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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:遥かなる頂へと(松本山雅FC U-18)
by 土屋雅史

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 この夏が終われば、緑の友と一緒に過ごす時間にもハッキリと別れの気配が忍び寄る。入道雲が泳ぐ群馬の青空の下、風に揺られながらチームメイトを見つめていた22番のユニフォームも、もう持ち主の元へと戻っているはずだ。「かわいいっちゃあかわいいよ。でも、裏切られることが多いからさ(笑)」。今年から就任した指揮官は、子供でもおかしくないような年齢の選手たちに厳しくも優しい眼差しを向けつつ、自身に対してもベクトルを突き付ける。「彼らが次の世代を担っていく訳だから、僕自身が指導者としても人間としてもどんどんアップデートしないといけないし、それを彼らに伝えていけるように僕も努力して、彼らもそれに応えるように努力していくことが、クラブの成長に繋がるかなと思います」。信州は松本。西ヶ谷隆之と彼の指導を仰ぐ高校生たちは、『遥かなる頂』へと辿り着くべく、日々の“奮闘”の中にいる。

 7月21日。クラブユース選手権のグループステージ初戦。2年ぶりに夏の全国へと乗り込んできた松本山雅FC U-18は、高円宮杯プレミアリーグEASTに所属する浦和レッズユースと対峙。押され気味の展開の中、「県外とかも考えたんですけど、オファーをもらったので『地元のJクラブだし、入ってみよう』と思って決めました」と中学進学時から山雅のユニフォームに袖を通したGKの神田渉馬を中心に、粘り強い守備を披露。スコアレスドローで勝ち点1を獲得する。

 過去3度の出場で積み重ねた結果は、1分け8敗と2得点49失点。2016年大会でサガン鳥栖U-18相手に、アカデミー出身者として初めてトップチームでプレーした小松蓮が2ゴールを奪い、引き分けに持ち込んだ試合の勝ち点と得点が数字上では唯一の成果だったが、7月のJFAナショナルGKキャンプにも招集された神田は、浦和との初戦に向けたチームの結束をこう明かす。「グループを突破するために1試合1試合が大事だから、『まずは初戦に絶対勝とう』と言って来ました」。

 千葉から単身で松本の地へ居場所を求めてきた中村海斗にとって、この日のピッチは待ち焦がれた舞台だった。「プレミアとか上のステージでプレーしている選手を日頃から見ていて、そういうヤツらに負けたくない想いはずっと持っていたので、今日はやる前から楽しみでした」。それでも最優先はチームの結果。「本当はボールを動かして持ちたいですけど、そんな綺麗さにこだわることなく、勝つことにこだわりました」。神田も中村も、そしてチームメイトも、真剣に勝利を目指した上での勝ち点1に物足りなさを覚えている様子がありありと窺えた。

「コミュニケーションは取ってますよ。選手よりガキにならないといけない時もあるし、とりあえず選手をイジりまくってます(笑)」と笑うのは、今年の1月からチームの指揮を託された西ヶ谷隆之。水戸ホーリーホックやSC相模原などJクラブでの監督経験も有する西ヶ谷だが、その前は母校の筑波大や明治大、中京大をはじめ、東京ヴェルディのアカデミーでも指導に当たっており、いわば育成からの叩き上げとも言えるキャリア。この年代でもきっちりと実績を残してきた指導者だ。

 就任してから一貫して求めてきたのは、シンプルでいて、一番大事なこと。「スタンダードなプレーの原理原則もそうだし、基本をしっかり徹底させました。その中で“止める蹴る”が全然できないから、それは毎日やっていますね」。日常的に戦う長野県リーグだと、おろそかにしていても見逃されがちな部分にもフォーカスしつつ、ベースアップを図り続ける。

「県リーグより上のレベルはいつも目指しているし、プリンスとかプレミアを狙うなら『自分たちがボールを握っていて、相手にカウンターを食らいますとか、そんなんじゃないよ』というのはずっと伝えているから」。選手たちのサッカーに対する目線を引き上げていく一方で、より気になっていた部分の改善にも段階的に着手していく。それは一言で表現すると“人間力”。

「サッカーもそうだけど、普段から発信をする子供が少なくなってきている中で、人とコミュニケーションを取って、自分の特徴をどうやってチームの中で生かしていくかという部分で、サッカーノートを書かせて、毎週それに返事を書いてます。青春時代に戻ってますよ。“赤ペン先生”やって(笑) ちゃんと彼らの頭の中をしっかり覗く作業、考えていく作業をしていくことで、少しずつではあるけど変わってきている部分はあるんじゃないかな」。

