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西村主審、アルチュンディア主審らW杯レフェリー7人が裏話を披露

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 W杯南アフリカ大会に参加した審判団によるレフェリーワークショップが5日、都内のJFAハウスで開催された。日本の西村雄一主審、相樂亨副審、韓国のジョン・ヘサン副審の「西村チーム」と、メキシコのベニート・アルチュンディア主審、マルビン・トレンテラ副審、カナダのエクトル・ベルガラ副審の「アルチュンディア・チーム」、さらにメキシコのマルコ・ロドリゲス主審の7人のW杯レフェリーが参加した。

 ロドリゲス主審は4日の日本対パラグアイも担当。「クリーンな試合で、ファウルも少なく、W杯と同じぐらいレベルの高い試合だった」と振り返り、「審判は良いサッカーに貢献するひとつの役割を担っているが、クリーンな試合のためには選手が相手選手や観客をリスペクトする気持ちを持つことが大事」と指摘した。

 また、アルチュンディア主審は今日7日の日本対グアテマラで主審を務める。同主審は96年のアトランタ五輪で日本がブラジルを1-0で下した「マイアミの奇跡」の主審で、同年にはJリーグでも9試合を担当。「日本は私の2つ目の故郷」と話すなど日本とも縁が深い。南アフリカW杯では3位決定戦など3試合の笛を吹き、W杯本大会で歴代最多タイとなる通算8試合の主審を務めた。

 ワークショップには約180人が観覧に訪れ、実際のW杯の映像を見ながら7人のW杯レフェリーが当時の状況や判定を解説。5つのシーンを紹介しながら、裏話を披露した。

(1)6月25日グループリーグ第3戦、ポルトガル0-0ブラジル(アルチュンディア主審)

 前半25分、ハンドを犯したブラジルのDFフアンに警告を示すと、レッドカードを要求し、異議を唱えたポルトガルのDFドゥダにすぐさま警告を提示。前半だけで7枚の警告が出たが、後半は一転、イエローカードは1枚も出なかった。

●アルチュンディア主審
「審判は試合前に各チームの選手の特徴や振る舞いを検証している。ポルトガルの5番の選手(ドゥダ)はコントロールが難しい選手だと、ポルトガルのレフェリーから聞いていた。審判に対して文句を言うことが多く、すぐにピラニアのようにレフェリーに寄ってくるので、早めに対処することが重要だと。なので、抗議が始まった即座に警告を出して、審判の決定が絶対的なものであることを本人、さらには全体に示すことで、その後に同じようなことが起こるのを抑えられると判断した。
 ハーフタイムが終わり、後半開始のために選手がピッチに出てきたとき、ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドが私のところに来て『チームのキャプテンとしてレッドカードをもらう状況は迎えたくないので、そうならないように自分がコントロールしてしっかりやっていく』と話しかけてきた。後半はファウルも5つだけで、前半とは違うゲームになった。審判がコントロールするだけでなく、選手が自分たちでコントロールしていくことでクリーンな試合になった」

(2)7月10日3位決定戦、ウルグアイ2-3ドイツ(トレンデラ副審)

 前半19分、ドイツのMFシュバインシュタイガーがミドルシュートを放ち、GKが弾いたボールをMFミュラーが押し込み、先制点を決めた。シュバインシュタイガーがシュートを打った瞬間、ドイツの選手は2人がオフサイドポジションにいたが、ミュラーは後方のオンサイドの位置から全速力で走り込んでおり、ゴールを認めた判定は正しかった。

●トレンデラ副審
「選手がシュートやパスなどボールに触った瞬間を自分の中で写真に撮って、それを見て判断することが大事。テレビのように映像をストップして、写真を撮れれば一番いいけど(笑)。あの場面ではウルグアイの選手が反論してきたが、正確なポジションで、できるだけ正しい判定を下すことが大事になる」

(3)6月13日グループリーグ第1戦、ドイツ4-0オーストラリア(ロドリゲス主審)

 前半12分、ドイツのMFエジルに対し、シミュレーションで警告を提示した。エジルはほとんど接触がないにもかかわらず、ファウルをもらおうと自分から倒れており、審判をだます行為としてシミュレーションで警告を出した判定は正しかった。

●ロドリゲス主審
「シミュレーションはサッカーの癌(がん)的な存在であり、シミュレーションのジャッジをするときに明らかなシミュレーションだと思えば、選手、観客に『これはシミュレーションだ』としっかり教えるために堂々と判断しなければならない。選手に対し、このような行為は許されないということを示す上で、大会全体を通じてもいい機会になったと思っている」

(4)7月2日準々決勝、オランダ2-1ブラジル(西村主審)

 オランダが2-1と逆転したあとの後半28分、ブラジルのMFフェリペ・メロがオランダのFWロッベンに対しファウルを犯すと、倒れているロッベン選手を足で踏み付け、一発退場となった。

●西村主審
「こういうシーンでは心の準備が大事で、ボーッと見ていると、ほんの一瞬を見逃してしまう。後半28分という時間帯で、オランダが逆転してリードしていた。ブラジルは勝つためにいろんなことをしてくるだろう。オランダは逃げ切ろうと、うまく時間を使ってくるだろう。その2つを心の準備として持っていた。ロッベンが倒れたとき、やり返したり、やり合ったら嫌だなと思ってフォーカスしていた。そしたら『踏んだんじゃないか? 間違いなく踏んだな』と。絞って見ていたことで見えた。試合が終わって、テレビのベストアングルからのリプレーを見て、自分でもホッとしました(笑)」

●ジョン副審
「あの場面、踏んだのは正確に見られなかった。あの判定に対する選手の反応が激しくて、何か起こるんじゃないかと思い、なだめるためにピッチに入って、西村さんの横に走っていった。主審が殴られるなら自分が守らないといけないと思った(笑)」

(5)7月2日準々決勝、オランダ2-1ブラジル(西村主審)

 フェリペ・メロの退場から3分後の後半31分、ブラジルのスローインの場面でオランダのDFオーイェルがボールを遠くに蹴り出した。遅延行為でイエローカードを提示しようとした西村主審が一瞬、間違えてレッドカードを取り出してしまう。慌ててイエローカードを出し、主審、選手からも思わず笑みが漏れた。

●相樂副審
「ブラジルのカカがスローインしようとしたら、オランダの選手がボールを蹴った。(西村)雄一さんに(無線のコミュニケーションシステムを使って)『イエローカード』と言ったら、ポケットから赤いのが出てきて、『それは赤ですよ』と」

●西村主審
「ブラジルのスローインになったのは分かっていたので、中で他に気になることがあってピッチの中に目を向けていた。オランダの選手がボールを蹴ったのは見ていなかったので『だれ? 何番だ?』と聞いて、『13番(オーイェル)ね。オッケー』と。100%イエローカードの気持ちで取り出したら、目の前が赤で……。自分はいつからマジシャンになったんだろうと(笑)。その前にレッドカードを出したときに無意識にパンツのポケットに入れていて。普段、レッドカードは胸のポケットに入れているので。あれっと思ってポケットをもう一回探したら、もう1枚入っていて、よかったぁって。選手に『ごめん、ごめん。イエローカードだ』って言ったら向こうも『でしょ? イエローなら問題ないよ』と。その前にレッドカードがあってシリアスになっていたので、ちょっと和んだというか、不幸中の幸いでした」

<写真>レフェリーワークショップには西村雄一主審(前列中央)、相樂亨副審(同右)、ジョン・ヘサン副審(同左)らが参加

(取材・文 西山紘平)

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