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Jリーグも3Dオフサイドライン導入へ! 正確さは大幅アップも所要時間増加か

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木村博之氏がVAR、荒木友輔氏がAVARとして実演

 日本サッカー協会(JFA)は27日、千葉市の高円宮記念JFA夢フィールドで2023年の第1回レフェリーブリーフィングを行った。Jリーグでは今季、オフサイド判定での「3Dライン」を新たに導入予定。この日は木村博之氏がVAR、荒木友輔氏がAVARとしてシミュレーターを使い、実際のオペレーション工程を報道陣に公開した。

 この日は実際のUEFAチャンピオンズリーグ(欧州CL)の一場面を使用し、オフサイドの判定を下すまでの流れを実演。世界大会の経験も持つ国内トップのレフェリーが作業を行っても、1度目のデモで約1分40秒、2度目のデモで約1分20秒ほどの時間がかかっていた。今季から新たに導入される「3Dライン」の手続きに精密さが求められるためだ。

 Jリーグでは2020年のVAR元年以降、ピッチの接地面のみで判定を下す「2Dライン」を使っていたが、判定の正確さをさらに高めるべく、今季からは上半身などの立体的な判定が可能となる「3Dライン」を使用。その結果、作業フローが増えることになり、これまでよりも時間がかかることが想定されている。

 3Dラインの作業手順は以下のような流れだ。

①Point of contactの確定
②2Dラインで確定
③3Dラインに切り替え
④守備側競技者の3Dラインを引く
⑤攻撃側競技者の3Dラインを引く
⑥Confirmする

 攻撃側のパスなどによる①Point of contactの確定から、②2Dラインで位置関係を把握するところまでは従前の仕組みと同じ。すなわち、2Dラインでも一目でわかるような判定ならば、これまでどおりの時間で判定手続きが終了することになる。しかし、2Dラインでの判定が難しい場合は、③3Dラインでの判定に移行する。

 3Dラインを引く作業ではまず、VARがリプレイオペレーターに「誰の」「どの部位が」オフサイド判定の対象になるかを伝達。そしてリプレイオペレーターが初めに④守備側競技者、次に⑤攻撃側競技者という順番でラインを引く。オフサイドでは対象選手が複数いたり、部位が見にくいことも少なくないが、ここで間違えると重大な判定ミスにつながるため、慎重な作業が求められる。

 この手続きが完了すれば、あとはおおむねシステムが自動で作業してくれる。攻守それぞれの対象選手の部位から下ろした垂線を特定することで、ピッチ上に守備側は青のライン、攻撃側は赤のラインが引かれる。二つのラインの位置関係が確定し、最終結果を確定する画像を生成する⑥Confirmが終われば全ての作業完了となる。

 なお今季から、オフサイドラインを引く場合は2D・3Dとも、従前の16mカメラ(ペナルティエリア横)の2台だけでなく、メインカメラとゴールラインカメラを使うことができるようになる。5台のうちどれを使うかは人の目で判断しなければならないが、こちらも判定精度の向上につながりそうだ。

JFAが公開した3Dラインの参考画像

 そうした新たな変化に慣れるべく、Jリーグ登録審判員は開幕に向け、シミュレーターを活用したトレーニングに励んでいる。指導するのは昨季限りでJリーグ担当審判員・国際主審を勇退した
佐藤隆治氏。オペレーション工程の実演ではシミュレーターの脇で、現役時代に選手と向き合っていた際と同様の熱量で報道陣に説明を施していた。

 佐藤氏が入念に強調していたのは「最初は時間がかかる」ということだ。この日担当した木村氏、荒木氏はいずれも日本のトップ主審。しかも、判定の対象となるビデオクリップは何度も見たことのあるものだといい、「かなり優秀なVAR、AVARでやっても時間がかかると思う」と展望する。

 もっとも、全ては判定の精度を高めるため。「時間をメインに考えると間違いが起きるが、それは誰も望んでいない」と力説した佐藤氏は「正確さが本当に求められる。僕たちがこだわらないといけないのは映像の1フレーム前か、1フレーム後ろかの非常にタイトなところ」とし、「1フレームの違いで間違いが起きてしまう。『本来はフィールド上の判定が正しいけど、VARによって間違う』という可能性もある。まずは間違いがないことを気をつけている」と優先順位を示す。

 その一方で「手順をスムーズにすることでチェックの時間は短くできると認識している。どの審判員もシミュレーターのトレーニングの時に意識してやっている」とも語った佐藤氏。習熟するにつれて時間短縮につながるという感覚は、VARを務めた木村氏も同様だ。

 木村氏は「今日はプレッシャーもないし、実際の試合とは違うことを考慮すると、実際の試合ではより丁寧に作業をしないといけない考えになるのでもう少し時間がかかってしまうだろうというのが正直な気持ち」と明かしつつも、「トレーニングを積んでスキルをアップすれば短くできることもある。実際の現場で強く意識しながらやっていきたい」と手応えをのぞかせた。

 判定の迅速化か、正確化か——。VAR誕生時から付きまとうジレンマは3Dラインの導入により、さらに問われることになりそうだ。だが、2Dラインは判定の根拠に乏しい場合が多く、欧州主要リーグをはじめ世界的には3Dラインが主流。いまさら後戻りすることは難しい。そのため当面の間は、プレーする側の選手も、見守る側のサポーターも、辛抱強く待つことが必要になりそうだ。

(取材・文 竹内達也)
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