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「ユース教授」安藤隆人の「高校サッカー新名将列伝」 by 安藤隆人

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“ユース教授”安藤隆人の「高校サッカー新名将列伝」第2回:山田耕介監督(前橋育英高)
by 安藤隆人

 ユース教授・安藤隆人の名将列伝。第2回は『上州のタイガーブラック集団』こと、前橋育英高校サッカー部を率いる山田耕介監督だ。昨年度の全国高校選手権決勝では延長戦の末、星稜高に敗れて惜しくも準優勝に終わったが、全国高校総体優勝1回、選手権ベスト4が4回という輝かしい成績に加え、山口素弘氏(現解説者)、故・松田直樹氏、MF細貝萌(現ヘルタ・ベルリン)など多くのJリーガーを輩出している。

 第1回コラムで紹介した星稜・河崎護監督とは同級生であり、親友でもある。今年2月の石川県金沢市で開催された『星稜高校サッカー部優勝祝賀会』に招待されると、何と壇上でのスピーチもこなした。通常、決勝の敗戦の将が、自らを下したチームの祝賀会に参加するだけでも珍しいが、そこでスピーチの依頼をも快諾するという、非常にフランクで人間関係を大事にする人物だ。そんな上州の名将に話を聞いた。


―実に32年間、前橋育英で指導者をされてきて、改めて今、感じることはありますか?
「やっぱりサッカーの指導者なんだけども、人材育成が重要だね。それが僕らの仕事なのかな。サッカー部の監督というのは、レギュラー云々、サッカーが少し上手いからどうこうではなく、人間として少しでも成長して欲しい。そのために自分たちが少しずつ人として形成していく手助けをする。世の中、プロになれるのは本当にごく僅か。ほとんどの選手は普通に大学に行って、会社に努めて、働いていく。サッカーも趣味としてやるのか、観戦に行くのか、それとも選手ではなく、指導者やトレーナーなど、サッカー周辺で働くか。大事なのは、サッカーの上手い下手よりも、人間として立派にやっていけるかなんです。サッカーは子供を大人にするし、大人をジェントルマンにする。それを手助けすることが、我々の仕事なんです」

―人材育成において、重要なポイントは何でしょうか?
「まずね、僕ら指導者が『本気』であること。こっちが本気じゃないのに、子供たちが本気になるはずが無い。まずはこっちの本気度を伝えることが大事ですね」

―これまでの指導者人生、失敗も多かったと思います。
「もう失敗だらけだよ。今でももっとこうしておけば良かったとか、後悔することもある。でも、大事なのは失敗を『ただの失敗』にしないこと。失敗することを恐れて、失敗を避けようとするのではなく、するのは当たり前で、大事なのは失敗した次。失敗をより賢く解決する。失敗を糧にして、どんどんパワーアップしていく。これだね」

―そう考えて、実行出来るようになったのはいつくらいですか?
「若いうちは考えられなかったよ。やっぱり色んな経験をしてきて分かってきたし、32年やってきて、若い頃の自分と比べると、選手たちを認める器の広さ、深さがだんだん出てきた。昔は選手に対し、『俺の言うことを聞いとけば良いんだ!』と言っていたのが、今じゃ『そういう意見もあるよな。でもこうした方がもっといいんじゃないか』、『その考えは面白いから、そうした方が良い』とか、コミュニケーションが取れているからね」

―改めて、選手育成で重要なところを教えてください。
「重要なのはその選手のストロングポイントを見逃さないこと。そこを結構見逃している指導者が多いと思います。例えば、細貝萌の危機察知能力を見逃していたら……。皆川佑介(現広島)の胸トラップを見逃したり、青木拓矢(現浦和)の縦パスを見逃したら……。それじゃ才能はいつまで経っても開花しない。いかに選手たちがほんの一瞬でも見せる、『ハッ』とさせてくれるプレーを見逃さないか。『お!これは凄い』という『ハッ』とするようなプレーをしっかりと吸い上げて、本人たちに『凄く良かった!』と手放しで褒める。けなすだけでなく、褒める。見て、褒めてあげることで、選手たちは勝手に育つんです。それを見逃さないためには、物の味方を柔軟にしないといけない。真正面から見ると欠点だらけだけど、角度を変えてみれば、長所はあるかもしれない。そこを発掘して、その長所を自信に変えないと行けない。いい気にさせて、良い気になりすぎたら締める(笑)。その繰り返しだね(笑)。メリハリが大事」

―33年目の今年、どうして行きたいですか?
「個人的に今年から副校長になって、学校の仕事も結構増えてきた。でも、それを理由にサッカー部が力を出し切れなかったということにならないようにしないといけない。どっちも一生懸命やる。ある意味新しいチャレンジですよ。やれることを全力でやっていきたい。安藤、お前が思っている以上に、この仕事は大変だぞ(笑)」

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