あと一歩でタイトルに届かなかった昨年の悔しさは、しっかりと身体に刻み込んできた。もう後悔はしたくない。今度こそは必ず歓喜を引き寄せる。そのために、できることは全部やる。1本のパスを、1本のシュートを、丁寧に、正確に、確実に。

「自分がゴールを決めていれば結果が変わった試合もありましたし、自分がパスをもっと正確に出しておけば入ったかもしれない得点もありましたし、それも含めて最後は悔しい気持ちが大きかったので、今年こそは日本一の壁を乗り越えられるように頑張りたいです」。

　ヴィッセル神戸U-18に連なる闘将の系譜の継承者。MF坂本翔偉(新3年=ヴィッセル神戸U-15出身)は突き付けられた“あと一歩”を絶対に乗り越えるべく、新たな決意を携えて今シーズンに向かっていく。

　その存在感は絶大だった。サニックス杯国際ユースサッカー大会2023(福岡)の2日目。神戸U-18は東海大福岡に先制を許してしまう。「戦術的なところもそうですけど、1対1でちゃんと戦わなくてはいけないところで、気合が入っているのか入っていないのかという感じでした」。この試合はベンチスタートだった坂本は、できるはずのことができていない仲間を、アップエリアからもどかしく見守っていた。

　後半10分。坂本を含めた4人が同時投入されたものの、その3分後に追加点を献上。だが、そこからチームは驚異的な反発力を見せ、MF吉岡嵐(新2年)とDF山田海斗(新2年)の連続ゴールで同点に。さらに終盤の37分には途中出場のFW有末翔太(新3年)の得点で逆転に成功する。

「自分は身体の強さが売りなので、相手よりもいっぱい走ったり、戦おうという気持ちで入りました」という坂本は中盤の強度を一気に引き上げ、チームに1本の軸を通す。終了間際のアディショナルタイムには、「おりゃ～!!」と叫びながらヘディングでのクリアを披露する一幕も。「あれはちょっと気合が入り過ぎちゃいました(笑)」とは本人だが、チームが収めた逆転勝利に闘将が大きな影響を与えたことは間違いない。

　今シーズンは10番を背負うことになる。「去年の10番の永澤海風くんはドリブルが凄くて、上手い選手という感じでしたけど、自分はそこでは勝負していけないので、“戦う”という自分の武器を生かしていきたいです。でも、10番だからといって、あまりマークとか来られたらイヤですね(笑)」。もちろんこの新番号を託されたことを意気に感じていないはずがない。

　今シーズンはキャプテンも務めることになる。「僕は口で『どうせい』というようなタイプではないので、戦う部分やチームを鼓舞する部分で頑張っていこうかなと。(安部雄大)監督が言うには、去年の3年生のほとんどが『今年のキャプテンは翔偉だ』と言ってくれていたらしいので、自分がキャプテンになるとはあまり思っていなかったですけど、その期待にも応えないといけないですよね。もう自分がやるしかないですし、『やってやるぞ』という感じです」。もうやるしかない。自分の戦う姿勢で、ポジティブな空気をこのグループの中に作ってみせる。

　昨シーズンもレギュラーを務めていた坂本は、ある選手のリーダーシップが印象に残っているという。「去年のチームで言ったら、やっぱり横山志道くんはメンタルが強かったですし、チームの士気が下がっている時にもメッチャ喋って、顔を上げてプレーしているイメージだったので、あの人は凄かったですね」。

　そんな横山も含め、先輩たちと戦った昨シーズンのプレミアリーグWEST最終節は忘れられない経験だ。静岡学園高にアウェイで勝利を収めたものの、勝ち点で並んだサガン鳥栖U-18には得失点差で及ばず、2位でフィニッシュ。3年生たちは涙に暮れた。

「やっぱりあの涙を無駄にしないように、自分たちがもっとやっていかないと、去年と同じではああいう結果になってしまいますし、去年はプレミアの前期があまり勝てなくて、後期に入ってどんどん勝っていった感じだったので、スタートから良いスタートを切れるように頑張りたいです。去年の成績を超えたいですね」。去年の成績を超える。それはすなわちWEST制覇、そしてその先に繋がるファイナル制覇の一択だ。

　いよいよ突入するアカデミーラストイヤー。もう覚悟は決めている。「僕は小学校5年生からヴィッセルに入ったので、今年は悔いのないように、これまで積み上げてきたものを存分に発揮できたらなと思っています。やっぱり日本一を目指して頑張りたいですし、個人としては戦うところでも、どんな選手にも負けないようになりたいです。開幕戦、自分がゴールを決めて勝ちますよ!」。

　クリムゾンレッドのユニフォームを纏うことの意味を、誰よりもよく理解している10番でキャプテン。坂本の全力で戦う姿勢は、きっと苦しい状況に追い込まれた時ほど、チームに熱い炎を宿していくはずだ。

(取材・文 土屋雅史)