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[MOM4793]川崎F U-18DF土屋櫂大(3年)_「『まだ追い付けるな』という自信しかなかった」キャプテンが後半ATに“ホットライン”から執念の同点弾!

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土壇場で同点ゴールを沈めた川崎フロンターレU-18DF土屋櫂大(3年=川崎フロンターレU-15出身)は気合のガッツポーズ!

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[7.29 クラブユース選手権(U-18)準決勝 川崎F U-18 1-1 PK9-8 福岡U-18 味の素フィールド西が丘]

 リードされているチームが、終盤に長身のセンターバックを前線に上げることは、決して珍しいケースではない。実際にこのチームでも、彼は何度もその役割を託されてきていたが、これまでに奏功した試合は1度もなかったという。なのに、その“初めて”をこの大舞台の、この土壇場に持ってきてしまうのだから、それをキャプテンが見せた“執念”という言葉以外で表現することは難しい。

「自分自身こうやって終盤に前線へ駆け上がっても、ゴールを決めることは今までサッカーをやってきた中でなかったんですけど、なんか今日は『まだ追い付けるな』という自信しかなかったので、それがあのゴールという形に繋がったのかなと思います。もう感覚です!気持ちで押し込みました!」

 川崎フロンターレU-18(関東4)のキャプテンを任されている、冷静沈着なセンターバック。DF土屋櫂大(3年=川崎フロンターレU-15出身)はそのボールがゴールネットへ到達するのを見届けると、雄叫びを上げながら、大きなガッツポーズとともに宙を舞った。


 苦しい展開だった。難敵を相次いで退け、勢いに乗るアビスパ福岡U-18(九州1)と対峙したセミファイナル。前半はある程度ボールを動かしながらチャンスも作っていた川崎F U-18は、後半に入ると一気に劣勢を強いられ、そのまま先制点を奪われてしまう。

「自分がみんなに『ちょっと集まって』と言ったんですけど、プレミアでも失点した後は1回チームを集めて、話し合うということはやっていましたし、自分だけではなくて、みんながそう思っていたので、失点した後に円になって、1回落ち着いて話し合いました」。失点直後をそう振り返る土屋は、チームメイトを鼓舞しつつ、改めて残り時間の戦い方を整理する。

 チャンスは作る。でも、決められない。指揮官は決断を迫られていた。「自分たちのサッカーでゴール前まで迫れるシーンもあったので、いつもよりは我慢していました。ただ、『いよいよ時間がないな』というところが来たので、ボランチの楠田(遥希)を後ろに下げて、『行ってこい』と」(長橋康弘監督)。アディショナルタイムは4分。土屋は最前線へと駆け上がる。

 追い込まれた状況にも、不思議と頭の中はクリアだった。FW香取武(3年)が右へ展開すると、DF柴田翔太郎(3年)がボールを受ける。昨年のU-17ワールドカップも一緒に戦った盟友のプレーは、もう全部わかっている。切り返した瞬間に、飛び込むべきコースが視界の中にハッキリと浮かび上がる。

「柴田が左足で切り返した時は、『もう絶対ニアのあそこにボールが飛び込んでくる』と思いましたし、彼を信じていました」。2人の狙いはニアサイド。イメージはシンクロする。柴田が左足で届けた完璧なピンポイントクロスに、走り込んだ土屋の完璧なヘディングが、バウンドしながら左スミのゴールネットへ吸い込まれていく。

「柴田のボールが良かったとしか言えないです。自分がボールを触った時は、本当に無意識でした」。叫ぶ。飛ぶ。噛み締める。まさにホットライン開通。その時間は80+3分。土壇場も土壇場で生まれた、まさに起死回生の同点ゴール。ほとんど終わりかけていた川崎F U-18は、鮮やかに生き返る。



 PK戦は2人目で登場。冷静なキックをゴールへ突き刺すと、今度は少し控えめにガッツポーズ。チームメイトたちのところに戻ると、“後輩”たちにキャプテンらしく声を掛ける。「『自分がもし2年生の時に、3年生になんて声を掛けられたら心を落ち着かせて蹴れるかな?』と考えた時に、『「もう外していいから楽しんで来い」と言われたら嬉しいな』と考えたので、『楽しんで蹴ってこい』ということは伝えられました」。

 迎えた9人目。先攻の川崎F U-18はDF関德晴(2年)がきっちり成功。そして後攻の福岡U-18のキッカーが蹴ったキックは、守護神のGK松澤成音(2年)が右足で力強く弾き出す。

「昨日PKの練習はしたんですけど、結構な人数が外していて(笑)。まず『PK戦の前に決着を付けよう』という話はしていたんですけど、いざPK戦になってみると、追い付いたこともありましたし、本当にベンチを含めて自信に満ちあふれていたので、それがああいう結果に繋がったのかなと思います」。

 そう話した土屋もゴール裏のサポーターとメンバー外の選手たちに駆け寄り、歓喜の抱擁を交わしていく。まさに狂喜乱舞するチームメイトたち。キャプテンが記録した執念の超劇的同点弾が、PK戦の末に手繰り寄せたチーム初の決勝進出を、逞しく演出してみせた。



 今大会は苦闘の連続だった。群馬ラウンドでは試合の延期や日程の変更など、多くのイレギュラーな状況を強いられながら、グループステージ突破を懸けて挑んだ最終節のサガン鳥栖U-18戦では、終盤に4ゴールを積み重ねて、得失点差の末に準々決勝へと勝ち上がる。

「グループステージの鳥栖戦も最後の15分で4点決めていたので、そのことがみんなの自信になっていたというか、『まだまだ全然やれる』という声がみんなから飛び交っていて、まだ笑顔でやれていたので、僕からはそんなに何も言うことなく、みんなが自信を持ってやれていたかなと思います」。チームの確かな成長を実感できたことも、キャプテンは嬉しかったのだ。

 チーム3度目の挑戦で、初めて準決勝は突破した。残された試合は、あとわずかに1つのみ。もう、やるしかない。「過去に2大会、このベスト4で敗れていたというのは自分たちも知っていましたし、それを何としても塗り替えよう、新しい歴史を創ろうということは、本当に試合前からみんな力強く思っていたので、それは嬉しいですけど、まだ何も成し遂げていないので、最後に優勝して、みんなで笑顔で終わりたいなというのが自分の率直な気持ちです」。

 思い描く。みんなと優勝カップを掲げる瞬間を。想像する。サポーターと日本一の“バラバラ”を歌う瞬間を。川崎F U-18をしなやかに束ねる不動のキャプテン。土屋櫂大は確かな覚悟を携えて、最後の1試合のピッチへと足を踏み入れていく。

サポーターに向けてサムアップで応える


(取材・文 土屋雅史)

●第48回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)特集
土屋雅史
Text by 土屋雅史

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