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POINT OF SOCCER by 長谷川望

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「成長痛」ではない? スポーツ障害「オスグッド病」
by 長谷川望

 今年最後の掲載となりました。4月から連載を始めて、もう約9か月が経つのですね。今年1年を振り返ると、コラムを通じてたくさんの方に出会い、勉強させていただいた事が私にとって何より貴重な日々となりました。そしてその記事を読んでいただいた方に深く感謝いたします。2014年も現状に満足することなく向上心を持って、邁進して参りますので、どうぞよろしくお願いします。

 今年最後のコラムは引き続き、Jクラブのチームドクターをされている水戸協同病院院長、平野篤先生のお話をもとに「育成年代のスポーツ障害」について取り上げたいと思います。寒い季節は身体が暖まりにくく筋肉が冷え、障害が多い時期と言えますね。特にサッカー選手に多い障害に「肉離れ」挙げられます。肉離れの原因は様々ありますが、急に力をいれ筋肉が収縮した際に、筋肉が部分断裂または完全断裂する筋肉障害です。サッカー選手は、大腿四頭筋(ももの前面)、その裏にある大腿二頭筋(外側ハムストリング)、ヒラメ筋や腓腹筋(ふくらはぎを構成)などの筋肉に多いと言われています。

 サッカー選手にとっては注意が必要な肉離れですが、育成年代の子供たちの場合を聞いてみました。平野先生は「肉離れは中学生まで数的に少ない。高校くらいから出てくるが、大部分の人は回復が早い。肉離れの中でも腱に近い重傷な肉離れは、大学生や社会人などもう少し上の年齢が多い」と、肉離れの危険性は高校生くらいからと説明して下さいました。

 なぜ小学生や中学生は肉離れが少ないのでしょうか。「日本人は小学校高学年から中学生にかけて、骨の急激な伸長に筋腱が追いつけない」という事からも、骨の成長によって、それに伴う筋肉も未発達と言えます。柔軟性が低下した大人の方が、肉離れのリスクが高いのですね。

 次に、成長期のスポーツ障害のなかでも良く名前を耳にする「オスグッド病」(膝下部分に痛みや腫れなどを伴う)。前回でも取り上げましたが、より詳しく知っていきたいと思います。「オスグッドは軸足に多い。急激なストップ動作によって起きる障害」と、特徴の一つを挙げていただきました。「オーバーユース症候群」(1回の怪我ではなく、使い過ぎによって起こる障害)から引き起こる「オスグッド病」ですが、偏った身体の使い方も原因として考えられます。

 どうしてもサッカーをしていると、自分の効き足でボールを蹴ってしまうため、左右どちらかに力が偏りがちです。そのため軸足である方に発症リスクが高まってしまうのですね。効き足で成功しているプロ選手は国内外問わずたくさんいます。しかし「効き足じゃない方をどのように使うかも重要」と言うように、障害の予防策として左右に力を加えるバランスを考えるのも、成長期の子供たちにとって必要と言えるでしょう。

「オスグッド病」は、その周囲の組織が炎症を起こしてしまう場合もあるため、回復が遅れてしまうこともあります。「『オスグッド』は一般的に脛骨粗面(ケイコツソメン)の骨化が終了すれば症状はなくなるが、遺残変形の強い場合はさらに長期に延びる場合がある。『オスグッド』から遺残変形が起きてしまうと、日常生活には問題はないが、サッカー選手を育てていく上で大腿四頭筋を発達させたりするのに影響がないとは言えなくなる。将来的にも膝の痛みが出てきたら問題になる可能性もある」。「オスグッド病」から周辺組織の炎症が生じてしまうと、慢性的な痛みがでてくるので、このような症状に発展する前に、スポーツをする上ではいかに早期発見と予防が重要なのが分かります。

 そこで大切なのが運動前のアップ。「アップで防げる障害もある」と言うくらい、アップは予防という意味で専門家の方々から非常に重要視されています。アップの意識を変えるだけで、スポーツ障害の予防に繋がるので、自分の身体としっかりと向き合う時間にすることが大切です。アップの時点で違和感や痛みに気付いた場合は、周りの指導者や保護者の方に相談しましょう。「オスグッド病」はスポーツ障害ですが、「成長痛」として間違った認識をされる場合もあるので、放置せず正しい治療を行う必要があります。成長期にどのような障害があるのか、そしてどのようなことに注意をしなければいけないのかを、子供たちと周りの大人もチェックしていかなければいけないと感じました。障害を未然に防ぐことは、将来の健康な身体作りの第一歩なのですね。

◆著者プロフィール◆
長谷川望(はせがわ・のぞみ)
1987年生まれ。福島県出身。ロンドン五輪でなでしこジャパンや女子レスリング金メダリストの伊調馨らを取材。フジテレビ「とくダネ!」に出演するなど現在スポーツライターとして活躍中。
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