beacon

城福新監督が大演説! “大企業クラブ”に「プロヴィンチアの代表として割り込んでいく」

このエントリーをはてなブックマークに追加

 久しぶりのスポットライトが一層、気持ちを高ぶらせた。今年からヴァンフォーレ甲府の指揮を執ることになった城福浩新監督は、会見でカメラのフラッシュを無数に浴びた。シーズン中の2010年9月に成績不振でFC東京を解任されて以来の現場復帰。やはり現場が良い--そんな思いが、より湧き出たようで、挨拶の冒頭では「1年強、現場から離れていたが、こういう気持ちを味わいたかったんだなと思いました」と本音が飛び出した。

 複数年契約を結び、昨年の1シーズン限りでJ2降格となった甲府の再建を任された。今季のチームスローガンは感動という意味もあるムーブという言葉、ムービングフットボールから取った『move 原点からの挑戦』に決まったが、FC東京時代やアンダー世代の代表監督時代に見せた“ボールも人も動く”攻撃サッカーを浸透させること、それと同時に育成面も期待されている。つまり、課せられた使命はJ1復帰だけではない。中期的なチームの底上げも託されている。

「日本(Jリーグ)は、大都市と地方都市(のクラブ)という区分けではなく、大企業に多大なるサポートをしてもらっているクラブと、市民あるいは県民、地元の企業に支えられているクラブ、この2つに分けられると思う。私の中ではだいたい、大企業に多大なるサポートをしてもらっているクラブが3分の1、市民・県民クラブが3分の2という位置付け。おそらく大きな企業に支えられているチームが、ほとんど(リーグ戦の)上位を占めているのが現実。その中で我々は、残りの3分の2の先頭に立つつもりはありません。私はこの上位の3分の1に、プロヴィンチアの代表として割り込んで行く。そういう気概を持って、このチームを指揮していきたい」

 会見では2枚のフリップ・ボードを用意し、目標やチームコンセプトを熱く熱く説明した。1枚目には短期の目標として『J1昇格』。そして中期の目標として『プロヴィンチアの象徴に』と記した。プロヴィンチアとは、イタリア語で地方都市や田舎などの意味がある言葉。甲府はいわずとしれた地方都市で、国際的な大企業の支援もない。そんな地方クラブの旗頭として“下克上”を成し遂げる野望を掲げた。

「JFLを含め、今後もJリーグに参入しようとするクラブはたくさんあり、これからプロヴィンチアのクラブが増えていく。その中で、我々のようなプロヴィンチアのクラブが、現場で存在感を示し、結果として、成績として割り込んでいく。割って入っていけたら、サッカー界に大きなインパクトを与えられるんじゃないかと思う。それは自分のやりがいにも通じることで、甲府にお世話になることを決めた大きな理由です」

 当然、野望実現の第一歩にはJ1復帰がある。指揮官は「ビッグクラブに割り込むには、一番上のステージにいくことが絶対条件。少しでも早くJ1のステージに達したい思いがある。J1でビッグクラブの中に、我々も割り込んでいく。そういう姿をイメージしながら、明日からのトレーニングをやっていきたい。(そういう姿を)ピッチで感じてもらえるチームを作りたい」と強い口調で明かした。

 方法論についても説明した。2枚目のボードを出し、コンセプトとしてFC東京時代にも掲げた『Moving Football』を宣言。さらに「主導権を握る中での個の特徴を 選手が楽しむ⇒観ている人も」「リスクを負う 志・リバウンドメンタリティ」とも記し、目指すサッカーを解説した。

「私は前のクラブでもそうでしたが、『ムービング・フットボール』というのは変わらない。ムーブという単語には、感動させるという意味があります。観に来ている方に、支持していただける方に感動していただくためには、プレーする選手が楽しくなければ、観ている人を楽しませられない。プレーしている選手たちが、感動をチームメートで分かち合えないと、観ている人を感動させることはできない。ここを一番、大事にしたい。彼ら自身が心の底から楽しみ、仲間とともにと感動する。そういう姿を観てもらうのが大事だと思っている。(戦術面では)人とボールが動く、ということもあるが、一番は感動させるサッカーをやりたい」

 そのためにはリスクも侵す。リスク=チャレンジだと強調した。「リスクは英語で言うと危険という訳になりますが、もともとの語源はイタリア語の『リスカーレ』という単語だと、ある本で発見しました。どういう意味かというと『挑戦する』ということ。つまり、リスクを冒さないということは『挑戦』しないということ。それは、自分は受け入れられない。攻撃だけでなく、守備でも高いレベルに挑戦する。そういうチームでないと、ムービングフットボールには近づけない」。

 これらを実現させるため、城福監督は早くも厳しい練習を課すことを明言した。「練習場のピッチが一番大事。いかにここで厳しく、楽しい場を作れるか。これがスタジアムでの我々のパフォーマンスに一番大きく関与すると思っている。選手が楽しめないと観ている人が楽しめないと言いましたが、ということはムービングフットボールは楽なのかというと、それは全く違う。自分たちが満足して楽しむためには、それ相応の努力を毎日しないといけない。その達成感こそが楽しいんだと。毎日毎日を大事にしようと、選手とは確認し合いました。それがやれるメンバーだと思う」

 すでに、外国人選手以外の全日本人選手と面談。「どういう立場で、どのような思いで昨年1年間を過ごして、その思いをどう晴らしたいんか、確認することができた。それがここに書いてある『リバウンドメンタリティ』。彼らのリバウンドメンタリティを信じている。365日、厳しい取り組みができる集団だと信じている」と思いを明かした。

 J1昇格とチームの底上げ、そして地方都市クラブの代表として、J1優勝争いへ-。城福ヴァンフォーレは多くの目標を掲げた。FC東京を指揮していたときは、首都・東京のクラブにふさわしく、J1制覇、常勝軍団への実現を目指したが、道半ばで途絶えた。城福監督個人としても、今度こその思いがある。多くのサッカーファンから支持を受ける知将は、甲府で新たな野望に挑戦する。


(取材・文 近藤安弘)

▼関連リンク
2012年Jリーグ移籍情報

TOP