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日替わりヒーローのラスト飾る優勝弾、李「あんなゴールはもう取れない」

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[1.29 アジア杯決勝 日本1-0(延長)オーストラリア カリファ]

 天高く弓矢を射た。大会を通じて“日替わり”で誕生してきたヒーロー。そのラストを飾ったのはFW李忠成(広島)だった。0-0の延長前半8分からFW前田遼一に代わってピッチへ。与えられた時間は20分余り。それでもワンチャンスに懸けていた。

 延長後半4分、MF遠藤保仁のパスを受けたDF長友佑都が縦に仕掛け、左サイドからクロスを送る。「ニアに動いたら相手が食い付いてきたので、ファーに逃げた。(長友)佑都がいいボールを上げてくれた」。逆サイドで完全にフリーになると、ダイレクトで左足を振り抜いた。

 「トラップしようかと思ったけど、トラップしたらダメだと勘が働いた」。ゴール左上隅に突き刺さる弾丸ボレーにGKシュウォーツァーも一歩も動けない。「この舞台で、あんなきれいなゴールはもう決められないと思う」。チームメイトにもみくちゃにされると、最後は弓矢パフォーマンス。「僕は広島の選手なので、広島ならではのパフォーマンスをやろうと」。国際Aマッチ2試合目で生まれた初ゴールが優勝決定弾になった。

 9日の初戦・ヨルダン戦で後半開始から出場し、A代表デビュー。「初戦は硬くて、思うように動けなかった」。その後はベンチを温め続ける日々。それでも「絶対にこの大会でもう1回、自分にチャンスは来るとずっと信じ続けてきた」と気持ちを切らさなかった。

 「試合に出られなくて、モチベーションを保つのは難しかったけど、スタッフや監督、チームメイトに助けられた。フィジカルコーチとか表には出ないスタッフの人たちの気遣い、言葉遣いでモチベーションを保てた」

 相次ぐ故障者や出場停止に苦しめられた今大会は、そのたびに救世主が現れた。サウジアラビア戦(5-0)では、負傷離脱したMF松井大輔に代わって先発したFW岡崎慎司がハットトリック。DF内田篤人が出場停止だった準々決勝・カタール戦では代役のDF伊野波雅彦が決勝点を決め、準決勝・韓国戦でも途中出場のMF細貝萌が得点した。

 「先制された試合、10人の試合を引き分けではなく、勝ち切ってきた。途中から出てくるメンバーの力が大きかった。チーム力で勝ち切った。李のゴールはその象徴だと思う」。優勝の要因を聞かれたアルベルト・ザッケローニ監督はそう言い切った。

 試合終了のホイッスルが鳴ると、李はベンチに向かってダッシュし、ザッケローニ監督と熱い抱擁をかわした。「監督にも練習中から『すごくいいプレーをしているから気持ちを保ってやれ』とずっと言われていた」。控え組にも常に気を配り、声をかけてきた指揮官。その信頼と期待に応えたかった。

 「スタメンの11人だけでなく、ベンチの選手も結果を出せることを証明したかった」。そう力説した李は「僕はまだスタメンは1回もない。これからの目標はスタメンで出ること。そのために練習から日々アピールしていきたい」と言った。この一発で終わるつもりはない。チームをアジアの頂点へ導いた優勝弾は、これから続くサクセスストーリーのほんの序章であるはずだ。

[写真]決勝点を決めてゴールパフォーマンスを見せる李

(取材・文 西山紘平)

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