 チームでも数少ないU-12からの在籍組に当たる関島海斗は、新指揮官の影響を明確に感じていた。「西ヶ谷さんはサッカーの部分もそうですけど、私生活の部分を大事にしてらっしゃいますし、個人個人の責任感や発信する意欲とか、そういう所は変わってきたと思います」。10番を任される樋口大輝もグループの変化を口にする。「選手とのコミュニケーションを取ってくれる方なので、サッカー面でどうすればいいかを選手からも監督に聞くことでやりやすくなって、みんな生き生きプレーできるようになってきたと思います」。西ヶ谷流の“改革”が徐々にではあるものの、ジワジワと浸透し始めていることは間違いなさそうだ。

 グループステージはあと2試合。次の相手は前回王者であり、浦和同様にプレミアEASTに主戦場を置く清水エスパルスユース。だが、中村に臆する雰囲気は微塵もない。「決勝トーナメント進出はこのチームが成し遂げていないことですし、それができれば歴史を変えられますし、個人としてはプレミアでやっているエリートのヤツらから点を取りたいですね。3年間ずっと溜めてきたモノを生かせる舞台なので頑張ります」。強気な言葉が頼もしい。この夏に緑の凱歌を上げることはできるのか。

 7月24日。どこまでも青い群馬の夏空にタイムアップのホイッスルが吸い込まれると、緑の番号を背負った真っ白なユニフォームが、緑の芝生にバタバタと倒れ込む。「不甲斐ないですね。今日が一番悔しいです」。2年前の全国もピッチで経験した樋口が唇を噛む。清水エスパルスユースには0-1で惜敗しながら、決勝ラウンド進出の可能性を残して迎えた第3戦。モンテディオ山形ユースは容赦なく4つのゴールを叩き出し、スコアボードのゼロを変えられなかった山雅のチャレンジは、今回も3試合で幕を閉じることとなった。

 関島は近いようで遠い彼らとの距離を実感していた。「個人個人の技術もそうですけど、1つのミスの大きさというか、県リーグはミスをしても失点しなかったりする中で、こういう所に来たら1つのサボりだったり、切り替えの遅さでやられてしまうので、そういう所の差は感じました」。その意見に樋口も同調する。「県リーグのプレスとは全然違うし、思うようにボールを保持できなくて、高いレベルでやっている部分の差は結構感じましたね。普段レッズさんとかエスパルスさんとかとリーグ戦で戦っていれば、もっとできたんじゃないかなと思います」。その目で、その足で体感しないとわからない領域で、日常の差が確かにあったのだろう。

 試合終了直後。西ヶ谷は選手たちに話し合いを促す。テーマはまったくのフリーからヘディングを決められた4失点目について。「『アレは個人でどういう責任だったの?』って。あの瞬間にあんなことを言うのはどうかとも思うけど、解決させなきゃいけないことでしょ、と。彼らは責任の所在を凄く曖昧にしてしまいがちで、結果はしょうがないけど、今後ああいうことが起きないようにどうやって発信していくんだって部分で、そういうのは確かめていくべきだし、僕は結構問いかけますよ。何となく『勝ってオッケー』みたいな所が県リーグだとあるから、普段はほぼほぼそういうことの繰り返しです」。

 最終的に選手たちの話し合いで結論は出なかった。「結局わからなかったみたいね。まあ、今日は松本に帰らないから、またホテルで映像を見せようかなと(笑)」と話した指揮官は、一転して表情を引き締める。「選手にしてみれば苦しい部分にちゃんと目を向けてやっていかないと、結局サッカーって良い時ばかりじゃないから。そういうことを僕は大事にしたいですけどね」。そこにはチームとして、個々のサッカー選手として、そして人間としての成長を促したいという西ヶ谷の意図が透けて見える。

 実はこの大会に臨むに当たり、彼らはある選手を欠いていた。入道雲が泳ぐ群馬の青空の下、ベンチに設置されたテントの片隅で、風に揺られながらチームメイトを見つめていた22番のユニフォームの持ち主。キャプテンの山崎快は負傷のために登録メンバーから外れていた。「いつもこういう大事な試合の時にいないキャプテンなんです」と笑顔で明かした中村の言葉を、樋口が引き取る。「リーグ戦でケガしちゃって。でも、去年のプリンス参入戦前もケガしていましたし、今回も全国を決めるアルビとの試合でも、後半10分くらいで退場して。逆にその時は『アイツの分までやろう』って盛り上がって、良い試合ができたんですけど、まあ『いろよ』って感じですよね(笑)」

