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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史

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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:ナンバー10の継承者(実践学園高・土方飛人)
by 土屋雅史

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 キャプテンで、10番で、センターバック。『心で勝負』をスローガンに掲げる実践学園高では、その年の最も心で勝負できる選手が、この3つの条件を託されてきた。そして今年、また新たな男が逞しいリーダーとして、このチームを牽引している。「いちサッカー選手としても“10番”は大きな番号だと思うので、嬉しいなとは思いますけど、プレッシャーは多少ありますし、まだ歴代のキャプテンには追い付けていないので、まだまだ成長していきたいです」。実践学園が誇る、伝統のナンバー10の継承者。DF土方飛人(3年)の人間力、既に圧倒的。

 ピッチを見れば、おそらく一目でこの男がチームの中心だとわかってしまう。「自分はそこまで足元は上手くないですし、ヘディングもそこまで強くはないですし、自分が出せる所はリーダーシップしかないと思っているので、チームを引っ張っていくことは常に考えています」。黄色いキャプテンマークを左腕に巻き、常にチームメイトを鼓舞し続ける。

 関東大会予選では準決勝でも、決勝でも、センターバックでコンビを組むDF秋元朝陽(3年)と醸し出していた“鉄壁感”はかなりのもの。國學院久我山高と対峙した決勝の前半36分。完全に抜け出した相手フォワードに対して、土方が諦めずに全力で後方から走りながら、果敢なスライディングタックルでピンチを完全に回避したシーンは、まさにディフェンスリーダーという称号にふさわしい、圧巻の一連だった。

 5試合を戦い、わずかにオウンゴールで喫した1失点と、驚異的な守備の堅さで東京制覇を成し遂げたものの、土方の口からは次々と反省の弁がこぼれ出る。「正直失点はほとんどなかったものの、相手に打たれているシュート数は結構ありますし、キーパーのファインプレーで防げている点もあるので、ディフェンス陣としてはシュートを打たれないことにもこだわりを持ちたいなと思います」。

「やっぱり全国の壁はまだまだ高いと思いますし、この程度で満足しているようでは、僕たちが1年生の頃から掲げている全国ベスト4は遠い道のりだと思うので、もっともっと頑張りたいと思います」。まさに『勝って兜の緒を締めよ』を地で行くような語り口に、キャプテンとしての自覚と、真剣に仲間と目指し続けてきた目標への覚悟が滲む。

 中学生時代はクラブチームではなく、日野市立七生中サッカー部に所属。3年時には都の中体連選抜にこそ選出されていたが、決して華々しい経歴を引っ提げて実践学園の門を叩いた訳ではない。「1年時から中体連出身とかは関係なく、3年生の試合にも食い込んでやろうという気持ちでやってきた」ものの、実際には昨年もAチームでコンスタントに出場機会を得るまでには至らなかった。

 ただ、努力を積み重ねられる才能は間違いなくあった。深町公一監督はあるエピソードを懐かしそうに振り返る。「いろいろな意味でコツコツやってきた選手なので、たとえば1人でずっとスライディングの練習をしていたこともありましたね。普通は練習が終わった後に、外で何度も何度もスライディングの練習なんかしませんよ。そういうふうに自分で課題を持ったら。それを積み重ねていける努力家ですね」。

 入学当初は左足も満足に蹴れないような選手だったと指揮官は振り返るが、自身の課題と向き合い、コツコツと努力を積み重ねることで、少しずつ、少しずつ全体の能力値を上げていき、今では誰もが認めるチームの柱になっている。その姿勢を近くで見ているからこそ、チームメイトも彼に付いていく。理想のリーダー像を、この17歳は体現していると言って良さそうだ。

 今年の3年生は、1年時からずっと同じメンバーで切磋琢磨しながら、連携面の進化を図ってきた。特に実践学園の十八番とも言うべき、前から激しいプレスで相手を追い込み、ボールを奪ったら一気呵成にカウンターで攻め入るという形は、関東大会予選でも強豪相手に十分通用していた。

