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スポーツライター平野貴也の『千字一景』 by 平野貴也

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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第63回:声で闘う、スタンドの戦士
by 平野貴也

 師走を迎えた。12月30日に開幕する第96回全国高校サッカー選手権大会は、最後の一枠となっていた神奈川県代表が桐蔭学園高に決まり、ついに出場48校が出そろった。まだリーグ戦や参入戦を残すチームもあるが、伝統ある大会の幕開けは一歩一歩近づいている。様々なメディアが、大会展望、優勝候補、注目選手などを報じる。注目点は、たくさんあるが、ぜひ見てもらいたいものの一つが、スタンドの応援だ。

 吹奏楽部、チアリーディング部によるパフォーマンス、人文字、メガホンなどを用いた伝統的な応援。あるいは、Jリーグに影響を受けてプロチーム顔負けのチャント(応援歌)やコールを響かせるチームもある。実に多彩で面白い。人気のある大会でスタンドが埋まるのは珍しくないが、応援に参加する人数が以前よりもはるかに多く、自主性が強くなっており、声援の力が凄まじい。無視できないエネルギーを感じる。

 中には、ただ真似をしただけ、盛り上がるだけでチームの応援になっていないものも見受けられるが、若者は失敗を恐れず、やってみれば良い。「やらされる応援」より、はるかに良い。今年もいくつかの都道府県予選を取材したが、熱量がピッチに伝わって来る素晴らしい応援がいくつもあった。

 鹿児島県の鹿児島実高では、女子の応援団長が大きな声援をリード。試合後も敗れて気落ちしながらスタンドへの挨拶に向かった選手たちに、渾身の力を込めてエールを送っていた。応援団に3年生の男子がおらず、同校応援団初の女子団長となったというが、立派に大役を務めていた。長野県の上田西高も大人数で一体感を見せ、童謡「アルプス一万尺」のリズムに乗せて踊り歌う応援は、迫力があった。こちらは、全国大会でも見ることができるかもしれない。

 日本のスポーツファンは今、応援を楽しむ文化を作り上げている。そして、若い選手は、プロリーグを観に行ったり、自チームの仲間を応援したりする経験を経て、自分がプレーする際に応援される意味を感じ始めている。

 組み合わせ抽選会の際、大阪桐蔭高(大阪)の西矢健人主将は「年末年始なので、関東まで応援に来てもらえるかは分からない。でも、テレビの前での応援でも嬉しい。決勝まで勝ち進んだら、全員来てくれると思うから、そういう舞台を作りたい」と話した。

 主役は、あくまでもピッチ上の選手たちだ。しかし、大舞台の空気は、試合に影響を及ぼす。応援の力は侮れないのだ。「背番号12」、応援団にも注目だ。

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