 この大会は応援に徹していたキャプテンだが、チームメイトの信頼は厚い。「メッチャチームを鼓舞してくれるキャプテンなので、彼の分まで戦う気持ちは持っていました」(中村)「結構ムードメーカー的な感じで引っ張ってくれるヤツですね」(樋口)。山崎と一緒に戦おうという選手たちの気持ちが凝縮されていた、風に揺れるユニフォーム。ただ、やはりその緑と白の横縞はピッチに立っていてこそ輝きを放つ。全国の舞台で悔しさを味わった緑の友を、タッチラインの外から鼓舞することしかできなかったキャプテンが、彼らに残されたこれからの時間で果たせる役割はきっと少なくないだろう。

 小学生時代から山雅で育った関島は、アカデミー全体を取り巻く環境の変化を教えてくれた。「Jリーグの下部組織になってからは注目度も違いますし、ファンの方からの見られ方が全然違いますね。あとは、ジュニアの時もジュニアユースの時も土のグラウンドでやっていたんですけど、かりがねの練習場もできて、設備も良くなって、そういう部分も変わってきていると思います」。最近気を付けているというエピソードが微笑ましい。「ホームゲームを山雅の格好で見に行った時は、やっぱりゴミの処理とかもしっかりしなきゃと思いますし(笑)、あとは練習会場に行く時とか移動の時に、やっぱり交通ルールをしっかり守らないといけないなって思います(笑)」。周囲からの視線も、彼らの人間的な成長を促しているようだ。

 改めて西ヶ谷もサッカー以外の部分が、サッカーに与える影響を強調する。「みんなプロを目指すって言うけど、そんな簡単じゃないし、基準をしっかり持ってやっているヤツがサッカーでも社会でも必要とされるだろうし、志も含めてコツコツやっていくことが大事だからね。でも、サッカーでも普段の生活でもしっかり周りに目を向けられるようになっていくことが、実は良いサッカー選手になる上で、良い社会人になる上で大事な部分だと僕は思っているし、やっぱり育成ってそういう所だから」。

 今の西ヶ谷の状況は“奮闘”というフレーズが当てはまるようにも見える。しかし、充実した日々を送っていることも言葉の端々から窺える。「やっぱりこれだけ一緒にいると、みんなかわいく見えてくるものですか?」。何気なく聞いた一言に、こう答える表情にも笑顔が灯る。「かわいいっちゃあかわいいよ。でも、裏切られることが多いからさ(笑) 成長が速い時は凄く速いのに、戻る時は凄い戻り方をするし。そういう意味では子供だけど、『素直だなあ』と思う部分もあるしね」。あるいはそれこそが育成年代の指導者にとって、一番の醍醐味なのかもしれない。少なくとも西ヶ谷は、その毎日を苦しみながら楽しんでいるように見えた。

「やっぱり集大成の年でもありますし、西ヶ谷さんたちと積み上げてきたものは結果として残せていないですけど、これからのJユースや参入戦でまだまだチャンスはあるので、しっかりとさらに上を目指して、個人としてもチームとしても結果を残せるように頑張っていきたいです」。関島はきっぱり言い切った。この夏が終われば、緑の友と一緒に過ごす時間にもハッキリと別れの気配が忍び寄る。彼らがその事実に気付いていないはずはない。だからこそ、手にしたい。みんなで喜べる誇らしい結果を。みんなで思い出せる誇らしい記憶を。

「ユースだけじゃなくて、ジュニアユースが大事になり、ジュニアが大事になり、というのがクラブで今共有されて、ここからアカデミーを変えていく形になってきているので、この4、5年の中で今後の見え方としていろいろなものができてくるんじゃないかなと。僕らは目の前の結果も見ながら、同時に遠くも見据えながらやっていくことが凄く大事で、自分の目的地も、選手個人の目的地も、このクラブの目的地だって違う訳だし、その“目的地”に対してどう自分を変えていくかという部分で、そういうことを考えられる要素をしっかりと我々が与えていく、そういう選手を育てていくことも、凄く重要になっていくのかなと思います」。西ヶ谷は未来予想図を明確に描いている。アカデミーの選手1人1人がそれぞれの目的地へと、それぞれの“遥かなる頂”へと到達するために重ねる努力は、きっとこのクラブの大きな財産になっていくことだろう。

 アルウィンに響き渡る勝利のチャントが耳の奥にこだまする。「松本 俺の誇り 勝利の道ゆく街 さあ行こうぜ緑の友よ 遥かなる頂へと」。信州は松本。西ヶ谷隆之と彼の指導を仰ぐ高校生たちは、『遥かなる頂』へと辿り着くべく、日々の“奮闘”の中にいる。


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