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後半ATの劇的同点弾から9人目までもつれ込むPK戦で粘り勝ち!「群馬ラウンドの代表」川崎F U-18は確かな実力者・福岡U-18を撃破して初の決勝進出!

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川崎フロンターレU-18は激闘をPK戦で制して初の決勝進出!

[7.29 クラブユース選手権(U-18)準決勝 川崎F U-18 1-1 PK9-8 福岡U-18 味の素フィールド西が丘]

 誰ひとりとして諦めていなかった。いや、諦められなかった。同点に追い付くことも、この試合に勝つことも。あれだけいろいろなことが起きた真夏の群馬を、みんなで駆け抜けてきたのだ。まだまだこの時間を終わらせたくない。最後に笑うのは、絶対にオレたちだ。

「今年の選手たちは『何かをやってくれる』と凄く信じられる部分があって、群馬で起きたこともまだ信じられないところもありますし、彼らは凄い力を持っているなと思っています」(川崎フロンターレU-18・長橋康弘監督)

 執念のPK戦勝利で決勝進出!第48回 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会は29日に準決勝が行われ、味の素フィールド西が丘で川崎フロンターレU-18(関東4)とアビスパ福岡U-18(九州1)が激突した一戦は、後半23分にMF中村環太(2年)のゴールで福岡U-18が先制するも、川崎F U-18は40+3分にDF土屋櫂大(3年)のゴールで追い付くと、最後はPK戦を9-8で制して、ファイナルへと駒を進めている。


「前半が受け身になったことが悔しいですね」と福岡U-18を率いる久永辰徳監督も話したように、最初の40分間は川崎F U-18が攻勢に出る。12分にはMF児玉昌太郎(3年)のパスから、MF加治佐海(3年)が少し運んで打ったシュートは枠の上へ外れたものの、ファーストシュートを記録。以降もMF楠田遥希(2年)とMF矢越幹都(3年)のドイスボランチを軸にボールを動かしながら、テンポアップのタイミングを狙い続ける

 16分にスタンドを沸かせたのは、福岡U-18のストライカー。FWサニブラウン・アブデルハナン(3年)を起点に、センターライン付近でボールを収めたFW前田一翔(3年)は、そのまま右から左へ単騎で力強く独走。フィニッシュは枠の左へ外れたが、3試合連続得点中のエースがその実力の一端を見せ付ける。

 18分は川崎F U-18。MF知久陽輝(3年)が左へ流し、児玉のクロスにこちらは4戦連発中のFW恩田裕太郎(2年)が頭で合わせるも、軌道はクロスバーの上へ。37分も川崎F U-18。DF柴田翔太郎(3年)の左CKから、こぼれを叩いたDF林駿佑(2年)のシュートは枠の上へ。前半はスコアレスで終了する。


「ハーフタイムには『守るだけではなくて奪う』というところを改善しましたね。『アレはちょっと僕らが求めているものではないよね。この舞台を経験できるのもあと40分だぞ』と選手たちには言いました」(久永監督)。指揮官の檄を受けて、福岡U-18の選手の心に勇気の灯がともる。

 12分。DF藤川虎三(1年)が縦パスを付けると、運んだ前田がマーカーを外して左足で放ったシュートは、川崎F U-18のGK松澤成音(2年)がファインセーブ。13分。右サイドでMF楢崎佑馬(3年)が粘って残し、DF池田獅大(3年)が打ち切ったシュートも松澤がセーブ。16分。左サイドをぶっちぎったMF武本匠平(1年)のクロスに、飛び込んだ中村のヘディングは左ポストを叩き、詰めた前田のシュートはここも松澤のビッグセーブに阻まれるも、「後半は選手が勇気を持って、怖がらずに前に出ていったところが良かったですね」とは久永監督。ペース反転。攻める福岡U-18。守る川崎F U-18。

 若蜂の狂喜は23分。左サイドからDF小浦拓実(2年)がクロスを上げ切り、相手のクリアをDF甲斐竣大(3年)が頭で跳ね返すと、そのこぼれに反応した中村は右足一閃。カーブを描いた軌道は、ゴールネットへと吸い込まれる。2年生ボランチの鮮やかな先制点。福岡U-18が1点のリードを奪う。



「少し全体の運動量が落ちてきたので、システムを変えて、カウンター狙いというところでも頑張ってやってくれましたね」と久永監督が言及したように、アドバンテージを手にした福岡U-18は4-4-2から5-4-1にシフト。ハッキリとした狙いを携えて、残された15分間に向かっていく。

 追い込まれた川崎F U-18は攻め続ける。29分。MF平塚隼人(2年)、林と繋いだボールをFW香取武(3年)が枠へ収めたシュートは、福岡のGK足立陸矩(3年)が何とかキャッチ。30分。香取とのワンツーから柴田が上げたクロスに、飛び込んだMF平内一聖(2年)の決定的なシュートは枠の上へ。35分。平塚のパスから香取が打ち切ったシュートは、甲斐が身体でブロック。ガッツポーズに気合がみなぎる。

