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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:約束(大成高・金井渉)
by 土屋雅史

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 自らの背中に馴染んだ“5”ではなく、この試合だけはアイツの“4”を代わりに背負うことを、もう自分の中で決めていた。「自分が想いを背負って、少しでも『一緒に戦っている』と思ってやりたかったので、昨日の練習が終わった後に豊島さんにこっそり『4番、付けたいです』と言って、急遽変えさせてもらいました」。勝てば大成高にとって初めての全国が決まる大事な一戦。チームのセンターバックを託されてきた金井渉は、いつもとは違う“4番”を背負って約束のピッチへ歩みを進めていく。

 6月15日。総体予選準々決勝。堀越高に延長戦で競り勝った試合後の佐藤イライジャは、複雑な表情を浮かべていた。「イエローをもらった瞬間に『ああっ…』ってなりました」。後半19分に提示されたイエローカードは今大会2枚目。その瞬間、勝っても次の準決勝へと出場することは叶わなくなる。

 それでも延長前半のアディショナルタイム。宮脇茂夫が右から入れたコーナーキックを金井渉が折り返すと、佐藤が放った渾身のヘディングはクロスバーを叩きながら、ゴールネットへ飛び込む。「何かできることがないかなと思ったら、それしかなかったですね」。この一撃が決勝ゴール。大成は昨年度の選手権予選、今年の関東大会予選に続いて、代表権を争う大一番へと勝ち上がる。ただ、佐藤がその舞台に立つことは許されない。“相棒”の金井渉は勝利の歓喜を享受しながら、「困ったことになったな」と1週間後に頭を巡らせていた。

 近年は東京でも上位進出の常連校になりつつある大成。特に今年の3年生の代は「今までの子たちとサッカーに対する姿勢がちょっと違う」と豊島裕介監督も期待を寄せてきた学年であり、1年時から強豪校とのトレーニングマッチを積み重ねるなど、着々と強化が進められてきた。

 そのチームの中で常にセンターバックを任されてきたのが佐藤と金井。2年に進級した昨年度から、一貫してAチームの最終ラインには4番の佐藤と5番の金井が並ぶ。指揮官もことあるごとに「ウチには“イライジャ金井”がいるので」と大きな信頼を口にするように、彼らの安定感は大成の生命線として機能し続けてきた。

 2人が積み重ねてきた連携はもはや阿吽の呼吸。「声掛けをしなくても、チャレンジアンドカバーが徹底できている所はあるので、自分のことだけになっちゃっても絶対に後ろはカバーにいてくれるとか、そういうことが何も考えずにできているのは自分も凄く思っていて、たぶんイライジャもそう思っているはずなので、やっぱりアイツは特別ですね」。そう言い切る金井の表情にも絶対的な自信が浮かぶ。

 タイプ的には似た者同士だと5番は分析している。「イライジャは前で戦う方が強いので、基本は自分もそういうタイプなんですけど、自分は後ろ気味にいて、イライジャをずっと前で戦わせていました。もうそれが安定してきたので、『コレはヤバいかも』と思った時はカバーに行くぐらいです」。高さと強さにより特徴を持つ佐藤のストロングを生かすべく、少し彼をコントロールしながら後方で支える役割が自然と身に付いていった。

 大成が一気に注目を集めたのは昨年度の選手権予選。暁星高や東京実高を相次いで倒し、初めて駒を進めた準決勝のピッチでイレブンは躍動する。2人のJリーグ内定者を擁する成立学園高相手に、前半31分にはコーナーキックから金井が先制ゴールを奪取。後半は圧倒的に攻め込まれるものの、“イライジャ金井”を中心に跳ね返し続けると、そのまま強力攻撃陣をシャットアウト。いきなり西が丘を勝ち抜け、ファイナルまで勝ち上がる。

 決勝の相手は国士舘高。自信を持って挑んだ80分間だったが、セットプレーから失点を許すと、それまで噛み合っていたはずの歯車が、少しずつ軋んでいく。「1点決められてからずっと焦っちゃって、いつもやっているサッカーも全然出せずに、『とりあえず前に前に』と慌てちゃったりしていましたね」と金井。掴んだPKのチャンスも相手GKに阻まれ、1点が遠い。

