真夏の全国を彩った鮮やかな快進撃!「個を育てる」福岡U-18が見る者に残した強烈なインパクト
[7.29 クラブユース選手権(U-18)準決勝 川崎F U-18 1-1 PK9-8 福岡U-18 味の素フィールド西が丘]
その奮戦に西が丘のスタンドから大きな拍手が送られる。確かな実力を携え、日本一まで駆け上がる可能性を十分に感じさせた、まさにグッドルーザー。アビスパ福岡U-18(九州1)が全国大会で逞しく披露した躍進は、この夏の語り落とせないトピックスだ。
「選手は本当に一生懸命走って、頑張って、力を出し切ったなと思います」。チームを率いる久永辰徳監督も、そう言い切る。クラブユース選手権の準決勝。川崎フロンターレU-18(関東4)との一戦は、とにかく激闘となった。
「もう受け身ですよね。消極的な守備になってしまって、埋めるだけ、消すだけ、ゴールから遠ざける守備でした」(久永監督)。前半は川崎F U-18にボールを動かされ、守備に奔走する時間が続く。キャプテンのDF池田獅大(3年)もその圧力を確かに感じていたようだ。
「自分たちは前からハイプレスに行って、ショートカウンターを狙いつつ、ビルドアップする時はしっかりやって、相手をうまく剥がしていくというのがやりたいことだったんですけど、それができないので、ミドルプレスというか、引いて守ることに切り替えました」。右から池田獅大、DF甲斐竣大(3年)、DF藤川虎三(1年)、DF小浦拓実(2年)で組む4バックを中心に、何とか相手のアタックを1つずつ凌いでいく。
迎えたハーフタイム。指揮官から選手たちに喝が入る。「『守るだけではなくて奪う』というところを改善しましたね。『アレはちょっと僕らが求めているものではないよね。この舞台を経験できるのもあと40分だぞ』と選手たちには言いました」。
ピッチに帰ってきた選手たちは、もう前半の彼らではなかった。明らかに前へのパワーを強めると、12分にFW前田一翔(3年)が、13分に池田獅大が放った決定的なシュートは相手GKのファインセーブに阻まれ、16分にもMF中村環太(2年)のヘディングは左ポストに跳ね返り、詰めた前田のシュートは再び相手GKにストップされるも、惜しいシーンが続く。
「「前半は攻撃の部分で苦手なことを結構やっていたので、それって違うんじゃないかなと。『得意なことをもっとやろうぜ』と。ドリブルが得意な選手がパスをしたり、パスが得意な選手がバックパスしたり、そうじゃなくて勇気を持っていいんじゃないかと、攻撃の部分で良さを出すことを伝えただけで、ガラッと変わりましたね」とは久永監督。強める攻勢。近付くゴール。
23分。スコアが動く。左サイドを駆け上がった小浦が丁寧にクロスを送り込み、いったんはクリアされたボールを、甲斐が頭で弾き返すと、ルーズボールに反応した中村は躊躇なく右足ボレー。弧を描いたボールは、そのままゴールネットへと飛び込んでいく。1-0。福岡U-18が一歩前に出る。
チームは大会を通じて、着実に成長を遂げてきた。グループステージではベガルタ仙台ユース、横浜F・マリノスユース、柏レイソルU-18と難敵ばかりの3連戦を全勝で抜け出し、準々決勝でも清水エスパルスユースに3-2で競り勝っている。
「今回の相手は自分たちより格上ばかりなので、自分たちの生命線の走力だったり、球際だったり、守備の強度というところを出せば、もしかしたら勝てるんじゃないかという形でやってきた中で、それが試合を重ねていくうちにどんどん自信になっていって、『それさえできれば自分たちは優勝できる』という自信の中でやってきました」と話すのは池田獅大。1つ1つ勝利を積み重ねる中で、グループには揺るぎない自信が生まれ始める。
さらにこの日の選手たちを後押ししたのは、会場に詰め掛けた少なくないアビスパサポーターの存在だ。「今日も関東のアビスパサポーターが来てくれて、その大きな声を聞いた時は本当にビックリしたので、その声援の中で自分たちがサッカーできる幸せを凄く感じましたし、配信で見てくれた人たちもたくさんいたと思うので、自分たちのことを応援してくれて、本当にありがたかったです」(池田獅大)。リードを得て、ゴール裏のボルテージも一段階上がる。決勝進出への道筋は、確実に見えていたはずだった。
