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“風間流”改革は始まったばかり…クラセン制覇もC大阪U-18島岡監督「もっと前に進まないと世界と戦えない」

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「初めて」という胴上げをされる島岡健太監督

[8.3 クラブユース選手権決勝 C大阪U-18 3-1(延長) 横浜FMユース 正田スタ]

 風間八宏氏の技術委員長就任から2年目の夏、急速に改革を進めてきたセレッソ大阪U-18が全国クラブユースの頂点に立った。昨季の高円宮杯プレミアリーグは開幕7連敗からのスタート。改革への道のりは決して順風満帆ではなかったが、風間氏の代名詞である「止める蹴る」に象徴とされる個人技術の向上に特化してきた桜の戦士たちが13年ぶりの夏の栄冠を手にした。

 決勝戦の試合後、島岡健太監督はこの取り組みを支えたクラブへの感謝を口にした。
「クラブが本当に後ろに立ってくれているというか、背中を押してくれている。自分たちがやろうとすること、トライすることを我慢強く見守ってくれたのが僕らにとってありがたかった」。この大会中にも“トライ”の姿勢は随所に見られた。

 横浜FCユースを1-0で破った準決勝を終えた島岡健太監督は次のように話した。「自分で言うのもなんですけど、選手個人、スタッフ、勝利、いろんなものを追いかけながら結果が出ると言うのはちょっとすごいことなんじゃないか」。その言葉の裏にあるのはC大阪U-18のフィロソフィー。目の前の大会で結果を残すことではなく、「個人の成長」にこだわってきた自負だった。

 たとえば今大会、C大阪のトップチームに帯同しているU-18年代のFW北野颯太(3年)とMF石渡ネルソン(2年)は登録メンバーを外れていた。またエースのFW木下慎之輔(3年)もブラジル留学のため大会から途中離脱。いずれも高校年代の試合でプレーするよりも、それぞれに合った場所でのキャリアアップを優先した形だった。

 またそうした取り組みはコーチングスタッフにおいても同様だった。プレミアリーグで指揮を執る島岡監督はベンチの最前線に立たず、「GKコーチではなくコーチにならないといけない」という狙いのもと、かつて川崎FなどでGKを務めた相澤貴志氏が実質指揮を担当。現在進行中の改革の地盤をさらに強固なものとすべく、そのロードマップ上に今大会が位置付けられていた格好だ。

 それでもC大阪U-18は結果を出した。準決勝、決勝と試合を支配しながらも決め切れない時間が続き、いずれも勝負を決めたのはセットプレー。相澤コーチが「あれだけチャンスを作り出していて、最後のところで足が合わないとか、止め切れないとか、打つのも時間がかかったりとか、そこのクオリティーに尽きる。それで試合を苦しくした」と渋い表情で振り返ったように、決して理想どおりの戦い方ではなかったが、猛暑の連戦トーナメントを勝ちきるタフさが光った。

 昨季から出場機会を得ていた主将のDF川合陽(3年)はその要因について「ここに来られていないメンバーもいて、その人たちからもメッセージをもらっていて、優勝するしかないと全員で話し合っていて、優勝への全員の矢印が強かったことがこういう結果につながった」と表現。「トーナメントというなかなか味わえない雰囲気で、負けたら終わりとなることで、自然と自分たちから『こうしてほしい』と要求するようになった」とチームづくりの跡を振り返った。

 川合はコロナ禍でチームミーティングの機会が限られる中、監督・コーチの指示を待たず、ホテルの駐車場などを使って話し合いを敢行。その姿を見た相澤コーチも「話している内容はどうこうはあるけど、そこは自由にやったらいい」と任せ、「選手たちに主体性を持たせてやったほうが得るものは多いと思ったし、本当に1試合1試合重ねるごとに『自分たちで』という意識が強くなっていった」と信頼感を明かした。

 また単に“団結力”と称される漠然とした要素だけではなく、島岡監督は「タフな中で大会を通じて戦う技術がついてきた」と振り返った。「ただ単に走るだけじゃなく、ここでやられたらいけないところを押さえられた。それは守備というよりも“ボールの価値”だと思う。ボールを持つだけじゃなく、試合に勝たせる中で必要となる要所の部分。そこが一人一人ちょっと身についた部分があったのかなと思う」。“止める蹴る”に代表されるボールプレーの技術だけでなく、試合を運ぶための技術もあると前向きに捉えた。

「ただ単に綺麗なことばっかりじゃなく、綺麗じゃなくて闘うんだということ。そのための技術。ボールを扱うのも、点を取るための技術。サッカーはそもそもそうで、ボールを取られないためだけのことをしているとゴールに向かわない」。この日、ゴールに結びついたセットプレーについても「それもサッカーの一つ。蹴る技術も、合わせる技術も、技術は技術」と指摘。たくましい戦いぶりを見せた選手たちの姿に技術の存在を見出した。

 かといって、最も大事にしてきたものから視線をそらすことはない。「優勝して結果を出せた中でも、今日のゲームでももっともっと磨かないといけないところは明確にあった。前半のうちに勝負を決められるようなシーンもあったし、そういう意味で一人一人どこができていないかは目が揃っている」(島岡監督)。時間と場所を浪費しないことを「速さ」と定義づけ、全選手が「速さ」と向き合いながら鍛錬を重ねている中、そこでのトライにはさらに高いハードルを突きつける。

「(優勝という結果が出たことによって)こういうことを続けていけばこういうふうになっていくんだという自信はみんな持てていると思う。ただ、足りないところに目を向けられるか、どれだけ突き詰めて自分を磨き続けられるかは、これからもっとハードルが上がってくると思う。そこに挑めるかどうかがわれわれにまた試されるところであり、これからの楽しみ」

「もっとゲームの流れの中で無駄を省いていかないと、クラブが目指す圧倒的な個人というところではまだまだ世界にほど遠い。優勝したことは喜んで、次に向かってもう一歩も二歩も前に進まないと世界と戦えない。もっと前に進まないといけない」

 そう力を込めた島岡監督は「今日はちょっと笑ってますけど、明日からまたダメ出しばっかりします。それだけ時間使ったらせっかくの貯金を……という話をいっぱいしようかなと」とニヤリ。タフにトーナメントを勝ち切った収穫と、妥協を許さない技術への姿勢——。夏のビッグタイトルを獲ってもなお、C大阪U-18はさらなる高みを見据えていた。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】第46回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会

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