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[MOM4124]帝京MF押川優希(3年)_「今までで一番気合を入れてきた」クールな司令塔が古巣対決で示した”凄味”

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帝京高MF押川優希は古巣相手のビッグマッチで圧巻のパフォーマンス

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[11.27 高円宮杯プリンスリーグ関東1部第17節 帝京高 4-0 東京Vユース 帝京大学グループ千住総合G]

 冷静沈着な男は、青い炎を燃やしていた。沸々と湧き上がる勝利への意欲。中学時代を過ごした古巣との再会。3年間の成長をぶつけるには格好の舞台に、気持ちが入らないはずがない。そして、男の願いは最高の形で叶えられる。

「やっぱり一番負けたくない相手だったので、本当に勝てて良かったです。『今日は本当にやってやろう』と思っていて、家を出る時から今までで一番気合を入れてきたので、この勝利は素直に嬉しいです」。

 初のプレミアリーグ昇格を狙う帝京高(東京)の絶対的な司令塔。MF押川優希(3年=東京ヴェルディジュニアユース出身)が古巣対決で逞しく示した“凄味”が、重要な一戦のピッチの上で強烈に際立った。

「ユースに上がれる可能性は全然なかったです。正直無理だと思っていたので、いろいろな進路を探していた中で、昔から高校サッカーと言えば帝京というイメージもあって、そこで練習会に行かせてもらって、自分の中で『ここでやりたいな』という想いが出てきたので、決めました」。東京ヴェルディジュニアユースからユースへの昇格が叶わなかった押川は、帝京への進学を決意する。プリンスリーグ関東に所属するチーム同士。対戦する可能性があることは、もちろんわかっていた。

 2年からレギュラーを掴んだ押川は、ここまでプリンスで東京Vユースと2度対戦し、そのどちらも勝利を収めている。3度目の“再会”はプレミアリーグプレーオフへの進出権を懸けた2位と3位の直接対決。「今週は『いつになく気合が入っている』と周りからも言われるぐらい、自分でも気合を入れて練習してきました」。とにかくこの90分間に照準を合わせてきた。

 東京Vユースにとっても、勝てば順位が入れ替わる大事な一戦。「前半の最初の方はあまり試合に絡めないというか、ボールを受ける回数が少なくて、自分の中のテンポも作れなかったですね」と押川が振り返ったように、序盤は相手の勢いに押され気味だったが、やはり古巣対決に燃えるFW伊藤聡太(3年)のゴラッソで先制すると、以降は帝京がペースを引き寄せる。

 後半に入って2点を追加。小さくないリードを奪うと、終盤の41分には押川が積極的なプレーでエリア内へ侵入する。「トラップが思った以上にうまく行って、『どうしようかな?』と思った時に裏が空いていると思って、『ちょっと裏街道やろうかな』と。あそこまで綺麗に行くとは思わなかったんですけど、行けるんじゃないかなと思って、もう勢いで行きました」。完璧なトラップから、果敢な“裏街道”で抜け出し、飛び出したGKに倒されてPKを獲得。ダメ押しの得点機を自ら掴み取る。

 ただ、スポットにはストライカーのFW齊藤慈斗(3年)が向かう。「マジで蹴りたかったんですけど、足が攣ってしまってちょっとしんどかったのと、慈斗がこの1点で単独での得点王になるので、『まあ、いいかな』みたいな(笑)。ちょっと悔いは残りますけど、決めてくれて良かったです」とは押川。齊藤がきっちり沈めて、大きな、大きな4点目を記録。盤石の試合運びを見せた帝京が4-0と快勝を収め、来月に広島で開催されるプレミアリーグプレーオフへの進出権を手にしてみせた。

「逞しいですよね。素晴らしかったです。アイツが足を攣るのは珍しいですから、それぐらい意地もあったと思いますし、『やられたくない』というプライドもあるでしょうし、懸命に良くやっていましたね」とチームを率いる日比威監督が称賛し、6年間を同じチームでともに戦ってきた伊藤も「試合前のロッカールームで目が据わっちゃっていて、危ないんじゃないかと思っていましたけど(笑)、本当に素晴らしいプレーで、いつもそうですけど、今日も相当気合が入っていて、助けられました」と笑顔で評したパフォーマンスに、自身も確かな手応えを感じていた。

「今日勝ったら参入戦(プレーオフ)に行けるというのもありましたし、その試合でやるには最高の相手というか、自分にとっても因縁の相手なので、一番モチベーション高くやれたかなと思います」。これで出場したプリンスの試合では、東京Vユース相手に3戦3勝。選んだ道が間違っていなかったことを、何よりはっきりとした結果で証明したことは言うまでもないだろう。

 予選の準決勝で敗退した選手権に心残りがないわけがない。ただ、まだ自分たちには歴史を切り拓くラストチャンスが残されている。全員で気持ちを切り替えて、『プレミア昇格』という新たな目標へと歩み出したカナリア軍団の、そして押川の強い決意は揺るがない。

「選手権に行けなかったことで、自分たちの大きな目標は果たせなかったんですけど、まだ参入戦があって、それに勝ってプレミアに行くという目標があった中で、そのチャンスを掴むことができたので、それは無駄にしたくないですし、そこに懸ける想いはみんな本当に強いと思うので、自分たちの想いを見せられるような試合にしたいです」。

「ここまでやってこれたのはみんなのおかげなので、1試合1試合悔いのないように戦いたいですし、出れない人の分の想いも自分たちは背負っているので、その想いも試合にちゃんと繋げたいなって。応援してくれた親とか、サポートしてくれるみんな、監督やコーチ、トレーナーの皆さんの分も戦うんだということを、一番に考えてやりたいなと思います」。

 ここからはすべての試合が決勝戦。カナリア軍団伝統の8番を託された、時空を操るコンダクター。多くの人の想いを背負うことで、今まで以上に“凄味”を纏った押川の姿が、プレーオフのピッチでも必ず見られるはずだ。



(取材・文 土屋雅史)
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