「自分たちの今季は、最後のクローズに入ったところは失点なしで守れていたので、自信は持っていました。でも、相手はプレミアでやっていて、1人1人の技術が高いので、そこの動き出しの質とクロスの質にうまくやられたなというのはありますね」(池田獅大)。アディショナルタイムに入っていた40+3分。サイドからのクロスをヘディングで流し込まれ、土壇場で同点に追い付かれる。
「最後の5分は守り切るシフトというか、奪うというよりは守るというところに踏み切ってやられたので、チームとしてはやるべきことはすべてやったかなと思います」(久永監督)。9人目までもつれ込んだPK戦の勝者は川崎F U-18。ほとんど掴みかけていた決勝への切符は、最後の最後でその手からこぼれ落ちた。
「自分たちはやらなくてはいけないことをしっかりやれるチームで、プリンスリーグから守備を構築してきて、全国大会でも格上の相手にそれがしっかり出せていた分、最後に失点してしまった悔しい想いは非常に大きなものがあります」。試合後。取材エリアに出てきた池田獅大は、まっすぐな視線で語り出す。
キャプテンがこの大会で一番成長を実感したのは、“勝ち切る力”だったという。「正直、普段はなかなか対戦できないようなレベルの高いチームばかりなので、先制される試合もありましたし、それこそベガルタ戦では1人退場するシーンもあったんですけど、その中でも勝ち切る勝負強さは本当に成長したところかなと思います」。この日はPK戦で決着が付いたものの、80分間のスコアは1-1。気付けばチームは強豪相手にも臆さず、互角に渡り合えるだけのメンタルを身につけていた。
福岡U-18で際立ったのは、それぞれの選手が打ち出す個性だ。とりわけ2トップは強烈なコンビ。前田は川崎F U-18の守備陣を単騎で切り裂き、あわやというシュートを放つなど、常に個の脅威を突き付け続け、FWサニブラウン・アブデルハナン(3年)も圧倒的な走力でピッチを駆け続ける。また、10番を背負うMF楢崎佑馬(3年)も落ち着いたゲームメイクとプレースキックで存在感を発揮した。
さらに1年生アタッカーのMF武本匠平は、年代別代表で世界の舞台も経験している相手のサイドバックをぶっちぎって、クロスを上げるシーンも。「僕もサイドハーフだったので、武本への要求はメチャクチャ厳しいですよ」と笑った久永監督は、自身が携える個の育成への信念をこう続ける。
「もちろん僕のサッカー観もありますけど、クラブのフィロソフィーとして『個を育てる』という部分で、やっぱりプロ選手を育てる機関なので、個人の長所を生かした組み合わせを今シーズンは構築できているのかなと。僕もこのクラブにずっといたので、『こういう選手を育てるべきだな』という考えもある中で、去年からアカデミーに入って、マネジメントグループとも『こういう選手を育成していこう』と話しながら、自分のサッカー観の幅も増えたので、やりがいはありますね。ユースの子たちの成長は面白いです」。
印象的なシーンがあった。川崎Fサポーターの元へ向かった福岡U-18の選手たちは、挨拶を終えるとほとんどの選手がその場を立ち去る中で、池田獅大は最後まで自分たちに送られるエールを聞き届けてから、深々と一礼して、チームメイトの元へと戻っていった。
そのキャプテンの決意が力強く響く。「この大会を経験して、より一層プレミアに上がりたくなりましたし、来年は自分たちの後輩をその舞台で勝負させたいという想いが非常に強くなったので、残りのプリンスも全勝するぐらいの勢いで、守備も攻撃も一段階レベルアップしていきたいと思います」。
真夏の全国大会を鮮やかに彩った、若き博多の男たちの躍動。大きなインパクトを見る者に残した福岡U-18の堂々たる快進撃に、大きな拍手を送りたい。
(取材・文 土屋雅史)