 37分。左から平内が入れたクロスに、香取が合わせたヘディングは枠を襲うも、足立が丁寧にキャッチ。「自分たちの今季は、最後のクローズに入ったところは失点なしで守れていたので、自信は持っていました」とは福岡U-18のキャプテンを務める池田獅大。アディショナルタイムの掲示は4分。試合はほとんど終わりかけていた。

「なんか今日は『まだ追い付けるな』という自信しかなかったんです」(土屋)。40+3分。右サイドで香取からのパスを受けた柴田が切り返した瞬間、2人のイメージは完璧に共有される。「柴田がボールを持った時に、『絶対ここに来るな』と思った」という土屋はニアへ走り込むと、柴田が左足で蹴り込んだクロスがピンポイントで届く。

「柴田のボールが良かったとしか言えないです。自分がボールを触った時は、本当に無意識でした」。土屋が頭に当てたボールは、左スミのゴールネットへゆっくりと飛び込んでいく。「選手たちは本当に自信を持って自分たちのサッカーをやり通してくれたので、結果的にああいう点が生まれたのかなと思っています」とは長橋監督。1-1。土壇場でスコアは振り出しに引き戻され、決勝進出の行方はPK戦へと委ねられることになる。


 迎えたPK戦の主役は、川崎F U-18の2年生守護神だった。両チームのキッカーがゴールを決め続け、とうとう9人目へと突入。先攻の川崎F U-18はきっちりゴールネットを揺らすと、松澤は「敵と戦うというよりは、『しっかり自分自身と戦って止める』ということだけに集中していました」と気合を入れ直す。福岡U-18の9人目。キックは中央。左へ飛んでいたが、懸命に伸ばした右足がボールを弾き出す。

「8本ぐらいまで行ってしまって、早く止めてあげないと、蹴る側もキツいと思うので、『止めなきゃ、止めなきゃ』という部分はありましたけど、冷静さを持って、しっかりボールを最後まで見て止めることができました」。松澤もチームメイトも、サポーターが陣取るゴール裏へと駆け出していく。

「PKが始まる前も始まってからも勝つ自信しかなかったので、成音が止めることを信じて、『楽しんで蹴ってこい』と自分が蹴った後にみんなに伝えられたので、みんなが信じて蹴れたことが、勝利という結果に繋がって良かったと思います」(土屋)。福岡U-18の奮戦実らず。川崎F U-18が初めての決勝進出を粘り強く手繰り寄せた。

PKストップで主役をさらった川崎F U-18GK松澤成音


 激闘を終えた試合後。土屋があることを教えてくれた。「昨日PKの練習はしたんですけど、結構な人数が外していて(笑)。まず『PK戦の前に決着を付けよう』という話はしていたんですけど、いざPK戦になってみると、追い付いたこともありましたし、本当にベンチを含めて自信に満ちあふれていたので、それがああいう結果に繋がったのかなと思います」。

 その言葉を受けて、チームを率いる長橋監督が話した言葉も興味深い。「確かにPK戦は怖かったです。ウチのチームはとにかくゲームの中で内容で圧倒するということで、トップに繋がるような選手を育てていくというところでやっていますので、ああいう場面になると『PK練習をもっとやっておけば良かったな』とも思ったのですが、本当に自信を持って蹴ってくれたということと、ゴール裏からサポーターが力を貸してくれました」。9人が蹴って、9人全員が決めるPK戦なんて、そう多く見られるものではない。そんなところにもこの大会の川崎F U-18が纏い始めている勢いが滲む。

 準々決勝までの4試合を戦った群馬ラウンドは、とにかく難しい時間だった。22日のグループステージ初戦は天候不順のため中止となり、その試合が休息日の予定だった24日に組み込まれたため、結果的にグループステージは3日連続での3連戦に。各試合も常にキックオフ時間が変更になる可能性があったため、選手たちはイレギュラーな状況下で、懸命にモチベーションを繋ぎ止める。

 「雷とか大雨もあった中、グループステージで戦ってきた相手のこともそうですし、『みんなの気持ちを今日のこのゲームにぶつけよう』という話はしていたので、それでフロンターレらしいサッカーをこのピッチで表現できたところはありました」と話したのは土屋。思うように試合をできないまま敗退していった他のチームのため、“群馬ラウンド”の代表という意識は、間違いなく彼らの中に備わっている。

 グループステージ最終戦のサガン鳥栖U-18戦では、終盤の15分に4ゴールを集めて、奇跡とも言えるようなグループ突破を手繰り寄せ、この日も後半アディショナルタイムに追い付いて、PK戦の末に過去に2度跳ね返された準決勝の壁も突破した。流れが来ていることは間違いない。松澤はきっぱりとこう言い切った。「まだ何も成し遂げていないので、決勝で勝って、優勝したいと思います」。

 時は来た。もうそれを掴み取るだけ。真摯な日常を積み重ねてきた川崎F U-18が、悲願の日本一を達成するために必要な勝利は、あと1つ。





(取材・文 土屋雅史)

●第48回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)特集

土屋雅史
Text by 土屋雅史

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