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イチロクロク久我山 by 渡辺夏彦

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「イチロクロク久我山」by渡辺夏彦―握れば拳、開けば掌
by 渡辺夏彦

「練習時間が短い!」「グランドが狭い!」これが僕たちのストロングポイントです。えっ?と思われた方がほとんどかもしれません。もちろん、もっと広いグランドで、もっと長い時間練習したいという思いはあります。しかし、それができないのです。

 少し話はそれますが、「握れば拳、開けば掌」という言葉があります。手は、握れば人を殴るこぶしになるし、開けば人を撫でる手のひらになる。一見ウィークポイントになりそうな一面が、実はストロングポイントであったりするのです。すべては捉え方次第なのかもしれません。


「練習時間が短い!」

まずは、久我山の平日のスケジュールを簡単に紹介したいと思います。

8:20 登校(朝練禁止)
6〜7時間授業

16:00 練習開始

18:00 練習終了

18:30 完全下校


 公式戦前こそは練習時間が30分延長されるものの、正直満足できるほどの時間は与えられていません。しかし、これくらいが僕たちには「ちょうどいい」のかもしれません。これは、「リゾート地は、そこにずっといるよりも、旅行でたまに行くほうが楽しめる」というような感覚に似ているかもしれません。

 練習時間が限られている故に、高い集中力を保たなければならないし、保つことができます。それによって練習一つ一つの質はより一層高まるのです。それは技術の質の高さが求められる久我山サッカーにうまくマッチしているのだと思います。


「グランドが狭い!」

 平日の練習は、正規より狭いサッカーコートをさらに野球部と半分に分け、その半分のグランドを使って160人近い部員が練習しています。おそらく、このコラムの読者の方々の想像を遥かに上回る狭さだと思います。練習中には、野球部のボールが転がってきたり、隣のエリアで練習している人とぶつかったり、とちょっとしたアクシデントが起こることもしばしばです。しかし、いくら狭くても、そこにグランドとボールがあって、仲間がいればサッカーをするには十分なのです。具体的にどのような練習をやっているのかということまではここには書ききれません。ですが、この狭いグランドで行う練習こそが、技術の質を高め、試合において久我山が得意とするような、細かく狭い局面を打開する能力を生み出しているのかもしれません。

 一見不利ではないかと思われるこのような環境は、「美しく勝て」という久我山のスタイルを確立する一つの要因になっているのではないか、と僕は思います。「勉強もする、部活もやる」これをウィークポイントだといってしまうことは簡単です。しかし、それを逆にストロングポイントに変えてしまおう。これが僕たちの発想です。そう、まさに「握れば拳、開けば掌」なのです。

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