●第48回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)特集
その奮戦に西が丘のスタンドから大きな拍手が送られる。確かな実力を携え、日本一まで駆け上がる可能性を十分に感じさせた、まさにグッドルーザー。アビスパ福岡U-18(九州1)が全国大会で逞しく披露した躍進は、この夏の語り落とせないトピックスだ。
「選手は本当に一生懸命走って、頑張って、力を出し切ったなと思います」。チームを率いる久永辰徳監督も、そう言い切る。クラブユース選手権の準決勝。川崎フロンターレU-18(関東4)との一戦は、とにかく激闘となった。
「もう受け身ですよね。消極的な守備になってしまって、埋めるだけ、消すだけ、ゴールから遠ざける守備でした」(久永監督)。前半は川崎F U-18にボールを動かされ、守備に奔走する時間が続く。キャプテンのDF池田獅大(3年)もその圧力を確かに感じていたようだ。
「自分たちは前からハイプレスに行って、ショートカウンターを狙いつつ、ビルドアップする時はしっかりやって、相手をうまく剥がしていくというのがやりたいことだったんですけど、それができないので、ミドルプレスというか、引いて守ることに切り替えました」。右から池田獅大、DF甲斐竣大(3年)、DF藤川虎三(1年)、DF小浦拓実(2年)で組む4バックを中心に、何とか相手のアタックを1つずつ凌いでいく。
迎えたハーフタイム。指揮官から選手たちに喝が入る。「『守るだけではなくて奪う』というところを改善しましたね。『アレはちょっと僕らが求めているものではないよね。この舞台を経験できるのもあと40分だぞ』と選手たちには言いました」。
ピッチに帰ってきた選手たちは、もう前半の彼らではなかった。明らかに前へのパワーを強めると、12分にFW前田一翔(3年)が、13分に池田獅大が放った決定的なシュートは相手GKのファインセーブに阻まれ、16分にもMF中村環太(2年)のヘディングは左ポストに跳ね返り、詰めた前田のシュートは再び相手GKにストップされるも、惜しいシーンが続く。
「「前半は攻撃の部分で苦手なことを結構やっていたので、それって違うんじゃないかなと。『得意なことをもっとやろうぜ』と。ドリブルが得意な選手がパスをしたり、パスが得意な選手がバックパスしたり、そうじゃなくて勇気を持っていいんじゃないかと、攻撃の部分で良さを出すことを伝えただけで、ガラッと変わりましたね」とは久永監督。強める攻勢。近付くゴール。
23分。スコアが動く。左サイドを駆け上がった小浦が丁寧にクロスを送り込み、いったんはクリアされたボールを、甲斐が頭で弾き返すと、ルーズボールに反応した中村は躊躇なく右足ボレー。弧を描いたボールは、そのままゴールネットへと飛び込んでいく。1-0。福岡U-18が一歩前に出る。
チームは大会を通じて、着実に成長を遂げてきた。グループステージではベガルタ仙台ユース、横浜F・マリノスユース、柏レイソルU-18と難敵ばかりの3連戦を全勝で抜け出し、準々決勝でも清水エスパルスユースに3-2で競り勝っている。
「今回の相手は自分たちより格上ばかりなので、自分たちの生命線の走力だったり、球際だったり、守備の強度というところを出せば、もしかしたら勝てるんじゃないかという形でやってきた中で、それが試合を重ねていくうちにどんどん自信になっていって、『それさえできれば自分たちは優勝できる』という自信の中でやってきました」と話すのは池田獅大。1つ1つ勝利を積み重ねる中で、グループには揺るぎない自信が生まれ始める。
さらにこの日の選手たちを後押ししたのは、会場に詰め掛けた少なくないアビスパサポーターの存在だ。「今日も関東のアビスパサポーターが来てくれて、その大きな声を聞いた時は本当にビックリしたので、その声援の中で自分たちがサッカーできる幸せを凄く感じましたし、配信で見てくれた人たちもたくさんいたと思うので、自分たちのことを応援してくれて、本当にありがたかったです」(池田獅大)。リードを得て、ゴール裏のボルテージも一段階上がる。決勝進出への道筋は、確実に見えていたはずだった。
