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Jを目指せ! by 木次成夫

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第142回「"ミラクル"アルテ」
by 木次成夫

 アルテ高崎は過去2シーズン、JFLの“お荷物”的存在でした。

07年=18位(最下位)
 勝ち点7、1勝4分29敗は、JFL史上最低記録。最終節は、勝てば“入れ替え戦突入”、負ければ“自動残留”というシュールな状況でFC岐阜と対戦して、0-2で敗退。FC岐阜は“夢のJ”参入を果たしました。

08年=17位
 勝ち点20、5勝5分24敗。最下位は三菱水島FC(勝ち点16)。前年度よりは健闘したものの、シーズン通算107失点は、JFL史上最多記録(それまでの記録は06年シーズン、ホンダロックの86失点)。“攻撃的ゆえに守備が脆いサッカー”スタイルとはいえ、脆すぎ! 後期15節の栃木SC(アウェー)戦は1対6、最終17節(アウェー)のホンダ戦は1-11と、散々な結末。ちなみに、昨季のアルテ・ホーム平均観客数は300人。18チーム中、最下位(17位は三菱水島の355人)でした。

 ところが、今季は11節(5月17日)終了時点で、ガイナーレ鳥取(勝ち点24)、横河武蔵野(同23)に次ぐ、3位(同22)。それも、1試合2失点以上しない堅守のチームに変貌。
 今季からチームを率いる後藤義一監督(45歳)は現役時代に古河電工(→ジェフ)、コンサドーレ札幌、横浜FCで活躍した名MFとはいえ、相対的大補強をしたわけではないにも関わらず……。

▼5月24日
JFL前期12節
町田ゼルビア 1-1 アルテ高崎

 ゼルビアは11節終了時点で12位(勝ち点14)。この試合の観客数は1359人(曇り一時雨)。シュート本数はゼルビア14本(前半5本、後半9本)に対して、アルテ5本(前半3本、後半2本)。優勢に進めながらも、一瞬の隙で失点してしまう、ゼルビアには“ありがち”な展開でした。

[得点経過]
8分 0-1
(アルテ=FW久保田圭一)
*流れの中でパスを受けて、素早く、豪快にシュート。スピードとキレ味が武器の久保田(24歳=加入2年目、前・流通経済大学←高崎商業)らしいプレーでした。

52分 1-1
(ゼルビア=ボランチ石堂和人)
*定評のあるミドルシュート。

[ゼルビア総括]
 アルテ戦を含めて過去5戦2勝3分。1勝→4連敗の開幕時よりも、成績的には好転しているものの、リスク覚悟で後方から“飛び出す”動きが少ないなど、全体的に消極的。主力FW3人が負傷したため、チャンスメーカー・タイプの選手で前線を構成したとはいえ、攻撃が単調に“なりがち”な点も気になりました。“安定感が増した”というよりは、“自重しすぎ”という印象です。

[アルテ総括]
 スタメン中、新加入選手は2人だけながら、昨季とは“まるで別のチーム”でした。基本的には4-4-2フォーメーションをベースにした堅守速攻狙いのリアクション・サッカーですが、やみくもに高い守備ラインを維持するわけでもなければ、守備一辺倒に“引きすぎる”わけでもなく、バランスがとれていました。「展開に応じて自分たちで判断するなど、チーム全体として成長していると思います」(後藤監督)。

ゼルビア戦のアルテ・メンバーは、以下の通り。

(スタメン)
GK、田中賢治(25歳=今季加入、前・町田ゼルビア←ガンジュ岩手←サガン鳥栖←大宮アルディージャ←大原学園JaSRA←佐賀学園高校)
右SB、杉山琢也(26歳=3年目、前・岐阜←ザスパ草津←平成国際大学←聖光学院高校))
CB、小川裕史(23歳=2年目、前・創造学園大学←堀越高校)
CB、増田清一(22歳=今季加入、前TDK←V神戸←V神戸ユース)
左SB、秋葉勇志(23歳=2年目、前・浦安ジュニアSC)
ボランチ、岩間雄大(23歳=3年目、前FCコリア←堀越高校)
ボランチ、大谷昌司(26歳=2年目、前ジャパンサッカーカレッジ←アルビレックス新潟←鹿島アントラーズ←前橋育英高校)
右MF、石沢泰羅(23歳=3年目、前・上武大学←帝京八王子高校)
左MF、白山貴俊(24歳=3年目、前・東洋大学←東京Vユース)
FW、久保田圭一(24歳=2年目、前・流通経済大学←高崎商業高校)
FW、田中翔太(25歳=2年目、前・ジャパンサッカーカレッジ←V・長崎←ザスパ草津←中央大学←鹿島ユース)

