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蹴活生ガイド2020(関西) by 森田将義

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[蹴活生ガイド2020(関西)]甘さに気付き、前向き続ける逸材。阪南大FW山口拓真は飛躍の一年に
by 森田将義

「俺がボールを持った時に注目しておいてください」と自信たっぷりに口にするのは、阪南大のFW山口拓真(4年=西武台高)だ。兄・山口一真(現・水戸)同様、見る人の想像を上回るアイディア溢れるプレーが持ち味で、左右両サイドから繰り出すカットインからのシュートの正確さ、ゴール前での落ち着きは他の選手とは明らかに違う。見落とされがちだが、負けん気のスイッチが入った時の運動量の多さと攻守の切り替えの速さも一級品だ。

 天賦の才を持った関西屈指のタレントだが、これまではメンタル面での甘さが見え隠れしていたのも事実だ。「大学に入るまではセンスだけでサッカーをやってきたと思う。努力しなくても活躍できるし、プロにもなれると甘い考えを持っていた」。阪南大に入った1年目も、兄とAチームでの共演を果たすなど順調な大学生活を送っていたが、2年目以降は精神的な甘さやケガもあり、Aチームでの出番は減少していく。指導者から課題を指摘されても、真に受けず聞き流していた。山口は「すぐキレるし、周りに文句言ってばかり。甘さだらけで、後悔はかなりあります」と振り返る。

 それでも、ポテンシャルの高さは多くの人が認めている。今年に入ってからは関西選抜の一員として、Jクラブとの練習試合を経験。J2の練習参加も経験したが、初めての壁にぶつかった。「プロ相手にスピードや技術では劣っていなくても、身体つきがパッと見てまったく違って、最後の所でやり切れなかった。大学生相手なら2人くらい余裕でかわせていたのにプロが相手だと1人かわせても、2人目で止められる。それがめちゃくちゃ悔しくて身体を鍛えたり、もっと練習しないとダメだと気付いたんです。プロになりたい以前に、サッカー選手としてもっともっとエグくなりたいって」。

「尊敬はしているけど、ライバルだと思っているので負けたくない。小さい頃から『兄貴の方が凄いな』とか『兄貴なら決めていたな』と言われる度に、負けられないと思っていた」と評する兄・一真が鹿島で出場機会を増やせなかった事実も、このままではいけないという危機感に繋がっているという。

 自らの甘さに気付いてからは、チームが取り組む初動負荷トレーニングを熱心に励み、肉体改造に着手した。そうした成果もあり、今では体重が5kgもアップ。特に上半身は明らかに筋肉量が増しており、プレーの力強さが増した。変化はピッチ外にも及び、これまでは明らかに勉強に取り組む態度も違っているという。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、アピールの場として意気込んでいたデンソーカップや関西学生リーグの前期が中止となったが、「落ち込んでいる暇はない。落ち込んでいるくらいなら、リーグが再開した時にもっとエグい選手になるための時間に使おうと思った」と前を向き続けるのも成長と言えるだろう。まだまだ甘さも見え隠れする瞬間はあるが、今年は飛躍の一年になりそうだ。

「親元を離れて阪南に入る時から絶対にプロになると決めていたのに、大学4回生になっても未だに決まっていない。ラスト1年は、自分の足りない所を磨いてトレーニングしているので、その成果を出したい。プロになるのがゴールではなく、プロで活躍する選手になれるまでなりたい」。そう意気込む彼の活躍を多くの人が待ちわびている。

執筆者紹介:森田将義(もりた・まさよし)
1985年、京都府生まれ。路頭に迷っていたころに放送作家事務所の社長に拾われ、10代の頃から在阪テレビ局で構成作家、リサーチとして活動を始める。その後、2年間のサラリーマン生活を経て、2012年から本格的にサッカーライターへと転向。主にジュニアから大学までの育成年代を取材する。ゲキサカの他、エル・ゴラッソ、サッカーダイジェストなどに寄稿している。

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