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去年の悔しさは忘れていない。明確に夏の日本一を目指す川崎F U-18はハイクオリティの千葉U-18に競り勝って全国切符獲得!

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平日ナイターに駆け付けたサポーターの前で川崎フロンターレU-18は全国切符を獲得!

[5.31 日本クラブユース選手権関東予選2回戦 千葉U-18 0-2 川崎F U-18 Ankerフロンタウン生田]

 自分たちには脈々と受け継ぎ、積み上げてきたものがある。きっと機は熟した。今ならもう、日本の頂を目指していると声を大にして言うだけの資格も、権利も、間違いなくあるはずだ。

「全国ではチームの目標として優勝を掲げていますし、一昨年と去年はどっちもベスト16で負けているので、そこを乗り越えて、優勝まで持っていけるように頑張りたいです」(川崎F U-18・尾川丈)。

 遥かなる日本一へ辿り着くための第一関門、突破。5月31日、第47回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会関東予選2回戦が開催され、ジェフユナイテッド千葉U-18(千葉)と川崎フロンターレU-18(神奈川)が対峙した一戦は、千葉U-18も高いクオリティを披露したものの、前半にMF尾川丈(3年)、後半にFW岡崎寅太郎(3年)と役者がゴールを奪った川崎F U-18が2-0で勝利。7月23日から群馬で開催される全国大会への出場権を、力強く勝ち獲っている。

「1人1人がしっかりしていて、球際も戦いますし、ハードワークしますし、ビルドアップもチームで共有しているところが凄くたくさん見られて、本当に手強かったです」と川崎F U-18を率いる長橋康弘監督が発した言葉は、決して社交辞令ではない。立ち上がりから千葉U-18は自分たちの持ち味を十分に発揮する。

 既に昨シーズンのJ2リーグで“フクアリデビュー”を飾っているDF谷田壮志朗(3年)とDF菱田大基(3年)のセンターバックコンビと、中盤アンカーに位置するMF湯田大賀(3年)でボールを動かしながら、テンポアップする時はインサイドハーフのMF東胡次郎(3年)とMF原希優羽(2年)も迷わず縦を選択。さらに左サイドはDF眞鍋波留也(1年)とFW浅川秀斗(3年)、右サイドはDF尾崎芯太朗(2年)とFW榁木絆生(1年)で組んだ両翼の推進力も際立ち、最前線にはDF登録の脇之園拓海(3年)がそびえ立つ。

 前半9分には左サイドで獲得したCKを浅川が蹴り込むと、中央を抜けたボールはわずかにゴール右へ逸れ、11分にもレフティの東が蹴った左FKに、谷田が合わせたヘディングはヒットせずに枠を外れるも、「ハッキリ言って最初は相手の攻撃のクオリティに少しビビってしまったところがありました」とは岡崎。千葉U-18が1回戦で東京ヴェルディユースを4-1で撃破した理由を、ピッチの随所に滲ませる。

最終ラインを引き締めるジェフユナイテッド千葉U-18DF谷田壮志朗


 試合を動かしたのは「注目される番号ではあるけど、背負い過ぎずにやっていきたい」と口にするナンバー10。35分。MF矢越幹都(2年)からペナルティエリアの外でパスを受けた尾川は、「最近自分自身シュートがなかったので、振っていこうというところで、幹都からいい落としが来たので、相手がちょっと寄ってきたところを、股を狙えば入るかなと思って」左足一閃。地を這うボールは左スミのゴールネットへ吸い込まれる。「簡単ではないですけど、自信はありました」と言い切った尾川のスペシャルな一撃。45分にMF志村海里(3年)が放ったシュートは、わずかに枠を逸れたものの、前半は川崎F U-18が1点をリードして、45分間が終了した。

「攻め込まれる時間もあったんですけど、その中でも自分たちのサッカーはできていたと思います」とこの日のキャプテンマークを巻いたGK菊池悠斗(3年)も話したように、得点の前後からゲームリズムを掴んでいた川崎F U-18は、徐々に右のDF江原叡志(3年)、左のDF元木湊大とサイドバックを使ったアタックも増加していた中で、後半11分に右サイドからチャンスを創出する。

 カウンター気味に縦に運んだ江原は、冷静に中央の状況を見極めると完璧なグラウンダーのパスを中央へ。「『これは叡志だったら良いボールをくれるな』とスピードを落とさずに入っていって、もう目の前にボールが来たので、あとはキーパーが出てきたところを見て、浮かせた感じです」という岡崎がGKの鼻先で浮かせたボールは、ゆっくりとゴールへ弾み込む。ピッチサイドからは「トラタロ・マルティネスだ!」という声も上がった、ストライカーの貴重な追加点。2-0。点差が開く。