(サブ)
GK、岩館 直(20歳、前・創造学園大学←アルテ←創造学園大←旭高校)
DF、蒲原直樹(20歳=今季加入、前・日本工学院F・マリノス←野津田高校)
MF、山藤康太(22歳=今季加入、前・平成国際大学←ヴェルディ相模原ユース)
MF、神谷恭平(22歳、前・創造学園大学←アルテ←創造学園大←コンサドーレ札幌U-18)
MF、森 健太(19歳=今季加入、前・前橋育英高校)
MF、川匂邦明(24歳、前・創造学園大学←アルテ←矢板中央高校)
FW、大越崇司(24歳=2年目、前・作新学院大学)

 後藤監督の采配で特徴的なのは、メンバーを固定しつつも、交代枠の3人は毎試合使いきっていることです。短期間でチーム完成度を高めつつ、バックアップ・メンバーのことも考慮した策でしょう。ゼルビア戦のスタメン中、7人(田中賢治、杉山、小川、増井、秋葉、岩間、田中翔太)は12試合連続スタメン、他4人は11試合スタメン。12節段階で負傷や累積警告の影響が“ほぼ”ない点は出来すぎだと思いますが……

 ただ、後藤監督にとって、“最低”を経験した選手を再生させるのは、比較的容易だったかもしれません。日本サッカー界では有力な古河“閥”ながらも、クラブを渡り歩き、40歳まで現役でプレー。Jリーグ・バブル、同バブル後、J参入前後のコンサドーレと横浜FCなど、様々な“濃い”経験も豊富です。つまり、アウトロー的魅力も兼ね備えたカリスマ。真剣に指示を聞く選手たちを見て、どちらかというと輝かしい実績がないゆえに素直な若手が多い点も、後藤監督にとっては幸いだと思いました。とはいえ、ここまでチームが生まれ変わるとは……。実力的に拮抗しているゆえにメンタル面がパフォーマンスを左右しがちな、“JFL以下、地域リーグ強豪以上”の魅力とも言えますが、想像できませんでした。

「後藤さんの存在は大きかったです」(久保田)

 実は、久保田ら主力数人は、町田ゼルビアなど他のJFLクラブを新天地に求めながらも、セレクションで落選し、アルテに戻った経緯があります。この日のゼルビア戦では、それぞれが“吹っ切れた”かのように溌剌とプレーしているのが印象的でした。

 また、数は少ないものの、選手同様に“最低”を経験したファンが、穏やかな表情だった点も、アルテらしいと思いました。

 今こそ、地域密着型市民クラブへ移行するタイミングでは??夢愿譴琶FL所属チームはアルテだけ。近隣他県から加入した選手が多い現状が証ですが、“上を目指す”選手の受け皿として、貴重な存在です。つまり、将来的に発展する可能性も十分にあるということでは?

[JFL前期12節を終えて]
1位=ガイナーレ鳥取=J準加盟(勝ち点24)
2位=横河武蔵野(同24)
3位=アルテ(同23)
4位=ジェフリザーブス(同22)
・ ・
6位=ニューウェーブ北九州=J準加盟(同18)
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11位=V・ファーレン長崎=J準加盟(同15、1試合未消化)
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13位=ゼルビア(同15)=J準加盟
・ ・

<写真>アルテFW大越崇司(24歳=今季加入、前・作新学院大学)。この日が誕生日。試合後、ファンから祝福され、ご覧の笑顔


●Jリーグを目指すクラブの動向

・東北リーグ1部
6節(25日)
福島ユナイテッド 3-0 盛岡ゼブラ(観客数=986人)
*福島Uは5勝1分(勝ち点16)で首位。昨季優勝のグルージャ盛岡は4勝1分(勝ち点13)で1試合未消化。

・北信越リーグ1部
6節(25日)
ツエーゲン金沢 1-2 長野パルセイロ
松本山雅 0-1 ジャパンサッカーカレッジ(以下、JSCと略)
サウルコス福井 4-2 グランセナ新潟
上田ジェンシャン 3-0 ヴァリエンテ富山

1位=JSC(勝ち点16)5勝1分
2位=パルセイロ(同14)4勝2分
3位=山雅(同13)4勝1分1敗
4位=ツエーゲン(同10)3勝1分1敗=1試合未消化
5位=サウルコス(同6)=1試合未消化
6位=ジェンシャン(同4)
7位=グランセナ(同3)
8位=ヴァリエンテ(同0)
 
・北信越2部
6節(25日)
アンテロープ塩尻 2-0 CUPS聖篭(JSCのセカンドチーム)
*首位=アンテ(勝ち点16、5勝1敗)
 
・中国
8節(25日)
NTN岡山 0-2 レノファ山口(昨季優勝)
*首位=香川急便中国(勝ち点19)、2位=宇部ヤーマン(同16)、3位=NTN(同16)、4位=レノファ(同13)

・九州
7週(25日)
沖縄かりゆし 5-0 海邦銀行
新日鐵大分 1-2 ヴォルカ鹿児島
*首位=ヴォルカ(勝ち点18=6勝0敗)、2位=新日鐵(同15=5勝2敗)、3位=かりゆし(同15=5勝1敗)


※本コラムは毎週火曜日更新予定です。更新が遅れたことをお詫びします。ぜひ感想やあなたの地元クラブの情報をこちらまでお寄せください。

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