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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:めぐる時代の真ん中で(國學院久我山高・平田周)
by 土屋雅史

 ちょうど1年前。全国大会で1年生守護神として脚光を浴びていた17歳は、その舞台をスタンドから見つめることしかできなかった。ピッチではその1年前に対峙していた青森山田高や東福岡高の選手たちが躍動している。「目を背けたい現実があるけれど、自分自身の中にこの感情を刻み込むためにも、『今年の1年は飛躍したい、結果を残したい』と思ったら、『やっぱり見ないといけないな』と思ったので見に行きました」。平田周の2017年は等々力陸上競技場のスタンドから幕を開けた。

 3年連続の全国出場となった高校選手権で準優勝という大きな成果を残した2015年度の國學院久我山高。そのチームで入学早々にゴールキーパーの定位置を掴み、最後方からチームを支えていた平田は、1年生という話題性も手伝って多くのメディアの取材対象となっていた。特に同じFC東京の下部組織出身でもある廣末陸と対峙した青森山田戦の試合後、埼玉スタジアム2002のミックスゾーンには1つ年上の“先輩”に勝利した平田を中心に、囲んだ記者による輪が幾重にも渡ってできる。決勝では東福岡に0-5と大敗を喫したものの、主力の半数が1、2年生だった國學院久我山は、翌年度も当然東京の高校サッカー界を牽引していくかのように思われていた。

 ところが、「準優勝した瞬間に『今年は苦しいだろうな』と選手たちには言っていて、『今年を獲るのは難しいぞ。その腹を括って1年間しっかりやろう』と言っていました」と清水恭孝監督も話した2016年度のチームはなかなか目に見える結果が付いてこない。関東大会予選では2回戦で関東一高に敗れると、2年連続の全国出場を目指していた総体予選では都立駒場高に0-1で競り負け、1次トーナメントで姿を消してしまう。4連覇を狙って挑んだ選手権予選も、前年度の決勝で下した帝京高のリベンジへ懸ける想いに屈し、まさかの初戦敗退。「全国で一番遅く終わったのに、新チームは“一番早く”終わってしまったので、本当に色々な人の期待を裏切ってしまいました」と平田。T1リーグでも最終的には勝ち点で成立学園高と並びながら、得失点差でわずかに優勝には手が届かなかった。「色々な意味で大変だったなという1年でした」と清水監督も振り返る2016年度は、國學院久我山にとって大きな悔しさを突き付けられたシーズンとなる。

 ここ数年よりは2か月近くも早い始動となった新チーム。「上級生に最高の想いをさせてもらった次の年に最悪に近いシーズンを送った訳ですから、こういう所で責任を背負ってもらって、それをチームにどうやって生かせるのかが、また彼が大きくなるためには必要かなと思ったんです」という清水監督と時崎一男部長は平田をキャプテンに指名する。彼には2人のモデルとなるキャプテンがいた。1人は一昨年度の宮原直央。もう1人は昨年度の名倉巧。「宮原キャプテンは色々な気配りができたりとか、そういう真面目なタイプで、名倉キャプテンはどちらかというとプレーで引っ張るようなタイプだったんですよね」と分析する平田は、「自分はもうちょっと気持ち系というか、パワフルでエネルギッシュな感じをチームに与えられたらいいのかなと思って、そういう部分は凄く意識してずっとやってきています」と自らの役割に言及する。

 キャプテンとして初めて臨んだ12月の合宿では、気付いたことがあった。6時半からの朝食に際し、6時10分には1年生が準備のために食堂へ集合し、2年生は6時25分前後に集まってきていたが、あるタイミングで時崎部長に「キャプテンのようなヤツが一番最初に来て示しをつけるというか、やらなきゃいけない雰囲気を創るのもオマエの役目なんじゃないか?」と問い掛けられ、「『ああ、その通りだな』と思って」それを実行し始めた。「チームの先頭に立っていくことはそういうことなんだなと凄く思いました。でも、そう言われるのも凄く嬉しかったですし、結構そう言われたら意気に感じますね。怒られても『こういう怒られ方をするのもオレだけかな』みたいに勝手に感じています」と明るく笑った平田。「やることも多いですけど、そういうのは嫌いじゃないので」と続けた守護神は元々キャプテンに向いているのかも知れない。

 年が明けた1月5日。知りたくなくても選手権の情報は否応なく周囲から入ってくる。「どれだけ注目される舞台か知っているので、他の誰かが注目されていることにも『何だよ』という嫉妬心やジェラシーもあったし、自分への怒りというのもあった」平田は、それでも「生で見ないと意味がないかな」と等々力陸上競技場に足を運んでいた。1人で見ていると途中で帰ってしまいそうな予感もあったため、数人の友達と連れ立ってスタンドから見た選手権。「悔しい想いの方が強かったですけど、刺激も随分もらいましたね」と正直な想いを口にする。とりわけ一昨年度の決勝で苦杯を嘗めさせられた東福岡と東海大仰星高の一戦からは得るものが少なくなかった。「ヒガシが仰星に負けるのを見て、サッカーの難しさというか、『強いだけでは勝てない』というのも改めて感じましたし、『本当に力を出したい所で出せなかったら簡単に負けてしまうんだな』というのは外から見て凄く思いました」という等々力のスタンドで、「本当は見たくなかった」選手権を体感した平田は、湧き上がる色々な感情を自らの中へ確かに刻み込んだ。

 それから約1か月後のT1リーグ(東京都1部リーグ)開幕戦。東京朝鮮高と対峙した國學院久我山は、後半から投入された木下陽が全得点に絡む活躍を披露し、3-0で勝利を飾る。「かなり嬉しかったというか、本当にホッとしたというか、前半は苦しみましたけど、最終的には良いゲームができたかなという感じですね」という平田も、キャプテンマークを巻いて挑むリーグ初戦で結果を出したことを素直に喜びながら、改めて最終学年となる今シーズンへの決意をこう語る。「結果にこだわりたいという気持ちは強くなりました。去年は本当に3年生にとっては難しかったんだなと、自分が最高学年になって感じましたし、今年は何としてもまず東京でわかりやすい結果を絶対に残さないといけないですよね。ここまで先輩たちが何年も選手権に出て、久我山というチームをより多くの人に見てもらえるようになったので、ここで自分たちがまた負けてしまうようだと、久我山というチームのブームが去ったというか、一時の流行りみたいな感じに見られてしまうと思いますし、今年自分たちが結果を残すか残さないかで、また久我山というチームの未来や存在が変わるんじゃないかなというぐらいの重要度というか、それぐらい責任のある1年かなという風に捉えています」。久我山という看板の中でも、さらにキャプテンという重責を背負う覚悟がその言葉から窺えた。

 人と同じことをするのは嫌いだという。「自分の思っていることを言いたいので」という彼のコメントは、確かに人目を惹く表現に彩られていることも多い。「“凡人”と言われるより“変人”と言われる方が嬉しいタイプなので。自分自身では結構自分のことを“変人”だと思っているんですけどね」とカラッと笑う姿には、いわゆる“コミュ力”の高さが滲むが、「一昨年は1年生というだけでちやほやされていただけなので、去年で見捨てられたかなという感じですよね」と笑顔で紡いだその言葉の裏側に、この1年へ懸ける並々ならぬ想いが隠されていたことは疑いようがない。自らが輝く“時代”は誰にでも平等に訪れる訳ではないだろう。ただ、めぐってくるかもしれない“時代”をしっかり掴むだけの可能性と情熱が、平田周には間違いなく秘められている。


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