beacon

山本昌邦のビッグデータ・フットボール by 山本昌邦

このエントリーをはてなブックマークに追加

第3回「選手交代から見るザックジャパン」(前編)
by 山本昌邦

指導者・解説者の山本昌邦が、データを基にサッカーを徹底分析するコラム「山本昌邦のビッグデータ・フットボール」。W杯まで残り3か月。日本はグループリーグを突破し、さらなる高みへ辿りつくことができるのか。勝敗の行方を左右する采配の面から日本代表を鋭く分析する。
データ提供:Football LAB

 サッカーの試合において選手交代は非常に重要なファクターである。先発した選手はアスリートの性(さが)として最後まで試合に出ていたいと思うものだが、1か月の間に会場をあちこち移動しながら最大7試合を戦わなければならないW杯のような戦いでは“先発完投”に大した意味はない。登録メンバー23人全員を戦力化し、うまく使い回しながら選手の労働量、消耗度をうまく分散させる必要がある。

 この夏のW杯ブラジル大会で赤道に近いブラジル北部で戦うチームはどこも高温多湿に悩まされるはずだ。昨夏のコンフェデレーションズ杯でも3位決定戦に回ったイタリアは23人の登録選手中、最後は13人しか満足に戦えない状態になっていた。W杯はコンフェデレーションズ杯に比べれば日程に余裕はあるとはいえ、長いシーズンを終えたばかりの身体は過酷な条件にさらされると簡単に古傷や持病を再発したり悪化させるだろう。主力選手ほど所属クラブで無理使いされているから、余計に取り扱いには細心の注意が必要になる。

 W杯ブラジル大会の日本の対戦相手で、その点で一日の長を感じるのはコロンビアのペケルマン監督である。アンダーエージのW杯で祖国アルゼンチンを何度も優勝に導いた同監督はビッグイベントの勝ち上がり方を熟知しているに違いない。

 労働量の分散とは別に、サブ組にはもう一つ、重要な役割がある。交代選手としてラスト15分に勝利に直結する仕事をやってのけるという重大な使命である。勝っている試合を勝ったままで終わらせる、劣勢の試合を追いつき、ひっくり返す。選手にハードワークが要求される現代サッカーでは先発した11人がそのまま試合を終わらせることなど絶無に近い。交代のカードを切る時間、切る順番を間違えて、チームが沈んでいくこともあれば、絶妙な交代がチームを蘇生させることもある。3枚の交代のカードがチームの命運を握るのである。

 表1は日本代表の公式戦における交代選手の出場時間の平均を表したものだ。交代が5人も6人も使える親善試合はデータから除外した。W杯予選やアジア杯、コンフェデレーションズ杯、東アジア杯のように3人しか交代が使えない、いわゆる真剣勝負の場合、日本の最初の交代は59・9分、2人目の交代は74・8分、3人目の交代は88・1分という数字が出ている。

 一方、日本の相手は最初の交代が52・2分、2人目の交代が71・3分、3人目が82・5分。いずれも相手の方が仕掛けは早い。

 ちなみにW杯の平均はどうだろうか。1人目は59・8分、2人目は72・7分、3人目は81・5分となっている。3試合の短期決戦で延長に入る心配がないグループリーグの戦いに限るとどうか(表2)。交代は1人目が58・6分、2人目は71・6分、3人目は79・6分とやはり若干ではあるが早くなっている。それは日本も同様だ。

 全体を通してもグループリーグの戦いに限っても、日本の交代が相手より遅いのはアジアにおける対戦相手との力関係に負うところが大きいのだろう。アジア相手では日本が主導権を握り、日本のリズムで試合を進めることが多い。日本が先に点を取ろうものなら、その流れはさらに強まる。相手が日本のリズムを壊し、流れを断とうとすれば、フレッシュな戦力を早めに投入して何とかしようとするのは当たり前だろう。日本の攻撃に振り回されて疲れが早めに出た選手もいることだろう。

 優位に試合を進める日本は、そうやってさらされた相手の手の内を見てから、次の一手を打てる立場。相手がグーを出せばパー、チョキを出せばグー、という具合に後出しが許されるのだから、遅め、遅めの交代に理がないわけではない。

 気になるのは交代で出た選手の活躍具合である。表3は交代出場の選手が挙げたゴールの全得点に占める割合だが、日本は公式戦56得点中、途中から入った選手が奪ったのはわずか4得点(7・1%)しかない。対戦相手の方は28得点中6得点(21・4%)もある。日本の試合を見ていると交代で入った相手にしてやられる印象があったが、そういう傾向があることは間違いなさそうだ。

ちなみにW杯南アフリカ大会の全64試合143得点中、途中から入った選手のゴールは15得点で1割(10・5%)を越えている。交代で入って得点を取った日本選手は2011年1月25日韓国戦の細貝萌(ヘルタ・ベルリン)、同年1月29日豪州戦の李忠成(浦和)、同年11月11日タジキスタン戦の前田遼一(磐田)、そして2012年6月8日ヨルダン戦の栗原勇蔵(横浜FM)が最後というのだから、何とも寂しい記録である。ジョーカーとなるFWをいまだ定め切れていないことも寂しさを余計に募らせる。

(後編は、本日ニュージーランド戦直前の19時公開予定です)


やまもと・まさくに
1958年4月4日、静岡県生まれ。日本代表コーチとして2002年の日韓W杯を戦いベスト16進出に貢献。五輪には、コーチとしては1996年アトランタと2000年シドニー、監督としては2004年アテネを指揮し、その後は古巣であるジュビロ磐田の監督を務めた。現在は解説者として、書籍も多数刊行するなど精力的に活動を続けている。

TOP