beacon

「ユース教授」安藤隆人の「高校サッカー新名将列伝」 by 安藤隆人

このエントリーをはてなブックマークに追加

“ユース教授”安藤隆人の「高校サッカー新名将列伝」第10回:黒田剛監督(青森山田高)
by 安藤隆人

 新名将列伝。第9回は10月24日の選手権青森県予選で19連覇を達成し、全国で一番早く全国大会への勝ち名乗りを挙げた青森山田高の黒田剛監督。

 これまでインターハイ優勝1回、選手権準優勝1回。プレミアリーグEAST5年連続参戦を誇り、今年は残り3節で首位に立つなど、青森山田を全国トップレベルの強豪校に仕立てた張本人だ。

 柴崎岳(鹿島)という日本代表選手を始め、橋本和(浦和)、ロメロ・フランク(山形)、櫛引政敏(清水)ら多くのJリーガーを輩出し、今年も神谷優太(湘南入団内定)、常田克人(仙台入団内定)、差波優人(明治大4年、仙台入団内定)と3人の新人Jリーガーを輩出する予定だ。

 若干25歳で監督に就任してから、これまで21年間、どのような信念と情熱で青森山田をここまでの強豪校に仕立て上げたのか。10月24日、青森県総合運動公園陸上競技場で行われた、第94回全国高校サッカー選手権大会青森県予選決勝・青森山田VS八戸学院光星高の試合に1-0で勝利した直後に、黒田監督に直撃をした。

―まずは19連覇達成、おめでとうございます。
「周りのみんなは最初から『青森山田で決まり』とか、『無風だね』とか言うけれど、実は一番大変で、一番しんどいのが県内を勝ち抜くこと。結果的に決勝で5点、6点入ることはあるけど、今回はさすがにやばいかもとずっと思っていたよ。だから、本当に勝ててほっとしているよ。みんなさ『楽勝』とか言っちゃって、先入観を持ちすぎなんだよ。昨日なんか全然眠られなかったんだから(笑)」

―その気持ちは察します(笑)。今年で青森山田の監督に就任して21年目になります。当時からぶれていない信念とは何でしょうか?
「それはモチベーションでしょう。勝ちたいという気持ちを、相手よりも上回るというのがベース中のベース。その中でやりたいことは、限りなく理想が高くなってしまうけど、選手の能力だったり、持っているスキルに応じてやり方を多少なりとも変化させて行かないといけない。ただ、なんせ相手よりもよく走り、よく声を出し、絶対負けない気持ちを持つ。それがベースに無ければ、何をやってもダメだと思う」

―それは現役時代からの哲学なのですか?
「そう。それは昔から変わっていないよ。今、色んな指導の指針などがあって、テクニカルなことに特化していることが多い。それはそれで凄く大切なことだけど、基本的に『心技体』の『心』が抜けている。『技術』が先にきて、次は『体力』。だけど心の部分がないがしろにされていることに、僕は凄く違和感を覚える。やっぱり『心技体』の中で、一番大切なのは『心』。『心』が来て、『技術』が来て、『体力』が来る。まさに『心技体』の言葉の順番通りなんだと思う。その順番をきちっとぶれずにやる。心が無ければ、いくら技術があっても、戦う選手にはならない。それが自分の根本の考え方かな」

―黒田監督はもともと北海道出身で、登別大谷高(現在は室蘭大谷と統合されて、北海道大谷室蘭)から大阪体育大学に進み、平成6年にコーチとして青森山田にやってきました。縁もゆかりもなかった青森に赴任されて、最初はどんな感覚だったのですか?
「最初コーチとして来たのですが、当時の佐々木監督がコーチになって2年目に辞められてしまって、25歳のときにいきなり監督になったんです。最初は右も左も分からない状態だったので、バスを運転しながら、とにかく大阪や九州に渡って、強豪校と試合をしながら必死でやっていたよね」

