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[MOM3931]青森山田DF多久島良紀(3年)_頼れる主将の堂々たる帰還。7か月ぶりのプレミア復帰戦を完封勝利で飾る!

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帰ってきたキャプテン、青森山田高DF多久島良紀

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.26 高円宮杯プレミアリーグEAST第10節 横浜FMユース 0-2 青森山田高 保土ヶ谷]

 みんなが、この時を待っていた。プレミアリーグでは実に7か月ぶりとなる、頼れるキャプテンの復帰。赤い腕章が左腕に映える。

「ここまで凄く長かったですね。今から考えればあっという間でしたけど、その時その時は本当に長く感じて、我慢の時が長かったです。だからこそ、こうやって試合に出られているのも、いろいろな人の支えがあるからだと感じているので、そこは本当に感謝して、ここからも思い切りサッカーを楽しみたいと思います」。

 三冠王者唯一の“2年生レギュラー”だった男の帰還。2022年の青森山田高(青森)でキャプテンを託された精神的支柱。DF多久島良紀(3年=大宮アルディージャU15出身)がプレミア復帰戦で、チームの完封勝利を力強く引き寄せた。

 それは想像以上の重傷だった。右ひざの前十字靭帯断裂。プレミアリーグEAST、高校選手権と掲げた高校年代三冠への挑戦も佳境を迎えつつあった昨年11月に、多久島は無念の戦線離脱を突き付けられる。チームは目標を見事に達成したものの、その歓喜はピッチの外で味わうこととなる。

 新シーズンもリハビリを続ける日々からのスタート。チームの活動停止。思ったような結果の出ないプレミアリーグでの苦闘。「やっぱりチームの苦しい状況が続いていた中で、自分がキャプテンとして何もできないというもどかしさと、悔しさもありましたけど、それもしっかり我慢して、『復帰した時にチームに貢献してやろう』と思ってきました」。焦りがなかったと言ったら嘘になるが、懸命に自分を律し、来たるべき時をひたすら待ち続ける。

「練習に復帰する前にみんなに感謝の気持ちを伝えました」という多久島は、6月中旬に開催された東北高校選手権大会で、久々に公式戦のピッチを踏みしめる。ただ、待ちに待った瞬間だったとはいえ、自身のイメージと実際のパフォーマンスには小さくないギャップを感じていた。そんな中で迎えるプレミア復帰戦。相手はリーグ最多得点を誇る横浜F・マリノスユース。「東北大会も全然良くなかったので、今日も少し不安はありました」と正直な心情を明かす。

 しかし、その不安は、杞憂に終わる。「自分が入って失点してしまったら意味がないので、無失点に凄くこだわっていましたし、シュートチャンスは作られましたけど、最後は気合で何とかゼロに抑えられたのは良かったと思います」と振り返ったように、相手の強力攻撃陣を周囲と連携してシャットアウトすると、攻撃陣も躍動して2-0で快勝。キャプテンのプレミア復帰戦は最高の結果で締め括られる。

「やっぱりキャプテンですし、みんなを盛り立てることもできるし、指示も出せるし、しかもヘディングを含めたプレーでも見せられるしということで、やっと他の3年生も待ちに待ったキャプテンが、頼もしい存在が帰ってきたという感覚だろうね。それによって周りも締まるし、凄く良い影響かなと思います」とは黒田剛監督。厳しい指揮官も信頼を寄せるキャプテンの話題に、思わず顔がほころぶ。

 多久島の不在時にキャプテンマークを巻くことも多かったFW小湊絆(3年)は、本来のキャプテンの復帰がチームに与える影響を問われ、「“きもち”ですけどね。あまり誉めたくないですけど、今までより“きもち”締まるかなぐらいです(笑)」と笑顔でらしい答えを。それを伝え聞いた多久島は「絆はそういうヤツなんで」とこちらも笑顔。チームに帰ってきたポジティブな空気感が垣間見える。

 この日は昨年から“主戦”として投げてきたロングスローも“5球”程度にとどまった。「他にも投げられる選手はいるので、自分も中で得点を決めたいという欲もありますし、他の選手が投げられなくなったら自分が投げる感じで、今年はゴールを狙いたいと思います。最後の方は来依もあまり調子が良くなかったので、流れを変えようと思って投げました(笑)」。“先発”のDF渡邊来依(3年)の後を受け、終盤には“リリーフ”を務めたが、やはりその飛距離と弾道は高校年代有数のそれ。そのあたりからもこの男の帰還を実感する。

 自分の中で見える景色も、確実に変化しているという。「自分は下級生の頃から結構試合に出てきたので、このリハビリの期間で外から見る景色や想いも感じることができましたし、それがあったからこそ責任感もより強く感じることができているので、今までの時間は無駄ではなかったと思います」。

「それに家族だったり、トレーナーの方だったり、コーチ陣や監督にもいろいろと励ましてもらいましたし、そういったいろいろな人に支えられて今があるので、そこは絶対に感謝しないといけないなと。その恩返しをこれからもっともっとしていきたいと思います」。

 改めて口にした言葉に、強い実感がこもった。「やっぱり勝った時の喜びというのはいいですね。今日の勝利は今まで以上に嬉しかったです」。

 三冠王者唯一の“2年生レギュラー”から、名門を束ねる“絶対的なキャプテン”へ。ようやくピッチに帰ってきた多久島の2022年には、まだまだこれから味わうべき歓喜がいくつも用意されているはずだ。



(取材・文 土屋雅史)
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