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Jを目指せ! by 木次成夫

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271回 天皇杯長野県決勝 松本山雅対長野パルセイロ
by 木次成夫

今季3度目の『信州ダービー』は、またもや劇的でした。これが暫定的に『最後のダービー』になったら、もったいないと思うほどに――。もし山雅がJリーグ参入を果たしたら、来季は天皇杯の組み合わせ次第でしか、両チームの対戦が見られなくなります。是非、その際は、組み合わせで配慮してほしいものです。
 
●8月28日 天皇杯長野県予選決勝
松本山雅 1-1(PK9-8) 長野パルセイロ

両チームが天皇杯予選決勝で対戦するのは、4連連続です。

08年: 山雅 2-1 パルセイロ(観客数3508人=公式発表、以下同)
09年:山雅 1-0 パルセイロ(4283人)
10年:山雅 1-0 パルセイロ(6523人)
11年:山雅 1-1(PK9-8) パルセイロ(8782人)

[得点経過]
102分 0-1(得点:パルセイロMF浦島貴大、23歳=今季加入、前MIOびわこ草津)
*左サイドFK(大橋良隆)→宇野沢祐次→大橋のシュートがファーサイドに流れ→フリーで走り込んでいた浦島が右足ダイレクト

110+1分 1-1(得点:山雅FW片山真人、27歳=今季加入、前・水戸←岐阜←山雅)
*パルセイロCB大島嵩弘がヘディングでGK加藤慎也へバックパス→連係ミス→こぼれ球を片山が押し込む

[試合総括]
山雅は31日(水)のFC琉球戦(JFL前期5節)を考慮して多数の主力を温存(結果的に、この試合と琉球戦で連続スタメン出場したのは2人だけ)。対するパルセイロは8人が、8月21日のアルテ高崎戦(JFL前期5節)と連続スタメン出場。主力をベースに、「新しい選手も試しました」(パルセイロの薩川了洋監督)とか。

≪シュート本数≫
山雅15本(前半2本、後半7本、延長前半3本、延長後半3本)、
パルセイロ18本(前半6本、後半7本、延長前半2本、延長後半3本)

JFLを含めて、パルセイロは『信州ダービー』3戦連続で先制点を決めたものの、結果は1分け2敗。勝てない歴史がトラウマになっているのかもしれません。また、この試合の山雅には、『控え組の執念』というプラスアルファもありました。

PK戦はパルセイロの先蹴りで、勝負が決したのは9人目。パルセイロMF浦島のシュートがバーを叩いたのに対して、山雅はMF小松憲太がゴール。『山雅劇場』に新たな歴史が刻まれました。

[パルセイロ浦島の試練]
試合後、浦島の涙が印象的でした(写真)。高卒後4シーズン、MIOの主力として活躍したものの、パルセイロ加入後はJFLのスタメン出場0試合、『ベンチ外』多数。しかし、この試合はスタメンに大抜擢。「(今まで)8000人の中で試合をしたこともなかっただろうし、この経験を活かして、今後も成長して行ってほしい」(薩川監督)。

[山雅“控え組”の意地、その1]
この試合、MVPには片山真人が選出されました。やはり、“持っている”という印象です。07年、近畿大学卒業後に山雅へ加入。北信越1部優勝に貢献しただけでなく、明るいキャラで、多くのファン(サポーター)を惹きつけました。

その後、岐阜で「Jリーガー」という夢を叶え、水戸を経て、4シーズンぶりに山雅へ復帰。しかし、07年の主役を待っていたのは、不遇な日々でした。実力不足というよりは、『点で合わせる』タイプの片山を活かすプレーが皆無。それでも……、この試合、片山は序盤から積極的に前線でプレスを仕掛けていました。DFとGKの連係ミスを狙った同点ゴールは、その集大成であり、決して奇跡ではないと思います。

[山雅“控え組”の意地、その2]
ボランチ小松憲太(24歳=加入2年目)のプレーも圧巻でした。松本市の隣、塩尻市出身で、都市大塩尻高校から東海学園大学へ進学。大卒後は一般企業への就職を志し、「愛知県内の一般企業から内定は得たのですが、山雅から誘われたので、断りました」(小松)。

良く言えば、期待の若手。とはいえ、ボランチはクラブが今季重点的に補強したポジションのひとつ。その上、開幕前に靱帯を損傷して、長期離脱。今季の公式戦出場は、この日のパルセイロ戦が初めてでした。にもかかわらず110分間戦い切り、勝利の立役者に――。

「小松が良かった。影のMVPですよ。斎藤さんに似たタイプですよね」(右SB阿部琢久哉)。

斎藤さんとは……。言うまでもなく、昨季まで5シーズン山雅に所属していた齋藤智閣(現・アルティスタ東御)です。持ち味は献身的なプレー。今季、小松は斎藤の「背番号5」も引き継いでいます。

[山雅とパルセイロの今後]
試合後の記者会見で、山雅の加藤善之監督は以下のように語りました。

「(パルセイロ戦で)選手の序列が明確になりました。次(琉球戦)からは固定メンバーで戦いたい」。

そして、琉球戦ではシーズン途中加入選手4人のうち3人を起用して、1-0で勝利。臨時補強の成果が出たとは言えますが、『序列が明確になる』チーム作りには疑問も感じます。
せめて「でも、小松の下克上には期待しています」くらいのコメントは欲しいところです。

ちなみにJFLの順位(9月1日時点、上位10チーム)は以下の通り。

1位:SAGAWA SHIGA(勝ち点40、19試合消化)
2位:パルセイロ(35、18試合)
3位:V・ファーレン長崎(33、19試合)=J準加盟
4位:ツエーゲン金沢(31、18試合)
5位:山雅(30、19試合)=J準加盟
6位:Honda(30、18試合)
7位:町田ゼルビア(29、18試合)=J準加盟
8位:琉球(28、18試合)
9位:ホンダロック(27、18試合)
10位:栃木ウーヴァ(27、18試合)
10位:カマタマーレ讃岐(27、18試合)=J準加盟

山雅戦後、薩川監督は「シーズンを通して信州ダービー、だと思っています。だからJFLが終わった時には、山雅よりも上位に居たい」と語りました。『ダービー』の負け惜しみとも取れるでしょうが、首位SAGAWAと2戦残しているパルセイロには、まだ自力優勝の可能性も、あります。

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