 結局ゲームはそのままタイムアップ。金井は「決勝まで行けたことは嬉しかったんですけど、決勝で勝たないとすべて意味がないと言っちゃえば、本当に意味がないと思うので、あの負けは大きかったです。流れではやられていないのにセットプレー1本での失点だったので、『本当にあと少しだったな』と思いました」とその時を振り返る。とはいえ、スタメンには6人の2年生が名前を連ねており、さらなる躍進を周囲も自らも期待しつつ、勝負の2019年が幕を開ける。

 迎えた関東大会予選。2度の延長戦を制し、辿り着いた東京代表を決定するセミファイナル。前評判ではやや大成有利と目されていたが、東久留米総合高の粘り強さの前に苦戦を強いられ、結果的に2-3と惜敗。東京の代表権を2大会続けてあと一歩で取り逃がしてしまう。

 金井は2つの悔しい敗戦をこう考える。「正直に言って、選手権と関東予選の時の相手は自分たちと同じくらいのレベルだと思っていたので、『たぶん勝てるんじゃないか』とか『オレらなら行ける』みたいな感じだったと思うんですよね」。実力的にそのステージまで到達できるレベルにあることは証明できた。あとはその先にある何かを、壁を乗り越えるための何かを、掴めるか。

 東京に2枚用意された沖縄行きの全国切符。その“2枚”を巡る総体予選がスタートする。一次トーナメントは日大鶴ヶ丘高を6-0で退け、二次トーナメント初戦では難敵の実践学園高を1-0で撃破。そして、前述の準々決勝でも佐藤の決勝ゴールで粘る堀越を延長戦の末に下し、悲願達成へ王手を懸ける。ただ、こちらも前述した通り、佐藤は大会2回目の警告を受けたため、準決勝は出場停止。チームは守備の大黒柱を欠いた状態で、大事な一戦へ向かうことを余儀なくされる。

「急にイライジャがいなくなると、この1週間だけじゃ立て直すのは結構難しいというのはありましたし、練習では2年の金井(陸人)と一緒にセンターバックを組んだんですけど、あまりうまく行っていなくて…」。ポジションもいつもの左センターバックではなく、右センターバックへ。1つ位置がズレただけでも、視野は大きく異なる。金井の中で小さくない不安が募っていく。

 ようやく吹っ切れたのは準決勝の前日。「普段はずっとイライジャが隣で戦ってくれていた分、『次は自分がその仕事をやらなきゃ』という想いはあったので、いろいろ不安はありましたけど、『あとは楽しんでやるしかない』と思ったんです」。もう、やるしかない。その覚悟を決めた上で、佐藤との約束を実行に移すべく、豊島監督の元を訪れる。

 自らの背中に馴染んだ“5”ではなく、この試合だけはアイツの“4”を代わりに背負うことを、もう自分の中で決めていた。「イライジャに『次は4番を付けて、オマエの想いを背負うよ』と言ったんです。自分が想いを背負って、少しでも『一緒に戦っている』と思ってやりたかったので、昨日の練習が終わった後に豊島さんにこっそり『4番、付けたいです』と言って、急遽変えさせてもらいました」。

 指揮官もその時をこう振り返る。「『ああ、そうか。背負いたいんだな』って。彼らは3年間組んできているセンターバックですし、『イライジャは凄い』『イライジャがいるからオレもやれている』といつも言っているので、そういう部分で『背負いたかったんだな』とわかって、即答で『いいよ』って言いました(笑)」。“4”のユニフォームに2人分の想いが重なる。もう、やるしかない。

 6月22日。総体予選準決勝。対峙するのはプリンスリーグ関東でも好調を維持している帝京高。相手にとって不足はない。金井はいつもとは違う“4番”を背負って約束のピッチへ歩みを進めていく。気付けば、前の試合まで17番を付けていた金井陸人の背中が“5番”に変わっていた。全国の懸かったこのゲームでも、大成の最終ラインには見慣れた“4”と“5”が揃う。スタンドに陣取った佐藤が応援の声を張り上げる。それぞれの選手が、それぞれの立場で、運命のキックオフを待つ。

