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W杯切符を得て2冠に輝くもどん欲。電動車椅子サッカー日本代表・三上が抱く危機感

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撮影:松本力

[11.3 パワーチェアフットボールチャンピオンシップジャパン決勝 
Yokohama Crackers 2-0 FCクラッシャーズ](静岡エコパアリーナ)

重度の障がい者が電動車椅子を駆使してサッカーをプレーする全日本の頂点を決める「パワーチェアフットボールチャンピオンシップジャパン2019」が2、3日の2日間にわたって行われ、静岡県袋井市で開催され、Yokohama Crackers(神奈川県)が強豪のFCクラッシャーズ(長野県)を下し、2年ぶり4度目の優勝で幕を閉じた。

 国際表記に倣って「日本電動車椅子サッカー選手権大会」から大会名称を変更した今大会は、名実ともに「国際基準」が色濃く反映された大会となった。2021年電動車椅子サッカーW杯オーストラリア大会のアジア・オセアニア地区予選となる「APOカップ」からわずか1週間後の開催だったが、APOカップでのレフェリング基準が事前の通達なく採用され、ほとんどのチームがその変更に対応できず、大会は例年になく荒れた。

 特に厳しくなったのは接触に対しての基準だ。例えば守備をしに行った選手のバンパーが、ボールを保持している選手の身体に近い位置(今大会では黄色いテープで「車体」と「バンパー」を明確に示した)にわずかでも接触した時点で、すぐに笛が吹かれた。強い衝撃が加われば、即座にイエローカードが提示される。そのため、過去大会では珍しくさえあったイエローカードが、今大会は頻発した。MAX10(時速10kmカテゴリ)注目カードの一つ、SFCデルティーズ(静岡県)と優勝候補・Nanchester United鹿児島(鹿児島県)との試合では、両チームのキャプテンがイエロー2枚ずつで退場するという異例の事態に。今大会の混乱を象徴するような出来事だった。

 Yokohama Crackersの一員として優勝を果たし、大会MVPにも選ばれた日本代表・三上勇輝は、生まれつき脳性麻痺に伴う四肢の麻痺があり、9歳の頃から電動車椅子サッカーをプレーしはじめた。30歳という若さでありながら競技歴20年というベテランだ。競技経験の豊富な三上選手も「国際基準」に翻弄された今大会の難しさを口にした。

「試合を見ていて、新しいレフェリングの国際基準に各チームは苦労していたな、という印象はあります。私たちはその分アドバンテージがあったので、有利に試合を進めることができました」

 所属選手5人のうち4人は、日本代表に選出されAPOカップでのレフェリングを経験している。それがチームに有利に働いたことを、三上選手は否定しなかった。オーストラリアから帰国後わずか1週間での大会というハードスケジュールも、逆にチームを後押ししたという。

「むしろサッカー漬けの毎日で、コンディションは良かった。チーム内ではGK清水猛留選手がAPOカップを通して大きく成長し、今大会でもチームを助けてくれました。APOカップがYokohama Crackersの成長を促してくれたと思っています」

 レフェリング基準の変更やタイトなスケジュールを味方につけたYokohama Crackersの優勝は、その順応力の高さの賜物と言えそうだ。

提供:松本力

 しかし、喜んでばかりもいられない。障害区分PF2(比較的障害が軽いクラス)である三上の持ち味は、強い身体を活かした球際の競り合いと突破力。だが今回のレフェリング基準変更により、苦手とするパスを重視したプレースタイルへの転向を余儀なくされることになる。今後の課題を問われると、三上の表情は引き締まった。

「レフェリング基準が変わったことで、ドリブルサッカーの制約が厳しくなりました。これからの日本全体に言えることですが、世界的にも重度障害の選手が多い日本で、パスサッカーをいかにして浸透させるかが重要になります。Yokohama Crackers もPF2(比較的障害が軽いクラス)が一人なので、パスサッカーをチームに浸透させること、そして自分自身もパスサッカーの精度を上げることが大きな課題になると思います」

 三上はAPOカップでMVP(大会最優秀選手)と得点王を獲得。日本代表としても円熟期に差し掛かっている。

「(APOカップでは)キャプテンの内海恭平選手がチームの責任を負ってくれたので、自分は自由にプレーさせてもらうことができました。前回のW杯アメリカ大会での経験から、レフェリング基準やルールの唐突な変更があることは予測できたので、戸惑うこともありませんでした。MVPと得点王の獲得はチームが一つになったことが大きな要因だったと思います」

 電動車椅子サッカー日本代表は、ともにアジア・オセアニア地区の1枠を争ったニュージーランド代表に競り勝って、W杯オーストラリア大会の出場権を獲得した。本大会は2021年、大会本番までもう2年を切っている。

「自分が日本代表に再び選ばれることが前提ですが、海外の選手をリスペクトし、日本がどう変わっていくべきかをもっと考え、それを自分自身のプレイと代表にどう落とし込めるか。いつ代表に呼ばれても良いように、常に準備をしたい。日本代表としては、前回大会よりも上位を目指すこと(2017年アメリカ大会では出場10チーム中5位)がW杯オーストラリア大会の目標になると思いますが、まずはAPO(アジア・オセアニア地区)ゾーンの中でトップに立つことが必要だと自分は考えます。アメリカやフランス、イングランドには実力的に及ばないので、そこに日本がどうすれば追いつけるかを考えながら活動したいです」。

 大会に先駆けて行われた日本代表の報告会で「日本は世界に6年は遅れていると感じた」と、APOカップの日本代表を率いた近藤公範監督は語った。各国列強は、国際大会やトレーニングマッチを繰り返して経験を底上げし、日本の遥か先を行っている。日本代表が克服しなければならない課題は山積しているが、ひとまわりもふた回りも成長した三上の言葉には強い決意がみなぎっていた。

(取材・文 松本力)

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