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W杯予選激闘通信「戦士たちの思い」

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「日本に帰ってきたら、お笑いについていけなかったですよ」
 長谷部誠は「ひげ男爵」や「エドはるみ」など、知らない芸人の活躍に驚いたと笑った。今年1月からドイツのヴォルフスブルグへ移籍直後から、試合に出場して活躍している。中位に位置していたチームは長谷部加入と同時に快進撃を見せた。ブレーメンやシャルケという強豪からも勝利を飾った。
「周囲はすごいことだって言うけれど、僕自身、ブレーメンやシャルケのことよく知らないんで(照笑)。そんなにすごいことだとは思えなかったんです。だって、同じリーグで戦っているチーム同士だし。でもヨーロッパのリーグでは上位と下位とで力の差が大きいと聞いて、そういうものなんだと思いました」

 もともと、海外のサッカーに強い興味を抱いていたわけではない。ブンデスリーグと言われてもピンと来なかったと笑う。
「僕はユース代表にもあまり選ばれたことがないので、国際経験が少ないから、そういう経験を積んでみたいとも思った。だんだん、代表にも呼ばれなくなっていたし、自分をもっと鍛えるためには、環境を変えることが必要だと思ったんです」
 ユース代表では、なかなかレギュラーの座を手に出来ず、次第に代表への思い入れも薄らいだ。
「あのころは若かったから、試合に出られないってことでイラつくこともあった。でも今は違う。たとえ試合に出られなくとも、代表では得るものがたくさんあると思っています」
 5月19日、シーズン終了後に帰国し、早速岡田ジャパンへ合流。初戦のキリンカップ。コートジボアール戦にボランチで先発。右サイドのスペースへ駆け上がり、そこから玉田のゴールを演出する絶妙なクロスボールをあげている。
「ドイツでもサイドでプレーしているので、クロスボールの練習はやっているから」と試合後に話したが、さまざまな場面で「ドイツでの成長」や「日本とドイツでの違い」を問われると、長谷部は困った顔をしていた。
「わずか4カ月ですからね。変わったところなんてわからないですよ(笑)」
 とは言え、新天地での毎日は新鮮な驚きの連続だったに違いない。
「確かにそういうことに出会うたびに、『取材で話そう』と思ったりもしたけど、だんだん、それが日常になってしまうから。そうすると当たり前のことに変わるんですよね」
 そんな長谷部が新チームで心を砕いたのは、チームメイトと積極的に会話を交わすということだった。新加入選手の様子を伺う彼らの視線に気づくと、自分から話しかけたという。そういう密なコミュニケーションがあるからこそ、試合でも力を発揮できたのだろう。
「チームメイト、監督と結構話しました」と、そういう長谷部の姿勢は代表でも活かされた。
「初戦のキリンカップはテストだと思っていた。だから、しっかりと自分のプレーをしようと。でも、合流してすぐに試合にずっと使ってもらえるとは思ってなかったので、(ワールドカップアジア)3次予選で先発を続けられたのは、嬉しい誤算だった」
 初めてのアジア予選。その難しさは痛感したという。
「1試合1試合の結果で、チームが立たされている状況が変わる。それは同じリーグ戦でも国内リーグとかとは全く違う。状況によっては、とても強いプレッシャーを感じながら戦わなくちゃいけない。その難しさを感じましたね。それとアウエイでの環境の変化。マスカットの暑さは尋常じゃなかったですからね。最終予選はもちろん3次予選以上に厳しい。僕にとっては初めてのアジア予選だけど、そういう難しい予選を勝ち抜くには、やっぱり気持ちが大事だと思うんです。岡田さんも話していたけれど、自分たちがいかに勝ちたいかという気持ちを表現できるか? それが大事だと思う」
 長谷部は、誰にも負けないくらい“負けず嫌い”だと以前話していた。しかし「ヨーロッパの選手はもっともっと負けず嫌いだった」と語る。
 選手間のポジション争いは激しい。7月から始まるシーズン前の合宿では、補強した新戦力選手との競争が始まる。
「まずクラブで試合でないことには、代表にも呼んでもらえないですからね。しっかりと競争の勝てるように頑張ります」
 08-09シーズンはUEFAカップへの出場も決まっている。新たな挑戦が長谷部をさらに成長させるきっかけになることは間違いないだろう。

※本企画は不定期更新、全10回予定。感想をこちらまでお寄せください。

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