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神戸アジア8強の立役者は元J3戦士…「僕の良さは人の何倍も走ること」ACLデビュー飯野七聖が獅子奮迅の1ゴール“2起点”

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先制ゴールに喜びを爆発させたMF飯野七聖

[8.18 ACL決勝T1回戦 神戸3-2横浜FM 埼玉]

 J1リーグで首位を走る横浜F・マリノスとの日本勢対決を3-2で制し、ヴィッセル神戸が2年ぶりにアジア8強のステージにたどり着いた。快挙の立役者となったのは、この夏にスター軍団の門を叩いたMF飯野七聖。前半早々の先制ゴールを皮切りに全3ゴールに絡む獅子奮迅の活躍を見せた25歳が鮮やかなACLデビューを飾った。

 まずは前半7分、左サイドでMF汰木康也がボールを奪うと、右サイドハーフの飯野は相手守備陣に先駆けてスプリントを始めた。自慢の脚力でDF永戸勝也を振り切り、ゴール前まで侵入すると、最後は「普段はああいうタイプじゃないけど今日は冷静だった」とチップキックでフィニッシュ。自身も驚く見事なシュートで大事な先制点を奪った。

 続いて1-1とされて迎えた前半31分には、献身的なプレスバックで魅せた。ボールを保持する永戸に後方から近寄ってボールをつつくと、これを受けたMF山口蛍の縦パスからカウンターがスタート。飯野と入れ替わるように右サイドを突破したFW大迫勇也のクロスから、MF佐々木大樹が相手のハンドを誘うシュートを放った。

「一人一人が2度追いをしないといけないし、僕の良さは前に前にというプレーももちろんだけど、チームのために90分走り切って、人の何倍も走ること。その特長をこのチームのためにどう活かせるかというと、ああいうシーンもサボらず戻るとか、そういう細かいことが大事だと思う」。そんな自負が実ったワンプレーが起点となり、獲得したPKで勝ち越しに成功した。

 さらに圧巻だったのは、チーム全体に疲れが見えていた後半35分のプレーだった。左サイドを突破した汰木のクロスボールはファーサイドに流れてしまったが、そこで飯野は猛烈なスプリントでボールにアプローチ。やや緩く追っていた永戸と入れ替わる形でボールを取り切り、MF小田裕太郎の3点目につなげた。

「本来であればブロックを引いて守りに入っても良い時間だったけど、相手がマリノスというのもあって力のあるチームだとすごくわかっていたので、1点のリードじゃ不安だった。このままじゃ終わらないという気持ちもあったので、前に前にという気持ちでプレスに行った」。恵まれたスプリント能力と、貫いた献身性。そうして奪った1点が決定打となり、チームは準々決勝進出を決めた。

 この夏にサガン鳥栖からの完全移籍を決断し、神戸加入後わずか1か月での大仕事。左サイドにDF酒井高徳を擁するスター軍団において、右に飯野が加わったことが、サイド攻撃に大きな迫力をもたらしている。飯野自身も「加入するまでは左に偏った攻撃がすごく多いというのもあって神戸が声をかけてくれたのもあるし、このチームで求められているのはそれ一つだと思う。それをブレずにやっている」と役割には迷いがない。

 特にこの日の相手の横浜FMは、アグレッシブなプレスを持ち味とするチーム。その強みは見事にハマった。「エウベル選手があまり下がってこないのは分析でわかっていたし、マリノスは4バックで4人でスライドを頑張るチーム。中に大迫選手がいるのもあって、なかなかサイドまでスライドするのは難しいと思っていたので、できるだけサイドに張って、逆サイドの高徳選手が持った時に一発でこっちに展開して1対1で仕掛けるシーンを作ろうという話をしていた」。そんな狙いは試合を通じて脅威を与え続けた。

 そうした戦術眼は、これまでのサッカー人生で培ってきたものが活きているという。飯野は国士舘大卒業後、J3の群馬でプロキャリアをスタートし、J1までステップアップしてきた苦労人。「スタートはJ3だったけど、昔から自分の強みは変わらずに貫いてやってきた。いろんなチームを経験して、とくにサガン鳥栖では自分の良さをどう活かせるかとか、相手のシステムがこう来るから僕たちはこうして行こうとか個人戦術が磨けたので、そういう経験がいまにつながっている」。この日の試合後には、そんな自らのバックグラウンドも誇った。

 着実にステップアップを遂げ、たどり着いた神戸の地。日々の練習では元スペイン代表のMFアンドレス・イニエスタから「クイックな抜け出しとかでパスを出してくれるし、今よりもっとむちゃくちゃ走ればパスが出てくる印象がある」と刺激を受け、日本代表FW大迫勇也からは「ゴールを取るための嗅覚は、クロスを上げるタイミングでもうすごいなと感じるところがある」と学びを深めているという。

 「このチームには代表を経験してきたすごい選手がたくさんいるし、僕自身、鳥栖から来る時も彼らからいろんなことを吸収して、もっと個人としてすごい選手になっていきたいという思いで神戸に加入したのも理由の一つ」という飯野にとって、神戸での日々は充実したものになっているようだ。

 とはいえ、周囲に居並ぶスター選手たちとは裏腹に、自身のキャリアについては冷静な見方を崩さない。「僕は高みを一気に目指すというより、一つ一つ確実にインパクトを残して駆け上がってきたので、しっかり地に足をつけて頑張りたい」。いま考えているのは自身のことよりチームのこと。鮮烈なACLデビューを果たした25歳は「一つ一つどの相手でも自分の良さを出していくことが評価につながると思うのでこれを続けていきたい」と静かに前を見据えていた。

(取材・文 竹内達也)
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