 前半9分に幸運な形で先制したものの、6分後にミスが絡んで同点ゴールを許す。そこからはお互いにチャンスを創り切れない時間が続くも、攻撃の時間が長いのは帝京。金井も「だいぶキツかったですね、ずっと走り回されていたので、キツいのはあったんですけど」と振り返りながら、「応援から『頑張れ!』という声がよく聞こえたので、自分も頑張れた所はありました」と言葉を続ける。

「いざ試合となったら頑張ってくれましたね」と“渉”に評された“陸人”も懸命に帝京攻撃陣へ食らい付く。“イライジャ金井”ならぬ“ダブル金井”の安定感も時間を追うごとに増していき、相手に決定的なシーンを創らせない。1-1で80分間が終了し、もつれ込んだ延長戦でもスコアは動かず。全国切符の行方はPK戦へと委ねられる。

 ここで思わぬ展開が訪れる。「練習では6番目のキッカーだったんですよ。でも、『5番目、誰が行く?』となった時に、急に自分が5番目になっちゃって(笑)、ちょっと焦りはあったんですけどね」。そういう時こそ、大仕事が回ってくるもの。9人がいずれも成功し、後攻の大成5番目。外したら負けというシチュエーションで、金井がキッカーとして登場する。

 帝京のGKはFC多摩で中学時代の3年間を共にした冨田篤弘。「PKを蹴る時に冨田とちょっと話して、『決めてやるからな』というのを伝えたんです」。スタジアム中の耳目が集まる中、“4番”が右足で蹴ったキックは冨田が右手で弾いたが、リバウンドはゆっくりとゴールの中に転がり込む。「一瞬『ヤベー!』と思いましたけど、その後のボールを見ていたら入ったので、とりあえず『セーフ…』と思いました」。PK戦はサドンデスへと突入する。

 展開が動いたのは9人目。帝京のキックがクロスバーに嫌われた。決めれば終わりの大成9人目は“5番”の金井陸人。短い助走から右スミを狙ったキックは、ゴールネットを確実に揺らす。ピッチも、ベンチも、スタンドも、歓喜の絶叫と涙に包まれる。「一番はイライジャに飛び付きたかったんですけど、『スタンドの方には行くな』と言われていたので」。ピッチで喜びを爆発させた後、ひとしきりの流れを終えてから金井がスタンドに向かうと、泣いている佐藤の姿が視界に飛び込んでくる。

「応援席に挨拶した後に、真っ先にイライジャの所に飛び込んで『全国で暴れよう』と話しました。彼も喜んで泣いていましたし、自分も喜び過ぎて本当に涙が出ちゃって。気持ちいいものですね」。 “4”と“4”の抱えてきた想いが混ざり合う。いつもと別々の場所で、いつもと別々の役割を自らに課して戦った彼らは、間違いなくこの日のことをいつまでも覚えていることだろう。

 実は同じセンターバックを本職としながら、佐藤と金井の身長差は10センチ近い。「自分は本当に高さがなくて、大学関係の方とかが見た時に目を惹くのは、絶対イライジャの方だと思うんですよ。自分的には『ウチはイライジャだけじゃないぞ』という気持ちでやっているんですけどね」と笑ったものの、その想いを消化した上で、金井が自身について語った言葉は、思わず何度も繰り返して口にしたくなるような魅力に溢れていた。

「でも、自分は『すべてが輝く選手じゃなくていい』と思っていて、『ずっと陰にいて、いざって時に“パッ”って輝く選手になれたらいいな』って。たぶん最初からずっと輝くのは無理なので(笑)、何なら相手が『イライジャは凄いから逆のセンターバックの所を狙おうぜ』となった時に、『オレもいるんだぞ』というのをわからせるようなプレーができるように、心掛けていきたいなと思っています」。

 暑い沖縄の夏がやってくる。彼らにとって初めての全国がやってくる。「未知の世界ですよね。どういう世界なのか、どういう環境なのか、どういう緊張感があるのかというのも全然わからないですけど、そういうピッチでプレーできるというのは、本当にもう今は楽しみでしかないです!」。そう言いながら嬉しそうに笑った金井の横には、本来の“4番”が戻ってくるはずだ。最高のパートナーで、最高のライバルで。大成の最終ラインには、いつだって“4”と“5”の背中がキラキラと逞しく輝いている。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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