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「ユース教授」安藤隆人の「高校サッカー新名将列伝」 by 安藤隆人

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“ユース教授”安藤隆人の「高校サッカー新名将列伝」第9回:鈴木勝大監督(桐光学園高)
by 安藤隆人

 名将列伝、第9回目は桐光学園高・鈴木勝大監督に白羽の矢を立てた。桐光学園と言えば、中村俊輔(横浜FM)を始め、藤本淳吾(横浜FM)、田中裕介(C大阪)、本田拓也(清水)ら多くのJリーガーを輩出した、神奈川の名門校。鈴木監督は同校のOBであり、中村俊輔の1個上の先輩であり、高校3年生の時にはキャプテンとしてチームを率いた人物。卒業後は国士館大を経て、当時J1のアビスパ福岡で1年プレーし、2年目の2001年から当時J2のサガン鳥栖で4シーズンプレー。最初の2シーズンは10番を背負ってプレーしていた。現役引退後、2012年に母校のコーチに就任すると、翌年に恩師でもある名将・佐熊裕和監督(現・新潟医療福祉大サッカー部監督)からチームを引き継いだ。

 今年で就任3年目を迎える鈴木監督。今年のチームはU-18日本代表FW小川航基イサカ・ゼインの力のある3年生に加え、西川公基桑原遥タビナス・ジェファーソンなど将来有望の2年生もおり、全国上位を狙えるチーム。これから迎える選手権に向けての意気込みと、母校の監督としての心境はどのようなものなのか。

 インタビューをした場所は、なんとラオスの首都・ビエンチャン。10月2日~6日にラオスで行われたAFC U-19選手権バーレーン2016予選。最終戦となったオーストラリア戦に、1泊2日の弾丸でやってきた鈴木監督。U-18日本代表が教え子である小川の2つのPK奪取と1ゴールの活躍もあって、オーストラリアに3-0と勝利を収め、来年バーレーンで行われるAFC U-19選手権出場を決めた直後に話を聞いた。

―まずはようこそ、はるばるビエンチャンへ!
「来ちゃいました!(笑) 暑いね。初めて来る国だから、本当に面白い。でも、この環境の中でサッカーをやるのはなかなか大変ですね!」

―ラオスの印象はどうですか?
「日本と比べると全然雰囲気が違うし、子供たちが働いている姿を見ると、いろいろ考えるものがあった。でも、子供や大人の表情を見ても、決して暗くないし、国としてのパワーを感じましたね。こうした異国の環境下で、選手達がサッカーをすることは、色んな意味で貴重な経験になるなと思いましたね」

―僕がラオスに出発する直前に、鈴木監督から「僕も行きます!」という電話をもらった時は本当に驚きました。そしてまさかの1泊2日の弾丸だということにも(笑)。
「U-18日本代表のGKコーチの浜野征哉さんが桐光学園出身で、浜野さんと話をしている中で、『厳しいアジアの試合こそ観に行くべきだ』と言われたんです。アジアの特異な環境の中で、年代別日本代表がプレーする姿を観に行くことは、自分の中でも刺激になって、プラスになると思ったんです。ただ、全く知らない国だし、正直大丈夫なのかなと思っていた。でも、安藤さんが行くと聞いて、凄く心強かったんですよ(笑)。弾丸になってしまったのは、やはり選手権前ですし、チームを空けていられないので、この日程にしました」

―こうしてラオスで会うと、なんだか不思議な気分がしますね(笑)。実際にオーストラリア戦を観て、何か感じられましたか?
「日本と比べたら比較にならない環境の中で、着実に勝ち点3を積み上げなければいけない試合で、しっかりと結果を出したことは素晴らしいと思いました。率直に日本の技術は高いなと思った一方で、予選の試合に特化したときに、想像もしない戦い方を相手がしてくるのだなとも思いましたね。小川も活躍をしてくれた。小川は代表に行って帰って来るたびに成長をしてくると思っていたけど、実際に代表で逞しく戦う姿を見て、納得することが出来ました。ゴールを目指す姿勢は、ピッチに居る22人の中で一番鋭さを持っていたし、相手にとって嫌なことをやり続けていた。その気持ちが今はチームでも出てきているし、より頼もしくなった姿を見ることが出来ましたね」

―では、ここで改めて母校の監督になってみて、率直にどう感じたのでしょうか?
「すぐに自分の色はなかなか出せないし、最初は本当に戸惑いました。でも、それまで佐熊監督が積み上げてきた良い物を残しつつ、新しい物に着手する難しさがある一方で、楽しさがある。母校で指導者をやる喜びは凄く大きいし、大きなやりがいを感じていますから」

―恩師でもある佐熊前監督から学んだ物とは何ですか?
「プロフェッショナルたるところですかね。高校時代は物凄く厳しい人でした。選手と監督の距離間を大事にしている監督で、3年のときにはキャプテンにもなって、より厳しく接してくれたし、自分の土台を作ってくれた。実際に自分がプロになって、プロの仕事とは何かを知ることが出来た。組織的にもスタッフの配置の妙があった。GKコーチ、フィジカルコーチ、トレーナーが居て、どう目を届かせて、選手を見るか。この体系作りは佐熊さんから学びました。桐光学園はトレーニングに対して、100パーセントの力でファイトする姿勢を持っている。僕の時代もそうだった。それは間違いなく佐熊さんのチームマネジメントと、厳しさが生み出した良い伝統ですよね。その伝統をしっかりと引き継いでやっています。

―今年で就任3年目。伝統を引き継ぎながら、鈴木監督のカラーも出てきたのではないでしょうか?
「これまで3年間、手塩に掛けながら、悪戦苦闘しながらやっている分、今年のチームに対する思い入れは強いですね。監督に就任してから、本当に勉強の毎日でした。それに僕の中で、監督はもっと現場にのめり込めるものだと思っていたのですが、現場だけでなく、チームマネジメントもやらないといけない。それは今まで経験したことがないことだったので、今もそのバランスに悩む時はあります。サッカー的にもどんどん前からプレスを掛けて、奪いにいくサッカーがまだ浸透しきれていない部分もあります。そこはもっと自分の指導力を含め、高めて行かないといけない所だと思っています」

―いよいよこれから選手権予選が始まります。桐光学園は準々決勝が初戦となります。選手権予選に向けての思いはどうですか?
「昨年、準々決勝で日大藤沢に負けた試合は、本当に印象に残っています。僕のサッカー人生の中で、勝負で負けたことはありましたが、あれほど悔しかったことは無かった。でも、あの悔しさがあるから、今いろんなことにもポジティブにやれています。日藤に負けた瞬間は、自分の力不足を痛感しました。まるで頭を何かで強打されたようでした。でも、そこで思ったのは、だからといってこれまでやってきたことを変えるのではなく、ぶれずに積み重ねていくことが大事だということ。ここでぶれてしまっては意味が無い。これを積み上げて、日藤や神奈川のチームに勝って全国に行くことに意義があると思ったんです。だからこそ、課題はありますが、コツコツと積み上げて行って、結果を出したいと思っています」

―熱いお話、ありがとうございました!あっという間のビエンチャンでしたが、帰路お気をつけて!
「教え子がああして君が代を歌って、日の丸を背負う姿を見れただけでも、行った価値があったよ。弾丸でも平気、平気(笑)。でも、ラオスで安藤君とご飯に行けなかったのが、凄く残念だね。成田空港に着いたら、すぐに学校に直行して、練習だよ(笑)」

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