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ウイイレ世界一がFIFA参戦4か月で快挙!! eJ制覇の福岡代表エビプール「生活もかかっていたので…」

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エビプール(アビスパ福岡)

 “本格参戦”からわずか4か月、ウイニングイレブン世界一のエビプール(アビスパ福岡)がFIFAシリーズでも日本の頂点に立った。「いま無所属で給料が出ていない状態で、貯金を切り崩してなんとかギリギリの中で生活をしてきた。あと1年、結果を残せなかったらこの道を諦めて働こうと思っていた」。大きな覚悟を持って臨んだ初出場のeJリーグ。自らのスタイルでe日本代表の強豪選手も次々に破り、優勝賞金の100万円を見事に掴み取った。

 ウイイレ勢によるFIFA大会制覇——。衝撃的な結末を迎えたeJリーグだったが、張本人のエビプールも苦笑い気味に振り返った。「まさか……と。正直自分が一番驚いています。さすがに優勝できるとは思っていませんでした」。準決勝で2連覇王者のジェイ(川崎F)、決勝で今大会全勝のアグ(横浜FM)と、e日本代表勢を立て続けに破っての戴冠に驚きを隠せなかったようだ。

 それもそのはず。FIFAシリーズをプレーし始めたのは前作『FIFA 21』からで、競技シーンに加わったのは最新作『FIFA 22』が発売された昨年9月末。自身が専門にプレーしてきたウイニングイレブンの後継シリーズ『eFootball』のローンチ延期が決まったことで、eスポーツ選手として戦う場を探しての決断だった。「そこからは1日7時間から8時間なり、仲良い人と技を教え合いながら吸収していった」。経験こそ少なかったが、戦う場を失った男の覚悟は並大抵のものではなかった。

 日本国内におけるサッカーゲームのeスポーツ市場は小さく、昨年夏にはウイニングイレブンで世界一に輝いたものの現在所属チームはなし。共働きの妻の力も借りながら、貯金を切り崩して生活する日々を過ごしてきた。「生活も本当にかかっていたので、その部分で自分はやるしかない。この1年にかけていた。『絶対にeスポーツで生活していくんだぞ』と自分に言い聞かせて、毎日練習して成長してきた」。その覚悟は、FIFAの競技シーンを支えてきた強豪を次々に破ったプレースタイルにも表れていた。

 エビプールの得意とする戦法は、ラインを低く引いた守備ブロックで相手の攻撃を堰き止め、攻めては相手の守備ブロックがズレるまで徹底的にボールをつなぎつつ、機を見た縦展開でダイナミックに相手を陥れるというスタイル。「ポゼッションをするとサカゲーでは“鳥かご風”と言われる」と批判の対象になることも覚悟しつつ、「それをまったく気にせず、自分の攻撃を貫いてきた」。その結果、強敵との戦いでも自分のペースに引き込み、優位に試合を進めていった。

 またウイイレで培った意外性のある攻撃も頼れる武器となった。FIFAシリーズを始めたばかりの頃は「このパスが通る、通らないの感覚が全然違う」と苦労もあったというが、「FIFAのプレーヤーが予想していない攻撃ができる」という強みを最大限に活かした。いまでは「意外性のあるプレーを混ぜられるので、(ウイイレをプレーしていたことは)メリットのほうが大きい」と誇れるほどになった。

 クラブ別予選を勝ち抜いて代表権を得たアビスパ福岡との出会いも、エビプールにとっては大きな出来事だった。最初は予選突破を目標に据えて「有名なプロ勢が出るという話を聞いていなかった。優勝を目指していたので、その可能性の高いチームだと考えた」とプロフェッショナルな選択での邂逅となったが、「使っていくうちに全員の名前を覚えて行って、愛着がわいていった。サポーターからのメッセージも見て福岡が好きになった」。何より奇しくも、福岡の陣容がエビプールの戦法にこれ以上なく合致していた。

「フアンマ選手、山岸選手は身長が大きくて、自分はサイドからの攻撃を得意としているんですが、杉本選手、ジョルディ・クルークス選手はドリブルがしやすい。サイドバックの湯澤選手、志知選手はじめディフェンス陣も身長が高いので相手のクロスに対応できる。自分に適しすぎていて、使いながらどんどん自信が出てきた」

 徹底的なポゼッション戦法は相手のプレッシングがハマるリスクも内包するが、日頃のトレーニングからFWフアンマ・デルガドへのロングボールで回避する形を習熟。「GKに戻して長いボールを蹴れば、競り勝てるのでかなりのチャンスだと分かっていた」。そのフアンマは今大会でも得点を量産し、クラブ史上初のタイトル獲得に大きく貢献。大会の配信では「アビスパらしい戦い方」と称する声も多く、サポーターにも好意的に受け止められたようだ。

 そうした前向きな要素を自分のモノにしつつ、最後に身を助けたのはウイイレ世界一の経験だった。

「世界一になるまでは大事なところで失点したり、得点を決められないことが多かったけど、メンタル的にかなり強くなったのかなと思っている。何が起きてもサッカーを貫いて、自分を信じて戦うことができた。サカゲーはメンタルが本当に大事なので、そこで秀でていたと思う」。そんな戦線を支えていたのは妻の存在。優勝賞金100万円を手にした男は「今まで苦労をかけていた。奥さんとの旅行だったり、喜ばせることに使いたい」と白い歯を見せた。

(取材・文 竹内達也)

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