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強さ示した鹿島ナスリ、ぶっつけ5バック&CMFベンゼマでFCS初代王者に!! FIFAシーンの変化にも手応え「レベルがすごく上がっている」

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e日本代表のナスリ(=鹿島アントラーズ)

 新たに創設された『FIFAコミュニティシリーズ』(FCS)第1回の決勝大会が21日、東京都内で行われ、e日本代表のナスリ(=鹿島アントラーズ)が初代王者に輝いた。決勝戦ではe日本代表でチームメートのアグを2戦合計スコア2-1で撃破。昨季のeワールドカップにアジア勢で唯一参戦した国内最強プレーヤーが、あらためて強さを見せつける形となった。(マッチレポートはこちら)

 持ち前のプレースキルだけでなく、駆け引きの巧みさが際立つ戦いぶりだった。準決勝のファントム戦以降、ナスリはこれまで使用してこなかった5-4-1(ゲーム内では5-2-2-1)のシステムを「ぶっつけ本番」で採用。今作の仕様を踏まえての決断だったが、その裏には世界の壁に阻まれた昨季のeW杯やeネーションズカップで学んだ教訓も活きていたという。

「『22』の世界大会は一つ二つのフォーメーションだけで挑んで行ったけど、今回のように“ぶっつけ”だったり、頭の中で想定してハマるなと思えたものも手札として出すようにしなきゃいけないんだなと思った。これまで5-2-2-1はやったことがなくて、今日の準決勝から初めてやったけど、そういうことができたのは『22』の世界大会で経験して得られたものだと思う」

 この日、決勝で対戦したアグも布陣変更の駆け引きに長けたプレーヤー。その能力がいかんなく発揮されたのは準決勝のゆーみー戦。同じe日本代表の強者に2点を先行される苦しい展開となったが、システム変更とプレス強度設定で一気に戦況を盛り返し、カタールW杯での日本代表のような猛反撃で逆転勝利につなげていた。

 もっともナスリもその一戦を分析し、駆け引きのプランを持って決勝戦に臨んでいた。「アグが3-4-2-1で巻き返していたので、それの守備的バージョンの5-2-2-1を使うのがいいかなと」。あえて持ち前の攻撃的なスタイルを封印し、ミラーゲームで拮抗した展開に持ち込むと、1stレグの後半40分に待望の先制点を奪った。

 ゴールを決めたのは3人以下の使用制限があるレート90以上選手のカリム・ベンゼマ(92/ウィンターワイルドカード)。本来のFWではなくMFとしての能力を高めた特殊カード(昨年12月に登場)だが、定番とも言える守備的なエンゴロ・カンテ(89/金レア)ではなく、攻撃能力も兼ね備えた彼をボランチに使うことで、果敢な攻撃参加からリードを奪ってみせた。

 そしてその後はアグの猛攻を封じ、得意の展開に持ち込ませなかった。幅広くサイドに張るウイングバックを有効に使い、アグのハイプレスを見事に回避すると、局面では「めっちゃ練習してきた」というシザーズを織り交ぜながら徹底的にボールをキープ。トレンドへの適応や布陣の使い分けが必要となるのは現実のサッカーでも同じか。カタールW杯の勝ち筋にも重なる盤石の試合運びで、新大会のタイトルを手にした。

 準々決勝でファントム、決勝でアグという盟友を倒しての初代王座。ナスリは「いつも一緒にやっているんで負けたくないという気持ちは本当にめっちゃ強いですし、何かあったら『この前は勝ったから』って言われるので(苦笑)。やっぱりそういうのが一番嫌なので、絶対に勝ちたいなという気持ちは強い」とホッとした表情も浮かべた。

■FIFAコミュニティシリーズの誕生
 eスポーツプレーヤーをマネジメントするスポーツITソリューションにより、新たに創設されたFIFAコミュニティシリーズ。ゲーム内レートで参加制限がある公式大会『FIFAグローバルシリーズ』などとは異なり、オープン予選には一般ユーザーも参加できるコミュニティ大会という位置付けのため、このタイトルが世界大会につながるわけではない。

 しかし、世界大会を目指して日々トレーニングを積んでいるナスリにとっても、この大会が新たに生まれた価値は大きいのだという。

 まず一つめの要因はeW杯などの世界大会と同様、各プレーヤーたちが一会場に集まるオフライン方式で大会が行われていること。ナスリによると「オフライン大会は一番実力が出る」といい、「プロの中では(各プレーヤーが自宅などでインターネットを通じて対戦する)オンライン大会よりもオフライン大会のほうが重要視されているので、貴重なオフライン大会で結果を残すのはみんなが狙っている。そこで優勝できたのが本当に嬉しい」と優勝の喜びを語った。

 また“非日常”的な年数回の世界大会とは別に、トッププレーヤーと真っ向から競い合える“日常”が生まれることだ。

 これまではJリーグ主催でeJリーグが行われており、大いに盛り上がりを見せていたが、FIFAシリーズとのパートナーシップ契約の都合で昨季限りで終了。今大会は1月から3月にかけて3回が予定されており、ナスリは「こういう大会が年に何回もあるというのは今までなかったこと。モチベーションの面でも大会があるかないかで違うので、そういう面でもありがたい存在」と前向きに語る。

 さらにそうした“日常”の向こう側には、競争力の向上や裾野の拡大にも期待がかかる。近年のeJリーグなどの盛り上がりを受け、ナスリはその兆しも感じているという。

「大会があるからみんなが練習する。練習するからみんな上手くなる。上手くなれば一般の人たちもこういう大会に参加するモチベーションが上がって、みんなのレベルが上がってくる。そのためには大会があるということが大事だと思うし、実際にレベルがすごく上がっていると感じている。(ゲーム内の)ディビジョンライバルズとかウィークエンドリーグで当たる人たちも、前まではプロしかやっていなかった技を普通に当たり前にやってくるようになってきているので、(eJリーグなどでの盛り上がりによって)いろんな影響が出てきているのかなと思います」

 もしも全体の競技力が高まっていけば、ナスリやアグらが長年牽引してきた競技シーンにも序列変化が起きる可能性もある。それでもナスリは「自分としては崩されたくない一心でやってきているので、崩されたくない。ただみんながそこを狙ってやってきているので、それも自分のモチベーションになる。かかってこいとは言わないけど、優しくかかってきてねくらいでいます」と控えめながら野心を語った。

 FIFAシリーズは今季限りで一時代を終え、今年夏以降は「EA SPORTS FC」として生まれ変わることが決まっており、eスポーツプレーヤーにとっても今季は大事なシーズン。ナスリが目指すは昨季超えだ。「狭き門なので難しいとは思うけど、まずは世界大会に出たい。そして前回の前回の雪辱を果たしたい。グループリーグ7位で終わったのでそれより上に行きたいです」。

(取材・文 竹内達也)

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