ビッグマウスの真意
[7月1日24時@ヨハネスブルク]
スイスのサースフェーで、彼は実に40分間にわたって熱弁を振るいました。オーストリアのグラーツで行われたイングランドとの国際親善マッチの翌日のことでした。
「インテルより、イングランドの方が衝撃は大きかった。そこで感じたのは、やっぱり、ミスを恐れていてはいけないということです。2週間後には勝たないといけないんですから。残された時間は長くない」
1トップで初めて先発した本田圭佑は、突きつけられた現実を前に、思いの丈を余すところなく吐き出しました。
そして、決めました。その日を最後に、あふれ出る言葉は内省で処理すると。
南アに入ってから、本田の口数は極端に減りました。「しゃべり過ぎると頭の整理がつかないので、試合前は話さないことにしました」と言い、試合後も一か所で手短に話すのみ。オランダ戦後はペン記者の取材エリアでは止まりませんでした。
ビッグマウスとして知られていることからもわかるように、元来は能弁。言葉も表情も非常に豊かな青年です。ですから、なぜ口数が減ったのか不思議に思ったものです。
けれども、決勝トーナメント進出を決めたデンマーク戦後に言ったことが、数週間の疑問を一気に解決してくれました。
「優勝という目標を掲げたのはなぜか? 弱い自分もいるし、行けると思っている自分もいる。いつもそのせめぎ合いです。でも、(目標を)公言しないと、弱い自分がどんどん大きくなってしまう」
“ビッグマウス”の真意でした。
彼は常々、「24時間、いかにサッカーのことを考えられるかで勝負は決まる」と言います。ボールを蹴って練習できる時間は1日2時間程度。残りの時間をサッカーに費やすため、彼は言葉のやりとりまですべてをコントロールしようと考えたのでした。
こうして示したのが、ベスト16という結果と、4年後へつながる道でした。
(文・矢内由美子)