「1年時からチーム全体で追い込んで奪うことは練習してきていて、ここ最近でというよりは、だんだんレベルが上がってきた感じですね。去年もこのメンバーで戦っていましたし、自分たちの個性や持ち味はこの2年間でわかってきたので、そこはやりやすいと思います」。積み重ねてきた練度と、深めてきた絆の両面を繋げるのも、間違いなく土方の役目だが、それを自然とやってしまえるだけの度量が、この男には備わっている。

 飛人と書いて、『はやと』と読む名前には、もちろん両親の大事な願いが込められている。「由来的には飛ぶように跳ねたり、飛ぶように走ったり、どんどん飛躍できるように、という名前です。ありがたい名前を付けてもらいましたし、カッコ良くて気にいってます。土方という名字も含めて、シンプルでいいですよね(笑)」。

 まるで空を自在に飛び回れるかのような素敵な名前だが、実は“あること”が苦手だと明かす。「自分は“空中戦”が少し苦手なので、全体的にはっきりとした強さを求めたいですね。名前には“飛ぶ”が入るんですけど(笑)」。そう言って笑った表情の高校生らしさも、またこの男の魅力かもしれない。

 憧れの選手はレアル・マドリーのDFセルヒオ・ラモス。「キャプテンシーもありますし、土壇場に強くて、そういう所に惹かれますね。決勝でもコーナーからのチャンスが1本あったんですけど、あそこで決め切れる選手が全国でも活躍できる選手だと思うので、そこの精度は上げていきたいです」。スペイン代表のレジェンドを参考にしつつ、まずは自身の足元を見つめていく決意も、また新たに抱え直している。

 キャプテンで、10番で、センターバック。『心で勝負』をスローガンに掲げる実践学園では、その年の最も心で勝負できる選手が、この3つの条件を託されてきた。

 初めて選手権で全国の舞台に立った2004年度は、現在実践学園で指導に当たっている鈴木祐輔コーチが10番を背負ってプレー。2度目の東京代表を勝ち獲った2012年度には、穏やかな風貌の中に闘志を秘めていた10番の鴻田直人が、そして都内四冠を達成した2017年度には、自分の判断で10番こそ固辞したものの、稀有なリーダーシップを発揮していた尾前祥奈が、それぞれセンターバックのキャプテンとして、チームの中心に君臨。また、徳島ヴォルティスで不動のレギュラーとして、J1の舞台で戦っているDF福岡将太も彼らの系譜に名前を連ねている。

 深町監督は、今年のキャプテンに対してこういう言葉でその人間性を絶賛する。「ザ・実践の10番かなと。本当に信頼できる、このチームを引っ張って行ける、学校生活でもすべての面で生徒の模範となれるような男が、たまたま今年はキャプテンで、誰もがアイツが10番だと認めていますし、グラウンドではもちろんですけど、私生活から後輩の面倒も見られて、クラスでもリーダーシップを発揮できるような者なので、まったく隙がないですね。なかなか高校生としては、あそこまでの人間はいないのかなと」。

 ここまで指揮官に言わしめる土方も、「もちろん上手さや強さは追及していきたいですし、技術面でもそうですし、走力もそうですし、サッカーにはすべてのことが必要だと思うんですけど、やっぱり最後は気持ちだと思っているので、『心で勝負』というスローガンは沁みますね」と言葉を紡ぎつつ、最後の1年で成し遂げたいイメージも明確に口にする。

「このチームで全国ベスト4に行くということを意識して、そこに行くためには普段の生活とか、サッカーの質ももちろんそうですし、日常で足りない部分をもっともっと伸ばしていきたいと思います。全国ベスト4は1年時から思っていたことなので、そこは何としても成し遂げたいですね」。

 圧倒的なリーダーシップを武器に、共に定めた目標へ仲間と一緒に向かっていく魂の伝道師。実践学園のナンバー10。土方飛人の人間力、既に圧倒的。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。株式会社ジェイ・スポーツ入社後は番組ディレクターや中継プロデューサーを務める。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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