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東京五輪への推薦状 by 川端暁彦

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「東京五輪への推薦状」第9回:夢破れた最強静学の最強10番旗手怜央が目指す「5年後」
by 川端暁彦

 間もなく開幕を迎える第94回高校サッカー選手権大会。選び抜かれた48校の争覇戦となるが、夢破れた4,000校余りの中にも多くの逸材がひしめいている。今回は静岡の準決勝にて姿を消した技巧派集団の「10番」を取り上げたい。

「巧いし、速いし、強くて倒れない。あらためて『いい選手だな』と思いました」

 大津高DF野田裕喜は、そんな言葉で静岡学園高の10番・旗手怜央を形容する。「日本高校選抜で一緒にプレーしていたからどんな選手なのかは分かっていたけれど、一回股も抜かれましたしね」と苦笑い。来季G大阪への加入が内定している高校サッカーNo.1センターバックは、高円宮杯プレミアリーグ参入戦での対戦を通じてその実力を再認識していた。

 昨年の旗手は主にサイドアタッカーとして活躍し、その名を全国で知られるようになった。特に高校選手権において、対面の東福岡高MF増山朝陽(現・神戸)を抑えながら前に出て、存在感を示していたのは印象深い。PL学園高で活躍した野球選手を父に持つ天賦の運動能力に加えて、静学で磨いたテクニックでサイドを制圧するスタイルは、一つ確立されたものがあった。

 そんな旗手は今年に入ってから、「幅」を広げることとなった。起用されたポジションは「左サイド、真ん中、FW……。本当にいろいろやらせてもらった」(旗手)。視野が限定されて、1対1になりやすいサイド起用では見えなかった課題も自然と見えてきた。「今までドリブルのときは目の前の一人しか見ていなかったし、判断も遅かった。真ん中だと攻撃の組み立ても求められる」中で、プレーの幅は着実に広がり、選択肢も増えた。得点もより求められるようになる中、「よく伸びてくれた」(川口修監督)。

 身体能力に秀でるドリブラーにありがちな技術的な拙さがなく、技術に秀でるドリブラーにありがちな身体的な弱さもない。後は本人も認めるとおり、「大事な試合で勝負弱さが出てしまった」という課題を、大学サッカーの4年間で克服すること。先輩たちも在籍する順天堂大で戦術面と肉体面、そして精神面を進化させれば、おのずと「4年後」も見えてくるだろう。

 プレミア参入がならなかったとはいえ、プリンスリーグ東海で残した18試合73得点9失点という常識外れの数字が証明しているように、間違いなく静岡学園は強いチームだった。「選手権に出ていれば間違いなく優勝候補だった」という大津・平岡和徳監督の言葉も決して社交辞令などではなかった。旗手だけでなく、FW加納澪、MF鹿沼直生など将来が楽しみになる選手たちがひしめく集団だった。

 最強クラスのチームが最大目標だった選手権に出られなかったのだから、選手たちはそれぞれ心に傷を残したはず。だが、そうした悔しさを糧に伸びていくのがホンモノというものでもある。川口監督が「大学で伸び続けて、そして4年後に」と言ったように、彼らの逆襲に期待したい。もちろん、「5年後」の東京五輪も決して夢の舞台ではない。あくまで目指すべき「目標」だと思ってほしい。

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