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南アフリカW杯便り

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何のために戦うのか

[6月24日午前3時@ラステンバーグ]

 明日はいよいよデンマーク戦です。引き分けでもグループリーグ突破が決まる大一番ですが、監督も選手も一様に「勝ちに行く」と口をそろえていました。これまでの2試合から大きく戦い方が変わることはないでしょうが、得点への強い意欲を感じさせてくれたのは心強かったです。

 日本は過去2戦、まさにゲームプラン通りに試合を運ぶことができました。だからこそ、ある程度、狙っていた結果を得られたとも言えます。ただし、いつもいつも思い通りにいくとは限らないのがサッカー。今回の試合で言えば、もしも先制点を取られたら…。そうしたゲームプランが崩れた場合、監督や選手の対応力、そして反発力はどのぐらいあるのか。それが大事なポイントであり、本当のチーム力なのだと思います。

 今日はラステンバーグのスタジアムで公式練習を取材したのですが、非公開のためメディアセンターで練習が終わるのを待っていたとき、現地のボランティアの方と話をする機会がありました。

 「日本はとてもいいチームだ。カメルーン戦もオランダ戦も見た。自分も大好きだし、デンマークに勝つことを祈っている」。彼の言葉は素直にうれしかったのと同時に、複雑な思いもしました。南アフリカはすでにグループリーグ敗退が決まっていたからです。

 今大会、アフリカ勢は苦戦しています。開催国初のグループリーグ敗退となった南アフリカだけでなく、カメルーンもナイジェリアもアルジェリアも姿を消すことになりました。

 初めてアフリカ大陸で開催されたW杯でアフリカのチームが敗退していくのは悲しい。でも、南アフリカがフランスに勝った試合は感動した。そんなことを伝えると、彼は首を横に振り、驚いたことに怒りを交じえて答えました。

 「バファナ・バファナ(南アフリカ代表チームの愛称)は誇りのために戦っているわけじゃない。金のためだ。彼らは1ゴールにつき100万ランド(約1200万円)もらえる。(3試合で)3点取ったから300万ランド(約3600万円)だ」

 1ゴールにつき100万ランド。W杯開幕前、南アフリカサッカー協会はチームに対し、破格の特別ボーナスを出すことを約束していたというのです。

 「日本は国のために戦っている。だから、自分も応援している」

 もちろん、南アフリカの人たちは心からバファナ・バファナを応援していたと思います。彼もきっと、チームが敗退してしまったことへの理由付けとして、こんなことを言ったのではないかと思っています。

 ただ、真意がどうであれ、彼の言葉は重く響きました。何のために戦うのか。それはやはり、チームが勝つために何よりも重要なことなのではないでしょうか。

 我らが日本代表は何のために戦うのか。自分のため、監督のため、チームのため、家族のため、日本サッカーのため、応援してくれるサポーターのため、すべての日本人のため――。日の丸の誇りを胸に、日本はきっとデンマークに勝ってくれます。

(文 西山紘平)

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