 13分にも岡崎が上げた左クロスから、MF加治佐海(2年)が決定的なヘディングを放つも、ここは千葉U-18のGK染谷奎(3年)がビッグセーブで回避。19分には千葉U-18も浅川が左サイドを切り裂いてクロスまで持ち込み、こぼれに反応した東が果敢にシュートを狙うも、軌道はゴール右へ。得点には至らない。

 29分は川崎F U-18。右サイドを縦に持ち出したMF香取武(2年)のグラウンダークロスに、飛び込んだ岡崎のシュートは枠の左へ。34分も川崎F U-18。途中出場のFW高橋宗杜(3年)が好クロスを送るも、やはり後半から登場したDF柴田翔太郎(2年)のシュートは枠の上へ。35分にも高橋が単騎でラインの裏へ抜け出し、1対1のチャンスを迎え、ここは染谷のファインセーブに阻まれるも、37分に同時投入されたMF岡田泰輝(3年)とDF林駿佑(1年)も含めて、交代選手のプレーがチームの強度を担保し続ける。

 追い掛ける千葉U-18も40分には中央左、ゴールまで約30mの位置からFW倉林佑成(3年)が直接狙ったFKは枠の左へ外れると、これがこのゲームのラストシュート。センターバックのDF山中大輝(2年)とDF土屋櫂大(2年)を中心にした守備陣も最後まで崩れず、「今日も90分集中して守り切れましたし、ゼロで行けたのは一番大きいかなと思います」と菊池も手応えを口にした川崎F U-18が逞しく勝ち切り、全国切符をその手中に収めた。

 今季の川崎F U-18は、苦しんでいた。「開幕から5月の初めぐらいまでは、どちらかと言うと自分たちのやりたいサッカーではないというか、相手の攻撃を受け止めてからショートカウンターみたいな形で、勝ちを目指していたところもあったと思います」(岡崎)。プレミアリーグでも第5節まで負けなしではあったが、その中には後半アディショナルタイムの失点で追い付かれたドローが2つあり、第6節の昌平高戦では初黒星。そこに前年王者というプレッシャーものしかかってきていたことは想像に難くない。

 ただ、指揮官の意志は明確だった。「私たちスタッフも“失った4ポイント”というところで、『さあ、どういうトレーニングをしよう』ということを考えていたんですね。ただ、『これで試合の終わり方を練習するのはウチらしくないし、あえてやめよう』と。逆に『ウチのサッカーは2点目、3点目を獲ることだ。じゃあ、獲れなかったことが原因だろう』ということで、その問題をそこに無理やり持っていったんです(笑)」(長橋監督)。

 迎えた青森山田高戦は打ち合いの末に、後半44分に追い付いて2-2のドロー。さらに次戦の旭川実高戦では、相手に26本のシュートを浴びせ、9-0という衝撃的な大勝。岡崎も「青森山田戦以降は自分たちのサッカーに自信が付いてきて、去年みたいなポゼッションを意識した、フロンターレらしいサッカーができてきているかなと思います」と語れば、「明らかに自分たちのサッカーをやりながら崩していこうと、得点機も数多く作っているので、良い方向に行っているのかなという気がしています」とは長橋監督。ようやくチームも吹っ切れてきた雰囲気が窺える。

 夏のクラブユース選手権には、借りがある。優勝も期待されて挑んだ昨年度の大会は、ラウンド16で相手の6倍のシュートを集めながら、PK戦の末に東京Vユースに屈し、悔しい敗退を余儀なくされた。

「去年は相手の守備を何も崩せず、PK戦で負けてしまったという、本当に悔しい負け方を経験している選手もここにいて、そこを上回って優勝したいというのは目標に掲げているので、今日の選手たちにはそういう気持ちもあったと思います。全国大会で是非目標を達成したいですね。日本一を獲りたいです。選手たちもそう思っていると思います」(長橋監督)。

 ここ3試合の公式戦で6ゴールを量産している岡崎も、きっぱりと言い切った。「去年できなかった日本一を目指します」。18回目となる夏の全国大会。群馬の夜空へ今度は“フロ桶”ではなく、優勝カップを掲げる瞬間を夢見て、川崎F U-18はフロンタウンの日常から、さらなる成長を重ねていく。



(取材・文 土屋雅史)

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