込んだ流経大。だが、またも危機が訪れる。延長前半10分、早大は小井土が右サイドへ展開するとボールを受けた野田は「コースが見えた」とクロスを警戒する相手DFの裏をかいてシュートを選択。地を這うような強烈なシュートがゴール左隅へ突き刺さり、再び早大が勝ち越した。
 
 流経大の中野監督が「ここまでかと。覚悟しました」と振り返った野田の鮮烈弾。早大はサイドでボールをキープするなど残り時間を削りにかかる。だがJ注目のエース武藤が再び流経大を救った。延長後半6分、クリアボールを拾った椎名が「(延長戦の疲労で)相手の足が動かないと思った」とすぐさまDFの背後へスルーパスを送る。右サイドを突いた武藤は「(自分も)疲れていたのでゴールに近づくよりもシュートと。スルーパスが来た瞬間、トラップしたら打とうと思った」とやや距離を残した位置から右足を一閃。早大GK菅野の指先を抜けてゴール左隅を捉えた「スーパーゴール」が起死回生の同点弾となった。

 「流経に比べると自分たちはここ2年結果が出ていないし、その分、自分らの代がやってやろうと思っていた。でも最後の失点の部分、球際の強さの部分。最後そういうところで勝たなければ。口で言うのは簡単だけど、チーム全員でやらないと勝ちが引き分けに、引き分けが負けになってしまう」と野田。PK戦では先攻の流経大1人目・武藤のシュートを菅野がセーブするが、「(2度のゴールで)武藤さんが助けてくれて。全員にこの試合に絶対勝つという気持ちがあった」と振り返る流経大・増田が早大・奥井のシュートを右へ跳んでストップする。流経大・2人目の椎名のキックはクロスバーを叩いたが、早大はFW松井亮大(3年=東海大五高)のシュートがゴールマウスに弾かれ、ここでもリードするチャンスをものにすることができない。

 張り詰めた空気の中、淡々と進んだPK戦は7人目でついに決着がついた。流経大・竹石がゴール左へ決めたのに対して、早大の7人目・FW佐々木絢也(3年=青森山田高)のシュートは無情にもゴール左外へ。一斉に走り出した流経大イレブンはベンチ前で歓喜の輪をつくり、勝利の雄たけびを上げた。

 流経大は08年、09年と2年連続関東1部リーグ優勝も今季はリーグ戦で勝ちきれず9位に低迷。大学サッカー界を代表する実力派が思わぬ苦戦を強いられてきた。それだけに危機感と今大会に懸ける意気込みは他のどの大学よりも強かった。今大会へ向け、シーズン中にもかかわらず一週間の合宿を張り、PK練習も繰り返し行ってきた。ライバルよりも重ねてきた練習とその自信、勝利への思いが最後の最後で勝負をひっくり返した。中野監督は「これまでは調子なのか、実力なのか昨年までのような劇的な試合がなかった。でもきょうはみんなで『うれしかった』と喜ぶことのできるシーンだったと思う。あきらめない姿勢を見せてくれた」。大学サッカー界随一のタレント軍団が見せた驚異的な粘り。日本一を目指す流経大が、早大の手中にあった全国切符をもぎ取った。

(取材・文 吉田太郎)

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