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南アフリカW杯便り

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4年後への希望

[6月30日午前4時@ヨハネスブルク]

 日本代表の挑戦は終わりました。PK戦での悔しすぎる敗退。史上初のベスト8へ、あと一歩届きませんでした。試合後、ほとんどの選手が泣いていました。松井大輔、大久保嘉人、遠藤保仁、長友佑都、川島永嗣、そして駒野友一…。松井や遠藤の涙には正直、驚きました。それだけ勝ちたかったということでしょうし、今回の代表が本当にいいチームだったということだと思います。

 選手は試合後、報道陣の待つミックスゾーンを通らなければなりません。駒野は「すみません」と頭を下げるだけで、取材に応じることはできませんでしたが、他の選手はみんなしっかりと胸を張って答えてくれました。もちろん、多くの選手の目は真っ赤に腫れていたのですが…。彼らのプロとしての姿勢には頭が下がる思いです。

 僕は現場にいたため知らなかったのですが、長谷部誠は試合直後のテレビインタビューで「選手たちのほとんどがJリーグに所属している。Jリーグに足を運んでください」と話したそうです。素晴らしいコメントだと思います。その後、ロッカールームに戻ってシャワーを浴び、着替えて出てきたミックスゾーンでも、長谷部の対応には素晴らしいものがありました。

 ミックスゾーンには大勢の報道陣が集まっています。ランダムに出てくる選手の肉声を取ろうと、選手ひとりに20人、30人という記者が殺到することもあります。それだけの数になると、後ろの方にいる記者には選手の声が聞こえないこともよくあります。なんとか聞こうと、後ろの記者はどんどん前の記者を押していき、まったく身動きが取れない状況になります。選手と報道陣の間には据え置き式の柵があるだけです。後ろから押す記者の圧力で、実際にその柵が壊れ、倒れたこともあります。

 そんな状況を長谷部はよく分かっていました。ミックスゾーンで止まった彼の第一声は「大きな声でしゃべるから大丈夫です。だから危ないので押し合わないでください」という言葉でした。

 これまで何度となくミックスゾーンで取材してきましたが、こんなことを言う選手を見たのは初めてです。しかも、W杯という大舞台で、しかも、負けたあとの試合で…。長谷部がゲームキャプテンに指名された理由が分かった気がします。自分のことよりも、周りの人のことを考えられる優しさ、気遣い。選手のだれもが「最高のチームだった」と口をそろえて言います。その中心にいたのが紛れもなく長谷部でした。

 本田圭佑も長友佑都も、素晴らしいコメントを残してくれました。詳しくは選手コメントを読んでください。2014年のブラジルW杯に向け、彼らが次の日本代表の中核となり、日本のサッカーを背負っていきます。プレッシャーは今回以上のものがあるはずです。それでも、彼らならきっとやってくれる。敗戦直後にそう信じることができたのが、僕にとって大きな大きな「4年後への希望」でした。

(文 西山紘平)

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