「自分たちの今季は、最後のクローズに入ったところは失点なしで守れていたので、自信は持っていました。でも、相手はプレミアでやっていて、1人1人の技術が高いので、そこの動き出しの質とクロスの質にうまくやられたなというのはありますね」(池田獅大)。アディショナルタイムに入っていた40+3分。サイドからのクロスをヘディングで流し込まれ、土壇場で同点に追い付かれる。
「最後の5分は守り切るシフトというか、奪うというよりは守るというところに踏み切ってやられたので、チームとしてはやるべきことはすべてやったかなと思います」(久永監督)。9人目までもつれ込んだPK戦の勝者は川崎F U-18。ほとんど掴みかけていた決勝への切符は、最後の最後でその手からこぼれ落ちた。
「自分たちはやらなくてはいけないことをしっかりやれるチームで、プリンスリーグから守備を構築してきて、全国大会でも格上の相手にそれがしっかり出せていた分、最後に失点してしまった悔しい想いは非常に大きなものがあります」。試合後。取材エリアに出てきた池田獅大は、まっすぐな視線で語り出す。
キャプテンがこの大会で一番成長を実感したのは、“勝ち切る力”だったという。「正直、普段はなかなか対戦できないようなレベルの高いチームばかりなので、先制される試合もありましたし、それこそベガルタ戦では1人退場するシーンもあったんですけど、その中でも勝ち切る勝負強さは本当に成長したところかなと思います」。この日はPK戦で決着が付いたものの、80分間のスコアは1-1。気付けばチームは強豪相手にも臆さず、互角に渡り合えるだけのメンタルを身につけていた。
福岡U-18で際立ったのは、それぞれの選手が打ち出す個性だ。とりわけ2トップは強烈なコンビ。前田は川崎F U-18の守備陣を単騎で切り裂き、あわやというシュートを放つなど、常に個の脅威を突き付け続け、FWサニブラウン・アブデルハナン(3年)も圧倒的な走力でピッチを駆け続ける。また、10番を背負うMF楢崎佑馬(3年)も落ち着いたゲームメイクとプレースキックで存在感を発揮した。
さらに1年生アタッカーのMF武本匠平は、年代別代表で世界の舞台も経験している相手のサイドバックをぶっちぎって、クロスを上げるシーンも。「僕もサイドハーフだったので、武本への要求はメチャクチャ厳しいですよ」と笑った久永監督は、自身が携える個の育成への信念をこう続ける。
「もちろん僕のサッカー観もありますけど、クラブのフィロソフィーとして『個を育てる』という部分で、やっぱりプロ選手を育てる機関なので、個人の長所を生かした組み合わせを今シーズンは構築できているのかなと。僕もこのクラブにずっといたので、『こういう選手を育てるべきだな』という考えもある中で、去年からアカデミーに入って、マネジメントグループとも『こういう選手を育成していこう』と話しながら、自分のサッカー観の幅も増えたので、やりがいはありますね。ユースの子たちの成長は面白いです」。
印象的なシーンがあった。川崎Fサポーターの元へ向かった福岡U-18の選手たちは、挨拶を終えるとほとんどの選手がその場を立ち去る中で、池田獅大は最後まで自分たちに送られるエールを聞き届けてから、深々と一礼して、チームメイトの元へと戻っていった。
そのキャプテンの決意が力強く響く。「この大会を経験して、より一層プレミアに上がりたくなりましたし、来年は自分たちの後輩をその舞台で勝負させたいという想いが非常に強くなったので、残りのプリンスも全勝するぐらいの勢いで、守備も攻撃も一段階レベルアップしていきたいと思います」。
真夏の全国大会を鮮やかに彩った、若き博多の男たちの躍動。大きなインパクトを見る者に残した福岡U-18の堂々たる快進撃に、大きな拍手を送りたい。
川崎Fサポーターのエールを最後まで聞き届ける池田獅大。キャプテンらしい堂々とした振る舞いだった
(取材・文 土屋雅史)
●第48回日本クラブユースサッカー選手権(U-18)特集