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スペインで戦うフットサル選手・荒牧太郎の挑戦 by 荒牧太郎

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フットサル日本代表
by 荒牧太郎

 フットサル日本代表の2012年W杯の戦いは、ベスト16で終わりました。カズ選手が参戦したことによって、メディアにも非常に注目してもらえたし、目標であったグループリーグ突破を果たすことも出来ました。

 正直言うと、グループリーグの組み合わせを見て「とんでもないグループに入った! アジアチャンピオンなのに何でだ!」と思いましたが、それもW杯ですし、代表として戦う難しさをいろいろな面で感じました。

 僕は1人のフットサル選手として、自分達の代表に対して本当に様々なことを感じていました。主観的な話は置いておいて、客観的に見て、このW杯までの3年半、ミゲル・ロドリゴ監督のW杯までの準備は、素晴らしいものだったんじゃないかと思っています。今回はミゲルの行なった準備に関して自分なりに書いてみようと思います。

 選手選考の時期を越してからというもの、ミゲルは代表合宿のたびに、常に同じ様なメンバーを招集してきました。それにはいくつか理由があったと思います。1つはフットサルの特徴でもあるセットプレーやパワープレー、そして前からのプレッシングなど、チームとしての決まり事や選手同士のコンビネーションをきちんと確立する為。今回のW杯ではセットプレーからのゴールこそなかったものの、パワープレー、プレッシングは結果につながりました。見ていて非常にアグレッシブでしたし、練習の賜物だと言える連動した動きが見られたと思います。

 そしてもう1つ、グループとしての結束もあったんじゃないかと僕は思っています。ミゲルはこのグループとしての結束や選手の人間性もすごく重視していると思いました。選手のインタビューなどでも「この代表はファミリーだ」というようなものもありました。

 代表としての活動は本当に回数が限られていますし、国内での試合や海外への遠征も数えるほどしかありません。その限られた中でどう準備して行くのかが結果を出す為にすごく重要なのは明らかですよね。なので、メンバーをある程度固定し、しっかり戦術面で準備し、結束も強めて行ったんだと思います。

 そして5月のアジア選手権。そこにミゲルはチチョというスペイン人のフィジカルコーチを呼びます。このチチョですが、スペインでは物すごく有名なフィジカルコーチで、インテル・モビスターというチームで現在もフィジカルコーチを務めています。

 昨年の僕の監督も以前インテルにいて、日本代表のスペイン遠征前後にはよくチチョの話をしていました。フィジカルコーチとしての能力はもちろん、フットサルに対する知識も豊富で、よくアドバイスをもらっていたと聞きました。また人間的にも非常に優れた方だそうです。

 日本代表の選手はもちろんこのチチョの偉大さを経歴からも、そして実際に接してみて、その人間性からも感じたのではないでしょうか。アジア選手権やW杯などの短期決戦ではチームとしての実力はもちろん、グループとしてのまとまりや結束力が非常に大事だと思います。ミゲルは常に結束力を高めて来たと思いますが、大会直前に何かしらのきっかけも必要だと考えたのではないでしょうか?

 そのきっかけをアジアカップ直前にはチチョを呼ぶことで与え、そして今回のW杯では「カズ選手」の存在が大きな大きなきっかけになったんじゃないかと思っています。

 カズ選手がフットサル日本代表に参加することに対して賛否両論あったと思います。結果的にカズ選手の影響もあり、日本代表は物凄く良いまとまりを見せていた、と僕は思います。

 ブラジルとウクライナと親善試合を行い、(まさか本大会で戦うことになるとは思いませんでしたね)。本当に良い準備をして、本大会に臨めたように見えました。ブラジルには負けましたが、ポルトガルにはあの展開から劇的に追いつき、リビアにもしっかり勝利。あのグループリーグを突破することは本当に難しいことだったと思います。

 その目標をミゲルは、完璧な準備と最後のちょっとした工夫によって果たしたと思っています。しっかりと準備をした上で、現実を受け入れ、それをプラスに変えて行く。スペイン人監督だからではなく、これはミゲルという素晴らしい監督だからこそ出来たことだと思っています。

 代表の戦いは本当に難しいものだと思います。練習回数や試合数は限られ、今回の様に組み分けや、思わぬケガや出場停止、様々な要因があって、それをすべて受け入れた上で戦わなければなりません。

 どうしてもカズ選手がいたから、いなければ、そういう話が出ると思います。それも当たり前のことだと思いますが、やはりW杯のベスト8に残るにはまだまだ足りない部分がある。それを今回の代表が具体的に示してくれたと思います。じゃあ何が足りなくて、どうすればいいのか、しっかり考えて今から次のW杯まで準備していかなければなりません。

 今回のW杯でフットサルの面白さや難しさを改めて感じました。戦術的な部分はもちろん大事ですが、人間がプレーする以上、人間関係や結束など、そういうものすべて含めてフットサルなんだと強く感じました。

 まだW杯は続くので、スペイン代表と共にもう少し楽しもうと思います。

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