―就任1年目で2度目の選手権に出場し、翌々年の平成9年からはずっと連続出場記録が続いています。一番苦労されたことは何でしたか?
「やっぱり『心』を植え付ける作業ですね。最初はもうサッカーをやっていれば良いだけの選手がいた。それに県外から来ていたけど、さすがに一線級は来なかった。1度や2度全国に行ったくらいじゃ、なかなか来てくれなかったよね」

―『心』を植え付ける作業。具体的にはどのようなことをやられたのですか?
「『心』はやはり1日24時間を自分でしっかりコントロール出来ているか。やらされている感覚でやっていたら、いつまで経ってもそれは出来ない。自分たちがこれをやることで、相手より優位に立てる。相手より上に行けるという感覚を掴むこと。最初は『きつい』、『だるい』、『めんどくさい』と思っていたことが、それが徐々に習慣化されていくことで、『当たり前』になるんです。当たり前のことを当たり前にやることが、最初のベースでした。

―もしかすると青森山田と言うだけで、施設が良いとか、お金があるとか思いがちですが、まず青森という気候的、地域的なハンディーキャップがあり、環境は相当厳しい物があると思います。そこで強化する大変さは、想像を絶します。冬の練習環境の過酷さ、今もプレミアの試合や強化遠征の度に、バスを長距離走らせて、試合する大変さは、いつも本当に頭が下がる思いでいます。
「もしこれが気候とか、距離的な問題を含めて、すべてが恵まれていたら強くなっていたかというと、それは正直分からない。厳しい環境だからこそ、我々スタッフも選手も工夫をするし、努力をする。それからメンタルも鍛えられる。移動距離が長いからこそ、それに慣れていくし、ストレスを感じることが他の地域の選手よりも無いかもしれないですね。それにこんな寒い雪の地域に、南の地方の子が来ることもある。この厳しい環境を分かっていて、敢えて『青森山田でサッカーをやりたい』という、モチベーションの高い選手達が来てくれるようになったのも、今のチームを支える大きな要因だと思います。その中には全国トップレベルの子も来てくれるようになった。それはこれまで積み上げてきたことが間違っていなかった。ぶれずにやってきて良かったと思うところですね」

―青森山田のイメージとして、どうしても県外選手が多いように思われがちですが、地元・青森の選手達もいて、柴崎選手、櫛引選手、差波選手らは地元・青森の選手です。
「今の時代、高校だけでプロに仕立てるのは難しくて、中学年代からのアプローチが必要です。そう言う面では、ウチには青森山田中学がありますし、彼らのように中学、高校という6年間のスパンで可能性がある選手を広げることが出来る。この環境は大きいと思います。それに県外から来る選手も、多くの選択肢がある訳です。それこそ、県外の選手を受け入れる高校は、全国各地にいくらでもあります。その中で声を掛けてもなかなか来てもらえない時代を、どの高校も経験している訳です。そうした経験を経て、今がある。今だけを切り取ってしまうのは良くないと思っていて、これも大事な歴史であり、実績だと思います。魅力の無いところに選手は来ませんから。ウチだけでなく、どの高校も相当な努力をした賜物だと思います」

―心を鍛えると言う面では、今年、東京Vユースからやってきた神谷選手も、かなり鍛えられた選手の一人だと思います。
「優太はウチに何かを得にきた選手。そうじゃなきゃ、あの時期に決断はしないと思う。彼は本当に覚悟を持って、ここに来たことが分かった。何事も率先してやってくれるし、本当に素晴らしい人間性を持っていると思う」

―最後に、青森山田の選手はJリーグだけでなく、大学サッカーでも活躍する選手はたくさんいます。こういうことも大きな実績だと思います。
「本当に厳しい環境の中で、選手達が意欲的に育ってくれた証拠だと思います。彼らが後輩達を呼んでくれたり、弟などを呼んでくれたりして、凄くいい流れを作ってくれていると思います。これからもぶれずにやっていこうと思っていますよ」

TOP