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引退の大岩が天皇杯を掲げる。「幸せでした。みんなに感謝したい」

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 まさに最高のフィナーレを迎えた。表彰式のラスト。今季限りで現役を引退する鹿島アントラーズのDF大岩剛は、主将のMF小笠原満男に天皇杯を手渡された。大事につかんで後輩たちの目を見ながらその場でぐるっと一周すると、空高く掲げた。優勝者にだけ与えられる“儀式”をしたその瞬間、チームメート、鹿島サポーターも一斉に天に両手を突き上げて喜びを分かち合った。

 「素晴らしいチームメートとやれて幸せでした。(表彰式のテラスに)上がる前から満男や浩二(中田)が(天皇杯を掲げてくれと)言ってくれていた。みんがそうしてくれたので、やらせてもらいました。優勝という形で送り出してくれたことが何よりも嬉しかった。みんなに感謝したい」

 至福の時はウイニングランのあとも続く。大岩は鹿島側のゴール裏サポーター席に招き入れられ、男性サポーター2人に担ぎ上げられながら、スタンド中段まで上がる。そして「大岩コール」を一身に浴びながら、サポーターの目の前で再び天皇杯を掲げた。聖地がまるで大岩の“引退セレモニー会場”のようになり、大ベテランは男泣きした。大岩はその後、すがすがしい表情で取材エリアに訪れ、仲間たち、サポーターに何度も感謝の言葉を口にした。

 準決勝のFC東京戦では負傷欠場したDF岩政大樹の代役としてCBで先発したが、その試合に前半だけで交代した。結局この日はMF中田浩二がCBに回り、大岩はベンチで出番を待つことになった。「大岩選手をピッチに入れるというプランはあった。もう少し粋な形にするために、キャプテンマークを巻いて優勝してピッチで終わるというアイデアがあった。もし2点差になっていたらそうしていた」とオリベイラ監督はサプライズを用意していたことを明かしたが、結局出番はなかった。指揮官は“プラン実行”する結果に導けず残念そうだったが、「小笠原がトロフィを受ける際に、粋な形で彼に渡して掲げることで、代弁してくれた」と安堵していた。

 試合には出なかったが、十分に貢献した。「剛さんには本当に助けられた。感謝の気持ちでいっぱいです」と小笠原が言えば、同じCBとしてプレーしてきたDF伊野波雅彦は「本当に、剛さんにはお世話になった。すごく助けてもらった。剛さんに助けてもらわなかったら、いま試合に出ていないかもしれないです」と明かす。伊野波は2008年の移籍当初や今季序盤は出番を失っていた。その際、いろんなアドバイスを受け、精神的に支えてもらったという。

 2人だけではない。みんがそういう思いだった。もちろんこの試合、名門としてタイトル奪取に懸けていたが、大岩を気持ちよく送り出したいという思いが、勝利への執着心に表れたと言っていい。大岩は後輩たちが見せた“王者のサッカー”を見て、改めて鹿島の強さ、伝統を感じたようで、「絶対にあきらめない姿勢とタイトルはすべて取るという気持ち。ジーコの頃から受け継がれていて、チームとしてブレがないですね」と目を細めた。

 気になる今後だが、来季からさっそくトップチームのコーチを打診されているようだ。大岩は「今後は違った形で鹿島をサポートしていきたい」と話し、受託することを示唆した。オリベイラ監督も「彼は選手としても人間としても素晴らしい。それが(チームに)引き継がれる形になればいい」と必要としていることを示唆した。現役は退くが、サッカー人生はまだまだ続く。今後も自身のような強くたくましい後身を育て、名門の屋台骨を支えていく。

[写真]天皇杯を掲げる鹿島DF大岩

(取材・文 近藤安弘)

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