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POINT OF SOCCER by 長谷川望

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ブラジルのリズムを取り入れるハワイの子供たち
by 長谷川望

 前回のコラムで取り上げた、ハワイ・ホノルルで日本人の子供たちが通うハワイ808サッカースクールでは、昨年11月から新たな取り組みがはじまっていました。それはブラジルサッカーのエッセンスを加えること。エドワード・エディ・ロジャースコーチは「日本のスピーディなショートパスは世界一だと思う。ただフィニッシュの精度が欠けているぶん、子供たちが相手をテクニックで抜く南米スタイルを身に付けることができたら良いと思う」と分析しています。そして毎週水曜日はブラジル人の指導者に来てもらうようになったと言います。

 キャンプではサンバの音楽をかけてトレーニング。これにはリズム感をつける目的があります。エディコーチは小中高で日本のサッカー部に所属し、その後はラケットボールのプロ選手として活躍しました。プロスポーツ選手の経歴をもつエディコーチはリズム感の重要性を「試合前、音楽なしで臨むと相手を意識しすぎて身体が固まってしまう。一方、音楽でリズムを作ってから中(コート)に入ると、自分のリズムができているので、相手を意識せずに自分の力を発揮できる」と身を持って感じていました。

 ブラジル人は国の文化としてサンバがあり、独特のリズム感をもっています。ラテン音楽も南米発祥の音楽であり、日本ではあまり馴染みのないリズムが南米の人びとは身体に刻まれています。過去のW杯やコンフェデ杯の結果をみても南米勢に勝利したことがなく、日本人は南米との対戦が苦手だとされています。このような背景の一つには、リズム感の違いが大きく影響しているのではないでしょうか。

「去年のW杯で優勝したドイツが、日本も得意なショートパスを適応し、最後は力強いシュートが目立っていた。日本人はパワーがない方かもしれないが、そのぶん南米のようなテクニカルな武器があれば強いと思う」

 大人がサンバの音楽を聞いて踊るのはなかなか難しいことですが、即座の修得ができる9歳~12歳ころのゴールデンエイジ期に、南米のリズムを身体で覚えることができるハワイ808サッカークラブの子供たち。日本人に浸透していないリズムで身体を動かすことができれば、最後に相手を抜くときに読まれない動きとなるでしょう。ブラジルではトレーニング後に予習復習が当たり前ということで、ハワイでも宿題がだされて、ブラジルのエッセンスを確実に修得しているようです。

 アジアカップは準々決勝で敗退し、決定力不足が叫ばれるなか、育成から南米の独特なリズムを取り入れることによって、将来アジアはもちろん世界で戦うときに更なる武器になるのではないでしょうか。

◆著者プロフィール◆長谷川望(はせがわ・のぞみ)
1987年生まれ。福島県出身。ロンドン五輪で女子レスリング金メダリスト伊調馨を取材。2020年東京五輪を見据え、サッカーを中心にスポーツの育成年代を精力的に取材している。フジテレビ『とくダネ!』、TBS元旦スポーツ祭り『2013年にかけるアスリートたち』、WOWOW『金曜カーソル』などテレビ番組でも活躍中。
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